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『三幕の殺人』 アガサ・クリスティー著/長野きよみ訳(ハヤカワ・クリスティー文庫)早川書房

引退した俳優が主催するパーティで、老牧師が不可解な死を遂げた。数カ月後、あるパーティの席上、俳優の友人の医師が同じ状況下で死亡した。俳優、美貌の娘、演劇パトロンの男らが事件に挑み、名探偵ポアロが彼らを真相へと導く。ポアロが心憎いまでの「助演ぶり」をみせる、三幕仕立ての推理劇場。新訳で登場。(Amazon.jp)


Yuseumさんのところの記事を拝見して、未読だったのですがこれは読まなくちゃダメかも、と読んでみました。

原タイトルは"Three Act Tragedy"。
これより先に出たアメリカ版では"Murder in Three Acts"、この早川版はアメリカ版がテキストになっているそうです。だから訳題も「三幕の殺人」なのですね。(*注→コメント欄に一部訂正記事ありマス)
アメリカ版とイギリス版では違うオチになっている(?)ため、それぞれをテキストとして訳出された日本語版も、出版社が違うとオチが違う、ということになっていたとのこと。
読み比べてみたかったですが、残念ながらすぐ手に入るのがハヤカワさんだけだったため、こちらで読みました。

で、感想ですが……。
うーん。

↓ 以下、犯人、クリスティのほかの作品、エラリイ・クイーンの某作品のネタバレがあります。ご注意。(一応犯人のところは反転しておきます)









クリスティらしくてさくさくと読めましたが、ちょっとあっけないくらいでした。
途中で犯人がわかってしまったことはまあいいとしても、「あれ、それってわたしの推測通りなんだけど、そんな展開でいいんですか?」という、あまりにも期待通りだったためのあっけなさでした。
動機もクリスティらしいと言えばクリスティらしいです。

本格ミステリと舞台は、どちらも形式を重んじる、約束事があってそれを知っている方が楽しめる、等々共通点があると思うのですが、この作品はかなりそれを意識的に重ね合わせた見せ方となっています。

そして、できれば、あまりミステリを読まない人の方が、この作品は楽しめたかも知れません。
クリスティの作品をある程度読んでしまうと、これは『ABC殺人事件』か『アクロイド殺し』かどっちかな? と邪推しながら読むことになってしまい、結果はこちらだったのか、と、それはわかったけど、アタシ、つまんない…となってしまいました(笑)。
あくまでもクオリティの高い作品が多いクリスティの作品としては、という注付きなのですが。
ほかの作品がおもしろすぎるんですよね…。

元俳優が探偵役、というと、エラリイ・クイーンのドルリイ・レーンシリーズを思い出してしまいます。
(原タイトルが"Tragedy"を含むところもさらに連想を高めている気がします…)
クイーンの悲劇四部作が発表されたのが1932年~1933年。
『三幕の殺人』は1934年だそうですから、クイーンの悲劇四部作とちょうど前後して、出版されたのですね。凶器としてニコチンが出てくるところなど、クリスティはクイーンの作品に触発されて書いたのかな? と思いました。
犯人が「退場する」=「自殺」(をにおわせる)というのも共通しています。(これはものすごく感じが悪いので、使って欲しくない手なのですが、犯人が自白したり罪を認めなければ事件の論理性が客観的に証明できないという、本格ミステリの論理の恣意性に根本的な問題があるため、仕方がないのかな…と、いろいろと読んでいくうちに最近多少割り切れるようになりました。あくまでフィクションの世界においてですが。)

クリスティ自身もお芝居が好きで、おそらく実際に俳優さんに頻繁に会ったりされていたこともあったのでしょうが、「元俳優」というキャラクターの自然な描写という意味では、『三幕の殺人』に軍配が上がります。
ですがこの作品を読んで、「エラリイ・クイーンはやっぱりおたくだわ」(←ほめてます)「おたくは国境も時代も超えるんだわ」(←ほめてますってば)と、改めて思いました。チャールズ・カートライトの毒素なんか、ドルリイ・レーンの狂気に比べたら、気の抜けた炭酸飲料みたいなもんです。
さらに逆に言えば、チャールズ・カートライトは実在してもおかしくないかもしれない、という不安は残りますが。
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by n_umigame | 2009-11-30 17:38 | ミステリ | Trackback | Comments(3)
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Commented by Yuseum at 2009-12-02 21:59 x
にせみさん、こんばんは〜。TBありがとございます!
Yuseumも、ミステリを読み始めて結構初期の頃に読んだから、騙されたんです(苦笑)
クリスティはパターンがあるから、何冊も読むとそのパターンが見えてきて、犯人が分かる、というのはありますね。

Yuseumが読んだのは創元推理文庫の「悲劇」の方でした。
イギリス版とアメリカ版じゃ、動機の部分に違いがあるようで。
http://members.jcom.home.ne.jp/4054323601/memo/060102.html
の下の方に書かれていますが、米版と英版が逆?
それでいて、最終的なオチは両者とも同じみたいです。

今、ハヤカワの「殺人」は手元にあるYuseumですが、創元の方は実家に置いてあるから、今度比較してみよっとε≡≡ヘ( ´∀`)ノ
Commented by n_umigame at 2009-12-02 23:23
Yuseumさん、こんばんは~。
そうなんですよね、クリスティ、本当におもしろいのですが、ミステリを読むという楽しみとしては、真っ白の方がいいかもしれません。
創元版はまだ未読です~。

米版:"Murder in Three Acts"
英版:"Three Act Tragedy"
は、ソースはWikipedia(日本語)だったのですが、英語版でもそうなっていますね。(というか日本語版は英語版からの翻訳記事っぽいですね)
→http://en.wikipedia.org/wiki/Three_Act_Tragedy
BBCのラジオコレクションも"Three Act Tragedy"になっているので、てっきりこちらが英版なんだーと思っていました。
今、読み終わった早川文庫を見たら、邦題は『三幕の殺人』、テキストタイトルは"Three Act Tragedy"になっていました!ガーン。Σ(゚д゚;)
テキスト、どっちやねん!((´∀`)) 邦題から米版がテキストだとばかり思いこんでいました(*´∇`)。
(→つづく)

Commented by n_umigame at 2009-12-02 23:23
(→つづき)

ちょちょっと英語で検索をかけたところ、英語のサイトではUS Titleとして"Murder in Three Acts"としているサイトが多いのかな?という印象でした。
で、せっかくなのでアガサ・クリスティの公式サイトに行って検索をかけましたが、"Murder in Three Acts"では引いてこないですね…。(検索の仕方が悪いのか)"Three Act Tragedy"では引いてくるので、こちらがオリジナル・タイトルなのだろうと思われます。

『そして誰もいなくなった』のタイトル遍歴の例もありますので、アメリカで出したタイトルでイギリスの出版社から出したものもあるのでしょうか??
で、オチは同じなんですね?(笑)
それがわかればありがたいです、ありがとうございます。