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『ロワイヤル通りの悪魔憑き ; (ニコラ警視の事件 3)』ジャン=フランソワ・パロ著/吉田恒雄訳

(ランダムハウス講談社文庫)ランダムハウス講談社

1770年、パリの街は王太子とマリー・アントワネットの成婚を祝う花火大会で大いなる賑わいを見せていた。だが、人と馬車が入り乱れるなか、悲劇が起こる。花火が暴発し、大混乱の末多くの人々が死傷したのだ。使命感に駆られた警視ニコラは惨劇のなかに身を投じる。そして、ある女性の死体に目を留めた。死体がこの惨劇によるものではないと気づいたニコラは調査を進めるが、悪魔に取り憑かれた奇妙な一家に出会い…。 (Amazon.jp)


ドラマで見なければおそらく手を出すことはなかったであろう、ランダムハウス講談社文庫のミステリー。
書店で売場に近づいただけでコージー臭漂うあの雰囲気が今まで苦手でして。
コージー・ミステリと言っても、アガサ・クリスティのミス・マープルのシリーズのようであれば全然OKなのですが、この『ロワイヤル通りの悪魔憑き』巻末広告にある作品を拝見いたしますと、キーワードは「紅茶」であり「コーヒー」であり、ニコラ警視のシリーズも「絶品フランス田舎料理にも注目!」であったり、あとは猫とかお菓子とかをちりばめて、筋だけ聞いてるとそれ新手のハーレ○イン・ロマンス? みたいな?

そんな思い(=偏見)で、ちょっと斜め上目線で読み始めたミステリファンをして「バカにしてましたごめんなさい」と心から謝らせた前2作でしたが、今回は、読みやすくなった分、ミステリとしてはちょっぴり薄味かもしれません。(それを言い出すとドラマもミステリとしてはゲフンゴボッ…失礼、ほうじ茶が気管に入りそうに)

ミステリとしては、ブラウン神父が元祖の超有名なアレ。
「賢い人はどこに樹の葉を隠すか? 森のなかだろう。だが、森がなかったらどうするかな」(@「折れた剣」)
そして中興の祖?修道士カドフェルの『死体が多すぎる』。
そして、『ロワイヤル通りの悪魔憑き』であります。(←強引)

今回はいっきに10年経過。
ニコラも30台の大台に乗りましたが、まだ自分で鏡に写った姿に見とれてやがりますよ可愛いなもう。
あの秀逸なドラマのおかげで、ニコラはジェロームさん、ブルドーはマティアス・ムレスクさん、サルティンはせんだみつおフランソワ・カロンさんでしか思い浮かびませんよ、どうしてくれよう。

「貴官の個人的推測に基づいた脱線はやめ、捜査書簡にある事実に限定するように」
「総監閣下、そうするよう努めておりますが、合理的事実と漠然とした直感、この二者をうまく掛け合わせなければ真実は暴かれないと思います。」

このパリ警察総監ド=サルティンとニコラの会話が端的にあらわしているように、理詰めで、ひとつひとつベールをめくっていくように探偵が仮説と検証を繰り返して謎を解き明かしていくタイプのミステリではなく、ニコラの直感と、誠実な捜査で一人一人の人物像を描き出し、それによって導き出される「解」という構造になっています。
読んでいて、やはりメグレ警視ものを思い出してしまいました。
メグレ警視も理詰めで事件を解決するというよりは、生身の人間のうごうごとうごめく様を繊細な眼で見、心を配り、真相はこうであった、と語られるのですが、もつれていた糸をすぱっと切るように謎が解決してカタルシスを覚えるというタイプのミステリではありません。
なので、逆に言うと、カタルシスを覚えるタイプのミステリがいかにもありえないのに比して、もしかしたらそんなことが起こり得たかもしれないというリアリティがあります。

ニコラ警視のシリーズも、歴史上の虚実を混ぜ合わせた描写になっていることも助けになって、過去こんなことがあったって不思議ではないよな、という作りになっています。
ただやはり基本はエンタテインメントですが。

今回の作品はタイトルどおり「悪魔憑き」が出てきて、エクソシストが登場します。
わたくし、エクソシストが現実に実在するとは近年まで存じませんで、あれは「おはなし」だと思っていたのですが、カトリックの式典にもエクソシストの儀式がきちんと定められていると知って驚いた覚えがあります。
これも何か合理的説明が最後にはなされるのかと思っていましたが、それはそのままで、フランスの人だなあということで納得しておくことにしました。

とは言え、外交官らしい著者の、「異文化への開かれた目」がとても小気味よいです。
ル=グウィンの作品を読んでいるときも同様の気持ちを感じましたが、ル=グウィンさんほどの気負いがなくて(笑)さらっと描かれています。

この作品では、作中、ノーブルクールやその飼い犬のシルスまで年老いて(犬の10年は長い…)、ニコラ自身がいずれ年長者の守りがなくなっていくのだという事実に、愕然とするシーンが出てきます。
また、ラストシーンでは、ナントでとある人物を見送って、いつか海へ出ていく自分を想像してからパリへ引き返したという描写が出てきます。
(今気づいたのですが、ニコラの出身のゲランドってあの塩の名産地のゲランドなんですね。ブルトン人のニコラですが、ケルト系。やっぱりケルト系に黙っていてもはまるのは何か前世の因縁でもあるわけなのかしらワタシ?)

2009年3月に出版された最新作"Le Noyé du grand canal"ではすでに舞台は1788年とか。
いよいよ翌年はフランス革命の年です。
今年の秋にはそのさらに続編が出る予定のようですので、どきどきしてしまいますね。


そう言えば、作中「カルヴァドス」が出てきます。
林檎で作った焼酎でとても強いお酒らしいのですが、メグレ警視がしょっちゅうかぱかぱ(しかも捜査のと中でも)やってるので、軽いお酒なんだと思っていました。メグレ警視どんだけ強いんだ。お昼ごはんはサンドウィッチとビールだし(もちろん勤務中)。
イギリスのドラマを見ていても、捜査中・勤務中にビール飲むなんて平気で出てきますが、あれはいいのでしょうかね~。(クイーン警視はお酒を出されても「勤務中なので」って断ってるよ! まあクイーンパパ、マジメだからなあ…。容疑者にまで「お堅いことで」って皮肉言われたりしてるし…。ま、クイーンパパはそこもいいけどネ☆キャッvvvv)(バカ)

あと、改めて見ると訳者の方がけっこうご年輩の方でびっくりしました。
読んでいてところどころ日本語が「?」と思っていましたが、ああ。と納得しました。
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by n_umigame | 2010-02-22 00:02 | ミステリ | Trackback | Comments(2)
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Commented by 縁側昼寝犬 at 2010-02-23 22:48 x
3巻は読みやすかったですね~。それは前2作に比べて、騙し騙されコンゲーム状態でなかったから?ですかね。コンコルド広場での大混乱が、死体一つ隠すために作られたものだった、とかならまたコリャえらいこっちゃだったのですが、さすがにそこまでは行きませんでした。史実だからかしら。
悪魔憑きはちょっと怖かったです。ニコラの心の負のところにつけこんでくるところなんて、まさに悪魔の得意技って感じでした。
この原作がドラマでどうなるのか、それが楽しみです。(´ー`) やはり煙突シーンもありなんですかね。ジェロームさんが、煤まみれで、ふへへ…。(こらー、涎を拭きなさーい)
Commented by n_umigame at 2010-02-23 23:34
悪魔憑きこわかったですよね!(><;) ネタかと思っていたら最後までマジで、さらにべっくらでございました。(ネタ言うな)カトリックの国だからですかね…。ニコラのみならずセマギュスまでもイタタなところをついてこられてまあ…合掌。(←違)
でも原作を読めたおかげで公式HPのネイティヴ・アメリカンな彼の謎が解けました。
あとはジェロームさんの煙突すすまみれ→行水コースを待つばかりですねっ、ウフフ~ン(^ε^)~♪