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『汐の声』山岸凉子著(山岸凉子スペシャルセレクションII)潮出版社

あなたの側(そば)にもあるかもしれない
こんな恐怖の迷宮(ラビリンス)(帯より)


春の(はからずも)ホラー祭り・第1弾。

先日書店の店頭で、大きな版で山岸凉子さんの傑作集の刊行が始まったことを知りました。
わたくしが見たのは『わたしの人形は良い人形』。
あの、市松人形がこちらをじーーーーっと見ているジャケットの、『わたしの人形は良い人形』。
かの中島らもさんが「あまりの怖さに、読み終わったら押入の奥にしまい込んだ」という、怪作の名高い『わたしの人形は良い人形』です。

そこまで言われたらさすがに怖いなあと思ったのですが、怖がりのくせに怖い話大好き☆という天の邪鬼マインドがまた久しぶりに頭をもたげ、この作品を読んでみることにしました。
もう大人だし(ついさっき大人になったみたいに言わないの)、そんなに怖くないよね! 自分、日本人形見ただけで怖いけどだいじょうぶだよね! と自分に言い聞かせて、でも怖いので事前情報を集めることにしました。

そうしたら、「『わたしの人形は良い人形』も怖いが、『汐の声』のほうがもっと怖い」というではありませんか。

じゃあ、それ。というわけで自分のハードル一段上げてみました。

以下、完全に読んだかた向けのネタバレ満載感想文なので、ご注意下さい。

収録作品は以下のとおりです。


汐の声(しおのこえ)
天鳥船(あめのとりふね)
八百比丘尼(やおびくに)
笛吹き童子
蛭子(ひるこ)








・汐の声(しおのこえ)
→超絶バッドエンド。
山岸涼子さんの作品には、
  「親の呪縛から逃げられなかった女性」
  「自立するために努力しなかった女性」
  「文句ばっかり言っていて自分から行動しない女性」
などなど、自分の運命を切り開くために自分で積極的に戦おうとしない女性に対して、情け容赦のないオチになる作品がけっこう多い気がします。
この作品はいわゆる「ステージママ(とパパ)」、子どもを芸能界に入れてそのギャラにおんぶにだっこで依存している(と思われる)親と、その娘のお話です。
考えたら、順序から言って親が悪いに決まっていると思うのですが、だからあなたは悪くないのよ…という甘ったれた展開にはならない。かといって親の肩を持つわけでももちろんないです。
このクールさがたまんねえと言えばそうなのですが、うっかり気分が下降気味なときに読んでしまうとしばらく浮上できませんね。
こういう作品を読むと、自分がこの主人公だったらどうしただろう…と考えます。
何とかやりようがあったと思うんですよね。それを言ってしまうと話は始まる前に終わってしまうのであれなのですが(笑)、ここまで来る前にもやりようがあると思うし、それでも来てしまったら、これだけスタッフがいるのだから女性のスタッフの中で話を聞いてくれそうな親切そうな人を、一人くらい確保しておくとかですね。

あと、スタッフがわいわいやっているシーンに、例の女の子の首がぽこんと描かれているのがシュールでした。

・天鳥船(あめのとりふね)
→日本神話ベースのSFみたいな。
手塚治虫さんの作品にも、意識不明の少年が手を伸ばしたらお母さんの手で救われた、というお話がありましたが、「心温まる感」が全然違うのはなぜかと考えたのですが、ほかの作品の刷り込みで、親が信用できないんですよね(笑)。手塚先生の作品は「いいお父さん」と「いいお母さん」がとてもはっきりしていて読んでいて安心感がありますが(もちろんそうでない親も出てきますが)、山岸さんの作品はある意味「親」がいちばんやばいです(笑)。

・八百比丘尼(やおびくに)
→リチャード・マシスンのSFみたいな。
捕食関係を逆にした発想がおもしろいです。
この作品の主人公も、はっきり「文句ばかり言っている人」と「人魚たち」に言われていますね。でもだからって異星人に食われてもいいということにはならないと思うんだけど。

・笛吹き童子
→再読でした。
後半はハッピーエンドだけれども、元ネタは説話っぽいですね。

・蛭子(ひるこ)
→アンファン・テリブルもの。これもきっと再読。
それで、なぜ、「蛭子」なのかわかりませんでした。蛭子とは『古事記』に登場する、奇形であるが故に生まれてすぐ親に捨てられた(葦舟に乗せて河に流された)子であることが、作品冒頭でも1シーン入れてあるのですが、だからつまり…?
主人公に対する理由のわからないストーキング行為と、事前に鉄壁のアリバイを張っておく周到さ、春洋(はるみ)の意図がどこにあるのかがさっぱりわからないところに、この作品の怖さがあります。(「だれにも信用してもらえない主人公」という手も多用されていますね)
春洋は絶世の美少年ということになっているので、奇形であるのは精神の方ですよ、ということなのでしょうか。

・鬼
→中編。
とってつけたような理屈っぽいハッピーエンドが山岸さんらしくないなあと思いました。
問題の子が、心優しい、聡明で倫理観の強い子であるというのがやりきれないですね。
読めば読むほど、武田泰淳の『ひかりごけ』を思い出した方も少なくなかったかと思われます。島崎藤村の『破戒』と並んで”二度と読みたくありません・純文学部門ワースト2”にランクインしております。(自分内)
標題の「鬼」とはだれのことなのか。あるいは何のことなのか。

この作品は長年の山岸涼子ファンの間でも賛否が割れたようです。
舞台は東北地方に設定されていますが、日本全国どこでも、歴史上飢饉によってあらゆる凄惨な悲劇が起きたであろうことは想像に難くありません。
かといって、カニバリズムが容易に起こり得たとも思えないのですけれども…特に仏教が浸透している時代には、肉食の禁忌はおそらくとても大きかったでしょうし。
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by n_umigame | 2010-05-06 00:09 | コミックス | Trackback | Comments(0)
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