『ゴッホは殺されたのか : 伝説の情報操作』 小林利延著(朝日新書)朝日新聞社

「さまよえる画家」、「炎の人」、ゴッホ。さまざまな伝説をもつ彼に浮上した、新たな姿とは?彼を支えてきた弟テオとの関係や女性問題を、唯一純正な資料『ゴッホの手紙』を基に、斬新な角度から読み解く。そこから浮かび上がるどんでん返しの結末とは…。この一冊で、従来のゴッホ伝説が根底から覆る。 (Amazon.jp)



BSで放送されていた「ゴッホ 最後の70日 ~ひまわりの画家はあの日殺されたのか?」という番組を見るともなしに見始めたらたいへんおもしろかったので、その元ネタ(?)になったっぽいこの本も読んでみることにしました。

TVの方はドラマ仕立てになっていて、従来の、「あーゴッホ(兄)? あの人天才だからねー」という見方(だけ)ではなく、弟テオに子どもが産まれたと聞いてはにこにこ大喜びして、青空に力強く枝を張り、すがすがしいような白い花の咲き誇る絵を描きました! という、感受性の鬼みたいな明るさでもって、ゴッホに対してあたたかいまなざしを感じる描かれ方でした。

また、兄弟萌えの方たちが歌って踊って大階段を下りてきそうな勢いの兄弟仲の良さを強調されてきたゴッホ兄弟ですが、「兄弟は他人の始まり」ということばを思わず思い出すような展開に手に汗にぎりましたね。(←コラコラ)そして、世界中いずこも同じだねえと思わずにはいられませんでした。
また、映画『アマデウス』でも描かれた「天才を理解できる秀才の悲劇」を弟テオに感じるような見せ方でした。


ちょうどこの何日かまえにゴーギャンの特集をNHKで見たばかりで、つくづく、「こんな美しいタヒチを目の前にして、これだけ暗い絵を描けるというのも才能なんだろうなあ」と思いました。(内田樹さんが、南の島のような太陽が明るくて暖かいところで死にたいなんて思う人間はまあいない、みたいなことをおっしゃっていましたが、ゴーギャンの暗さは岩をも通す暗さで、ゴーギャンなら「天国に一番近い島」は文字通りの意味にできますよ。天国には行けない気がしますけれども。)

本のほうではそうでもないのですが、TVの方のゴーギャンの描かれ方といったらトホホでした(笑)。

人生で一枚しか絵が売れなかったというゴッホですが、同じ場所を描いたゴーギャンの絵が売れなかったことでゴーギャンはショックを受けたとドラマで描かれます。
「なんでわたしの絵は売れないんだ!?」って、だって、ポールさん、あなたの絵、暗いから。それ、食堂や寝室に飾りたいと思わないから。
ゴッホの絵と並べて比較されるとなおさら「ああ…」と思ったのですが、ゴーギャンの絵は色彩が暗いということもあるけれども、性格の暗さだだ漏れ、人柄がにじみ出ているような暗さを感じます。わざと暗い絵を描いているのではなく、どう描いても暗いというか、どうしようもなく暗さがにじみ出てしまう、そんな印象を、この番組を見て新たに受けました。
暗い絵…例えばベックリンの「死の島」みたいな絵もわたくしは好きですが、ゴーギャンの絵から感じる暗さはわたくしにとっては「つきまとわないでほしい」タイプの暗さです。

…絵っておそろしいですね。ぶるぶる。


本書はまず、従来自殺とされてきたゴッホの死について、不自然な点が多すぎることを列挙します。

・右利きの人間が自分を撃ったのはずなのに、弾丸は左の腰から入って右足の大腿骨の付け根で止まっている、
・本当に死にたかったのならなぜ頭や心臓を狙わなかったのか、、
・撃たれてから歩いて1キロの距離を投宿している宿まで歩いて帰ってきている、
・周りに人がいたにも関わらず、手当てをしなかった、
・凶器(銃)が見つかっていない、
・遺書と言われている手紙は「遺書」とするには弱すぎる、
・死ぬ直前まで将来にたいする希望を失っていない、
などなど。
これらの謎や矛盾点をひとつひとつ検証し、解釈していくプロセスが良質のミステリーのようでたいへんおもしろかったです。

ゴッホが「自分で撃ったんだ」と言い張り、それ以上何も語ろうとしないところから、誰かをかばっていたのではないか?

そして「ゴッホは殺されたのである」と結論し、その犯人は

↓以下、ネタバレにつきもぐります。












弟のテオではなかったのか、と結論付けます。

TVの方ではあまりゴッホ(兄)(以下ゴッホ)の自分勝手さやテオ(ゴッホ弟以下テオ)やヨー(テオの妻)に対するひどいふるまいは描かれませんでしたが、本の方を読むと、テオがどんどん追いつめられていく様がわかるような描かれ方をしています。

あんなに兄の才能を誰よりも愛し、理解していたはずのテオがありえん! と、思うかもしれませんが、そう思わされていたのはテオの妻ヨーが編んだ手紙を典拠としていたのであり、この手紙は真実だけを残したのか再検討する必要があり、そして誰よりも兄の才能を愛し、理解できたからこその悲劇が起きたという説明は非常に説得力があり、自然でした。

残されたヨーは子供もいたこともあって、夫テオがいかに義兄のひどい仕打ちにもけなげに耐えたかということを強調し、手紙だけを読んだ(後世の)人間が「兄弟仲はよかった、特に弟のテオは兄を愛していた」というほうへ誘導されるように、手紙から都合の悪い部分を削除したりしたようなのですが、ヨーの気持ちも人情としてはわかります。身内の恥ということもさりながら、ゴッホもかなりひどいことをテオたちに言っていたのも事実のようなので。

テオは兄の後を追うように33歳で亡くなっているのですが、これは本書が語るように兄を殺した自責の念から早死にしたのかどうかまではわかりません。この時代はめずらしくないことだったようですが、テオは梅毒に罹患していたそうなので。

読み物としてはスリリングでしたが、新しい事実が出てこない限り、すべては「藪の中」ですね…。
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by n_umigame | 2009-09-28 18:40 | | Trackback | Comments(0)

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