『ルポ貧困大国アメリカ II』 堤未果著(岩波新書)岩波書店

 著者の前著『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)が描き出すアメリカ社会の状況に、戦慄を覚えた方も少なくないのではないでしょうか。著者や編集部のもとには、あの続きが読みたいというお便りを数多く頂戴しました。刊行からちょうど2年、第2弾をお届けいたします。

 前著を刊行した2008年の秋、サブプライム・ローン問題に端を発するリーマンショックが起き、経済危機が深刻化しました。若者や高齢者の暮らしはどうなっているのでしょうか。また、昨年1月にはオバマ政権が誕生しました。アメリカの現状をオバマは変えつつあるのでしょうか。

 前著同様、丹念な取材を通して浮かび上がってくるのは、教育や年金、医療、そして刑務所までもが商品化され、巨大マーケットに飲み込まれる一方、貧困が拡大し、社会の底割れとも呼べる状況が進行している、そんなアメリカ社会の姿です。今回も、一般のアメリカ人の声をたくさん盛り込み、迫力ある筆致で、アメリカの今をリアルに活写していきます。日本社会の未来を考えるためにも、ぜひ手にとっていただければと思います。(新書編集部 小田野耕明)(岩波書店HP)


経済危機後のアメリカでは、社会の底割れが加速している。職がないにもかかわらず、学資ローンに追い立てられる若者たち。老後の生活設計が崩れ、絶望の淵に立たされた高齢者たち。いまや中間層の没落が進んでいるのではないか。オバマ登場で状況は変わるのか。人びとの肉声を通して、アメリカの今をビビッドに切り出すルポの第二弾。 (Amazon.jp)



今回の章立ては以下の通りです。

第1章 公教育が借金地獄に変わる
第2章 崩壊する社会保障が高齢者と若者を襲う
第3章 医療改革 vs. 医産複合体
第4章 刑務所という名の巨大労働市場

前作より、日本人にとってもより身近なテーマに切り込まれたように思います。

不謹慎を承知で申し上げると、「うまいこと考えやがるな」と。
アメリカの為政者や企業の経営者たちは、なんて悪知恵の働く人たちなんだと思いました。よくこんなあくどいことを思いつき、そして実行できるものです。良心? 羞恥心? そんなもん燃えるゴミの日に出したよ、キミ。わははははは! という高笑いが聞こえてきそうなくらいです。今自分で想像しておいて、めちゃくちゃムカつきました。
問題は、これがジョークでもギャグでもなく、今現在この世界で起きていることだということです。

今回の著書では、第1章から第4章まで、上記のようなテーマで取材されていますが、どれもこれも根底にある問題は同じ。

つまり、何らかの理由で「搾取される側」に転がり落ちる人がいると、延々、一部の人たちがそこから小金を吸い上げて肥え太っていくことができるシステムが構築されているということです。

第4章が一番わかりやすいかと思いますが、第三世界(特に世界で大きな人口比率を占める中国やインドなど)が”経済発展”を遂げてきている現在、もうそこに人件費減らしのために外注に出し続けていては儲からない。
だったら、自国で「安い賃金でこき使える人手」を生産すればいいんじゃない? と、刑務所を民営化し、労働市場にしてしまう。

「窃盗などの比較的軽い罪で服役する」→「刑務所で借金がなかった人まで借金ができる(歯ブラシなど必需品もお金を取られるため)」→「出所する」→「前科もあり、不況もあってどこも雇ってくれない」→「ホームレスになる」→「ホームレスの取り締まりが厳格になっている」→「教会やNPOが炊き出しを出せない」(違法として警察に検挙される)→「おなかがへる」→「菓子パン1個万引きする」→ふりだしに戻る

という、無限すごろくになってしまうという。
また、これが、ホームレスや、一定数以上の炊き出しを配布すると違法になるという、法律の厳正化によって、当局が手を貸しているから始末に悪いです。

ある例では、刑務所での時給は1ドル45セント。ただしこれは上限昇給額で、しかもここまで達するのに7年半かかるといいます。
コールセンターのクレーム処理係などは、かつてはインドなどに外注していたが、訛りがひどくて問題の解決にならない上、クライアントを怒らせてさらにクレームを招くという悪循環だったが、これを国内の囚人にやってもらえば、彼らはアメリカ英語ぺらぺら。
「インド人がいないならアメリカ人にやらせればいいじゃない?」という、真っ黒なマリー・アントワネット様誕生です。(ちなみに「パンがなければ~」はアントワネット様が言ったんじゃないですが)
世界的に見てもアメリカの異常な囚人の多さは、こういう背景もあったのですね。

細かいところは実際にお読みいただくと、ほかにも、今までどんなSF作家も書かなかったようなディストピアが広がっていることがおわかりいただけるかと思いますが、では、これからわたしたちにできることは何なのか。

 「国とはいったい何なのか? なぜこの国では私たちの税金が、学生より囚人を生みだすために使われているのか? 犯罪を減らす最大の政策は「厳罰化」ではなく、「教育」です。国の仕事は道をふみ外したものを更正させ、健やかな市民として社会に戻すこと、このシステムを作る責任は国にあるのです。問題そのものを一つの市場にして利益を得ることはまちがい以外のなにものでもない。
 アメリカが直面している危機は、金融危機などではなく、人間に投資しなくなったことなのです。」


 「一番こわいものはテロリストでも大不況でもなく、いつの間にか私たちがいろいろなことに疑問を持つのをやめ、気づいたときには声すら自由に出せない社会が作られてしまうことの方かもしれません」


 「国は一、二度の政権交代では変わらない。国民の判断で、その洗礼を繰り返し受けることで初めて、政治も社会も成熟してゆくのです。本当の絶望は、国民が声をあげなくなったときにやってくる。」

 民主主義はしくみではなく、人なのだ。

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Commented at 2010-02-02 10:34 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by n_umigame at 2010-02-02 21:51
イエイエ、連投ウェルカムでございますよ(>▽<)b

こんなアホブログでも少しでも楽しんでいただけるところがあれば、とてもうれしいです!
こちらの方こそ、これからもよろしくお願いいたします。
Commented by YURI at 2010-02-03 10:39 x
この本、本屋で平積みになっていたので買って読みましたが、すごい面白かったです!特に学費が高くなりすぎて学生が借金漬けになってるところは、私の周りに今そういう子が増えてきているので何か怖くなりました。堤さんという方はすごく勇気のある人だと思いました。1も買って読んでみようと思います。
Commented by n_umigame at 2010-02-03 22:10
YURIさま、コメントありがとうございます。
今回の方が前作より読みやすかったですね。
こういう本が売れるということは、やはり、このままではわたしたちの社会はいけないのではないか、という疑問を持つ人が多いという証左だと思います。
本文中で述べられているように、メディアで垂れ流されていることを鵜呑みにせず、「ほんとかな」「そうかな」と疑問を持つということはとても大切なことだと思います。特に声の大きな人、安易なハッピーをうたう人の言うことは要注意だと思っています。
by n_umigame | 2010-02-01 22:32 | | Trackback | Comments(4)

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