得体の知れない怪物を一人称の日記体で描いた、処女短編「男と女から生まれて」。真夜中、喉の渇いた男が水を飲みたいのに、様々な障害からそれが果たせず苦闘する「一杯の水」など16編を収録。異様な世界をご堪能あれ。(Amazon.jp)
プチ・リチャード・マシスン祭り(自分内)です。
『運命のボタン』は比較的バリエーションがあったように思うのですが、こちらは日本独自編成のようで、内容的には、「ザ★パラノイア・コレクション」という印象の1冊でございました…。
…と、思っていたらあとがきによりますと、マシスンは「ミスター・パラノイア」と自称していたそうで、自分公認の正々堂々たる本物さんでした。うひゃー。
作品自体は良いのですが、ところどころ訳文の意味が通らないところや、明らかに誤訳だろうと思われるところ、またこれは訳者の責任ではないかもしれませんが脱字があるところなどが、本として気になりました。
特にあとがきで「改めてその技巧をこらした作品を楽しんでほしい」といった内容で紹介されている『服は人を作る』のラスト1行、一番大事なところで脱字があるとは…もうちょっときちんと仕事してほしいなあと思った次第です。
以下、作品ごとの感想ですが、
ネタバレあります。
『男と女から生まれて』
→アマゾンの紹介文がネタを割ってしまっているのですが、これは深読みするといろいろと考えさせられる作品です。マシスンはそのような作品が多いですね。(特に短篇は)
地下室に鎖でつながれている生き物は人外のものとして描かれていますが、本当に人外のものかどうか、どこで見分けるのか。
手塚治虫先生の『火の鳥 異形編』で、戦乱で傷ついた人々を手当てする八百比丘尼のところへ、だんだん化け物のような姿のものがやってくるのを見て従者の可平はおびえるのですが、八百比丘尼(左近之介)は、深い苦しみを抱えているうちに人も化け物のような姿になることもあるかもしれない、それを人か化け物かどうやって見分けるというのか、と問うシーンがあります。
なんだかこの作品を読み終わって、思い出してしまいました。
手塚先生はもちろんスゴイですが、マシスンもスゴイです。
『血の末裔』
→迷惑な子だなあ。シオドア・スタージョンのあの作品を思い出して軽く食欲不振になりました。
『こおろぎ』
→「ひいいぃぃい、こ、ここで終わるの!?」という、終わり方が秀逸な作品がマシスンは多いですが、これもそうです。
虫とSFって相性がいいのかもしれませんね。虫の顔がだいたい宇宙から来たっぽいもんな。(えええ)
『生命体』
→これもこわい。
「人間が何もしなくても起動する邪悪なもの」、まさしく。
これは犯人が人間だったらふつうの猟奇ミステリですが、アメリカでなぜこういう類似シチュエーションの作品がSFでもミステリでもホラーでも成立するかというと、あの広大な国土が切っても切り離せないということがよくわかる作品でもあります。
シャーロック・ホームズが「ぶな屋敷」でロンドンより田舎の方がこわい、と看破したゆえんでもありますね。
アメリカは「広大な田舎」と揶揄されますが、そういうことなんですね。
『機械仕掛けの神』
→これも現実世界への皮肉や揶揄を感じる作品です。
でも、パラノイア・パラダイス★な作品です(笑)。
『濡れた藁』
『二万フィートの悪夢』
→『運命のボタン』にも収録。かぶるので感想は省略。
『服は人を作る』
→これはちょっぴり筒井康隆風かも。
オチが利いているのですが、極端に服装にかまう人への揶揄でもありながら、最後は
「服が人格を持った」(しかもそれに自分のワイフを取られた)(ということですよね?)というツイストが利いていることにも気づき、うなりました。
『生存テスト』
→2003年が舞台というところが。
「姥捨て山」バッドエンドバージョンです。『運命のボタン』の感想でも触れた『トワイライト・ゾーン』映画版にも同じように、高齢者問題がテーマの作品がありましたが、映画を見た当時わたしはそれがどれほど深刻な問題かということがわかっていませんでした。
時計のシーンが悲しいですね。
『狙われた獲物』
→マシスン自身が複雑な子供時代を送ったそうで、ご両親との関係もとてもむずかしかったようです。
それが、作品として昇華されてはいるものの、やはりマシスンの作品に明らかに影を落としているように思います。
「過保護な母親」というテーマも繰り返し出てきますね。
『奇妙な子供』
→今市子さんの『百鬼夜行抄』にもちょっと似た作品がありました。
小説だからこそできる仕掛けかもしれません。
『賑やかな葬儀』
→「怪物くん」が実写ドラマ化ですって? (藤子先生はもしやマシスン・ファン…?)
『一杯の水』
→水以前に、映画見ながらそんなに食うなって話です。
『生き残りの手本』
→これがほんとの自転車操業。でもいつか絶対破綻することが織り込み済み(笑)。
坂田靖子さんの作品にもちょっと似たような作品があります。(こちらも笑えます)
『不思議の森のアリス』
→ティム・バートンはむしろこれを映画にするっていうのはどうだったのかしら。
『不法侵入』
→いや、不法侵入でなかったら、てゆうか不法侵入と言うより、アンタ、それ……。