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『ミステリの女王の冒険:視聴者への挑戦』エラリー・クイーン原案/飯城勇三編(論創海外ミステリ89)論叢社

一九七〇年代半ばにアメリカで放映されたテレビドラマ『エラリー・クイーン』は、『刑事コロンボ』のコンビ、R・レヴィンソンとW・リンクが製作総指揮を務めた本格ミステリドラマである。本書はそのシナリオのうち、英国女流ミステリ作家とエラリーが推理を繰り広げる未制作シナリオの表題作ほか、4本を収録。さらにシリーズガイドと、全23話のエピソードガイドを併録したファン必携の一冊。“シナリオ・コレクション”第6弾。(Amazon.jp)


1975年~1976年にかけてアメリカNBCで放送されたTVドラマシリーズ『エラリー・クイーン』のシナリオ集+解説集です。
製作総指揮は『刑事コロンボ』のリチャード・レヴィンソンとウィリアム・リンクの名コンビ、脚本はピーター・S・フィッシャー(『刑事コロンボ』『ジェシカおばさんの事件簿』)、音楽はエルマー・バーンスタイン(『荒野の七人』『大脱走』『ゴーストバスターズ』『レインメーカー』...)、原案はもちろんエラリー・クイーン、という錚々たるメンバーが製作に携わっていたにも関わらず、シーズン1で打ち切りになってしまったというドラマです。

やっと感想を書くところまでこぎつけました(笑)。
以下、長くなりましたのでもぐります!
特にネタバレなどはありませんが、真白の状態で読みたい&ドラマを見たいという方はご遠慮くださいませ。







作品自体をご覧になったことがない方がけっこう多いのではないかと思われますので、先に作品それぞれの感想より、この著書で知った背景からドラマ自体についての所感を述べさせていただきます。

まずこのドラマのいいところ。
それはやはり、エラリーをおとぼけキャラにしたところではないでしょうか。
エラリー役のジム・ハットン自身が語ったこととして、

「『原作に書かれた通りなら、エラリーは、ユーモアのセンスに欠けたスノビッシュな物知りだ。(略)僕は、そんなキャラクターは視聴者に興味を持たれず退屈だろうと思ったんだ。そこで、演ずるとき、彼を変えてみた。(略)ミスしがちで、繊細さもあるようにね。そして、父親との関係をもっと温かいものにしたんだ。』」
とのことで、この改変はハットンの思惑どおり大成功だったと思います。
見ていて、わたし、このドラマのエラリーだったら好きだということに気がつきました(笑)。

「父親との関係」は原作でもたいがいだと思っておりましたが(笑)、確かにこのドラマのエラリーはとてもいい子で、お父さんの立場もちゃんと考えて動くことが出来る「大人」になっています。原作のエラリーが親の七光りおいしいとこ取りの己の興味の赴くまま行動する「子ども」で、何度もお父さんを免職のピンチに追い込んでいたことを思うと、たしかに「温かいもの」になっています(笑)。このドラマのエラリーだとちゃんと一人前になっているので、お父さんがいつまでもエラリーを子ども扱いするのがギャップがあっておもしろいです。

あとやはり全体的にユーモアのある作風にしたところ、きちんと毎回端正な謎解きミステリドラマとして体裁を整えているところ、「視聴者への挑戦」で挑まれるとあとには引けないタイプの視聴者を巻き込んだところ(笑)、などなどがあると思います。

しかし、最高の食材、最高のシェフ、最高の立地のレストランなのに1年でつぶれた、という感じで1シーズンで打ち切りになったのもむべなるかなと思う点も多々あります。

巻末に付された解説によりますと、以前当ブログでもご紹介した『青とピンクの紐』("Ellery Queen : Don't Look Behind You")という、クイーンのうら寂しいドラマ化作品史上でもとりわけ鬼子と言うべき作品があるのですが、この「やっちまった」感あふれる作品のおかげでこのTVドラマが生まれたそうです。(だったら『青とピンクの紐』(このタイトル何度も書くの恥ずかしいよ!)も無駄ではなかったということですね)

平素「エラリー・クイーン、いいよいいよ!」と言いふらしていて、あの作品を見て「これがおまえがいいって言ってたエラリー・クイーンとかゆう? (゚m゚*)プッ」と思われたら、当時のファンとしては憤死しそうになったでしょうね、そりゃあ(笑)。
それで、深い思い入れと意気込みで制作されたはずのドラマがなぜ1シーズンで打ち切りになってしまったかについては、もちろん視聴率が伴わなかったからなのですが、その原因として、放送時間の変更があったこと、主演のジム・ハットンに番組を持続・発展させていくだけの力がなかったこと、1940年代という時代設定に限界があったこと、ヒロイン役に恵まれなかったことなどがあげられ、最後にやはりTVドラマとして謎解きが複雑で難解、そしてあまりにも地味だったことがあげられています。
ドラマを見た上での率直な感想としては、主演の役者さんや時代設定やヒロイン役に恵まれなかったことなどに直接の責任を帰すのは、あまりにもフェアではないのではないかと。
もちろんそれらも偽りのない事実であったにせよ、結果的にそうだったというだけで、主演が冴えないドラマでもすばらしい作品はたくさんあるし、時代設定を逆手にとって凝りに凝った作品に仕上げているドラマもたくさんあるし、女っ気がなくても良い作品ももちろんたくさんあります。
となると、やはり一番大きな原因はミステリドラマとして「地味」で「難解」、これだったじゃないかなあと思われます。
また、謎解き重視を目指したため人間ドラマの部分をかなり抑えたとありますが、それをわざわざTVドラマで見たい人がはたしてどれくらいいるのかということです。

ほかにシリーズものとして成功しているミステリ作品を見ていると、やはりTVドラマならではのドラマ性があったり、視覚的に非常に凝った作りでイマジネーションをかき立てられたりする作品が多いです。
時代設定は1940年代後半なのですが、制作された1970年代の香りがぷんぷんとしてしまっているというのも、ミステリ・チャンネルで放送されたとき「どうかなあ」と思いました。
エラリイ・クイーンのファンになったおかげで、20世紀のファッション史の資料を多少集めてみたのですが、通して見ると70年代と80年代のファッション・センスが一番やばい気がします(笑)。(次は物資の乏しい1940年代は女性の服装が地味で固い気が…)

それと、2005年にミステリチャンネルで放送されたときも、字数制限のある字幕の中でがんばっていたと思ったものの、もとの脚本の情報量が多いこと、そしてドラマなので、もちろんそれがミステリとしての伏線であることが多いことなどから、どうしても限界があります。
ネイティブが英語で聞いていてさえ「地味で難しすぎる」と言われていたのに、それをさらにはしょった日本語脚本にしてしまって、本当のおもしろさがどこまで伝わっていたのか、疑問であります。
吹き替えの予定もあったとのことで、残念ですね。

日本でDVDを出すとしたら、やはり吹き替えと英語字幕は必須だと思います。

とか何とか、いろいろと書きましたが、それでもこのドラマ、おもしろいんですよ。ファンの贔屓目でなくてもそう思います。
おもしろいから「ここが、こういうとこさえアレだったら!」という残念な点がクローズアップされてしまい、いろいろ言いたくなると申しますか。
DVDになったらもちろん、買いますし、日本盤が出たらもちろんそれも買います!(笑)


収録された作品ですが、
『十二階特急の冒険』
『黄金のこま犬の冒険』
『奇妙なお茶会の冒険』
『慎重な証人の冒険』
『ミステリの女王の冒険』
 の5篇。
このうち最後の『ミステリの女王の冒険』はドラマ化されず、のちに『ジェシカおばさんの事件簿』用に使い回されてしまったそうです。経済的です。

『十二階特急の冒険』は、2005年にミステリ・チャンネルで放送されたとき、一番おもしろいと思いました。クイーン大好き☆ダイイング・メッセージものです。原作のダイイング・メッセージものがどれもけっこう「えええ」てな感じだったのに比して(笑)、このドラマはなかなかイケてるんじゃないでしょうか。ミステリドラマとして秀逸なことはもちろん、キャラクターのかけあいなども最高です。
エラリーの"Key? What key?" そのあとのパパの「ニヤリ☆」は何度見ても笑えます。

『黄金のこま犬の冒険』はライツヴィルものです。ちゃんとライツヴィルが出てくるところが、制作者の愛を感じますね。親子で釣りに行ったりと、原作では『最後の女』を思い出します。
「凶器はなぜこま犬でなければならなかったのか」とエラリーに言われたとたん、視点ががらりと変わるすばらしいミステリでした。

『奇妙なお茶会の冒険』は、唯一原作がある作品。2005年にミステリ・チャンネルで放送されたときはこれが第1回でしたが、「や、それ、第1回目ってどうだろう。もうちょっとマニア度下げませんか」と思いました(笑)。でも「他人の結婚式をぶちこわすエラリー」とか「変人呼ばわりされるエラリーにあきらめ気味のクイーンパパ」とか「勝手にヴェリーを顎で使うエラリー、それを怒るパパ」とか、ある意味クイーンのデフォルトです。ここ試験に出るぞーです。
脚本を読むと、元はラストシーンはクイーン家のキッチンで終わることになっていたのが、実際に放送されたドラマではイントロと同じ列車の中でした。実際に放送されたドラマの方が良かったですね。あの車掌さんが上手にコメディのアイコンとして使われていました。
クイーン警視とエラリーが、帽子の同じところに切符をはさんでいるのが、なんだかんだ言って仲が良い親子なんだなということが視聴者に伝わってくる良い演出だなあと思いました。

『慎重な証人の冒険』は、ユーモラスなオチが多い中で唯一、沈鬱な空気が最初から最後まで包む作品でした。今回改めて脚本を読んで、「うん、こりゃ、難しい!」と思いました(笑)。人間関係が複雑なのと、二段オチなのと、親子や夫婦がたくさん出てきて、つまりみなさん「苗字いっしょ」。ややこしいよ!
これもラストシーンが実際に放送されたドラマとは違い、法廷でエラリーがぶちまけちゃうんじゃなくて、クイーン家の書斎で内々の話、というラストだったんですね。脚本の方が原作のクイーンらしいけれども、わかりやすいのはドラマですね。
これ、キャンベルのセリフどおり「きみの親父さんがそこいらの洋服箪笥に隠れている」オチだったら一気に笑いを取れたんじゃないかなー思いました。警視が「今の話は聞いた!」とか言いながら洋服箪笥から出てくるんですよ、もちろん。(『真鍮の家』のオチかい)

『ミステリの女王の冒険』は、ミステリの女王と言えば、あの人ですね。船の上の殺人という、密室ものです。
セリフの中にエラリーがお父さんに、ダブルデートしよう、というシーンがあるのですが、ドラマのエラリーはなぜか彼女として違う女性の名前が(笑)。その謎はほかの方から教えていただいて解けたのですが、2005年にミスチャンで放送されたときは作家志望の女性しか出てこなかったので、「ちょっとちょっと、エラリー、いくつ股があるのかね?」とあきれていたところ、クイーン警視のセリフにも「おまえのガールフレンドの一人かと思った」というセリフがあり、え、いや英語でgirlfriendって言ったらそれってさあ…、しかも「の一人」ってさあ…と、さらにあきれていました(笑)。


*追記*
このドラマや本の感想を絵付きで書いてらっしゃるブログはないものか…と探していたときに、見つけたブログにリンクをさせていただきました。
「小さなひしゃく」亭 さま
優しそうなヴェリー部長に愛を感じますね(´∀`)。
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by n_umigame | 2010-05-09 18:39 | *ellery queen* | Trackback(1) | Comments(6)
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Tracked from 「小さなひしゃく」亭・ロビー at 2010-05-10 19:58
タイトル : 映像界のミステリの女王の冒険
昔、アメリカで作られたTVドラマシリーズ「エラリー・クイーン」。 そのシナリオ4本+未製作というか(後で説明する)1本を収録した本が出ました。 その名も『ミステリの女王の冒険』。 …まずそのドラマをDVDにしてくれ話はそれからだという気もしないでもないですが、部長さんが出てるから(苦笑)買って読みました。 というわけで、以下感想。 例によって、たいしたことは書いてません。ネタも割ってないです。 興味ある方のみ、「つづきはこちら」からどうぞ。 ↓...... more
Commented by めとろん at 2010-05-10 11:05 x
こんにちは!めとろんと申します。
『めとLOG~ミステリー映画の世界』なる、拙いブログを運営しております。
こちらのブログの愉しさ、クイーンへの「愛」に感嘆致しました。
『ミステリの女王の冒険』、良かったですよね!
TV『エラリー・クイーン』の感想、楽しみに拝読させていただきます!
僕もクイーンについて書いていますので、お暇があればお立ち寄り下さいね。
ところで、あの、どうすれば『クイーン本』、購入できますでしょうか(笑)?

Commented by 三月やよい at 2010-05-10 20:13 x
こんばんは。
「小さなひしゃく」亭の三月やよいと申します。
ご紹介いただいて、ビックリしました。どうもありがとうございます!

本格的で、でも初心者にも優しい素敵な評論に、改めてクイーンの素晴らしさを思います。ミステリチャンネルごらんになってて羨ましいです。
恐れながら、トラックバックも申請させていただきました。
それでは失礼いたします。
Commented by n_umigame at 2010-05-10 22:03
めとろん さま、こんばんは。
コメントありがとうございます! 『めとLOG~ミステリー映画の世界』、ときどき拝見させていただいております。いつもレアな情報を愛情あふれる筆致でアップなさっていて、わくわく読ませていただいておりました。
TVドラマ『エラリー・クイーン』は、せっかく2005年にミステリチャンネル未放送分をいただいたので、とりあえずこの感想を…と思っておりましたが、ミステリチャンネルの放送も未見の方が意外とたくさんいらっしゃるようで、いつかこちらもぼちぼち感想をアップできたらいいなあと思っております。できれば日本でDVDが出てくれたら、もう少し細かいところもネチネチと掘り返して感想を書けるのになあ~などと夢想しております。(^^)

えーと、わたくしのこんな本でよろしければ、
farwest003☆hotmail.com (☆を@に変えてください) へ
ご希望の本の冊数などお知らせくださいませ。折り返し購入方法などお知らせいたします。
TVドラマ本は3月に少し刷り増しいたしましたので、在庫がございます。
Commented by n_umigame at 2010-05-10 22:07
三月やよい さま、こんばんは。
コメント&TBをありがとうございました! こちらこそ突然、お断りもなく申し訳ございませんでした。

さすがにミステリチャンネルで放送されたときに、ファンの方は皆さんご覧になったのだろうと思っていたのですが、意外と未見の方が多いようで、おどろきました。
早くDVD、できれば日本でも出てほしいですね!
Commented by 三月やよい at 2010-05-11 20:13 x
こんばんは。
連日失礼いたします。

先日、時間がなくて他の記事を読みきれなかったことを今反省しています。大変失礼いたしました。
素晴らしいクイーン父子のイラストの数々、見るのが遅くなってしまいました。申し訳ありません。
あの強い親子の絆を絵に感じて、「そうだよークイーン父子はそうなんだよー」と胸が熱くなります。
関西方面で活動されているとのこと、自分もそちらに住んでいればと思わずにいられません。
自分はミステリチャンネル見れなかったので、紹介がとてもありがたいです。日本でもぜひDVD出て欲しいです。

某・奥の院。
ひょっとして、自分も時々出没してるところでしょうか。
イラストの、眼差しに見覚えも…間違っていたらごめんなさい。
ブログの深くて広い内容に読んでいてワクワクします。
こちらのブログにまた足を運ばせていただきたく思います。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは色々と、大変失礼いたしました。
Commented by n_umigame at 2010-05-11 23:41
三月やよいさま、こんばんは!
こちらの方こそ何度もお運びいただきまして、ありがとうございます。
親子萌え丸出しの絵でお恥ずかしい限りです(*^-^*)。ブログ記事もお楽しみいただけるところがあれば幸いです。

某・奥の院の方へは、TVドラマ本のご縁でお誘いをいただいたのですが、郵便局になかなか行けず、まだ参加させていただいておりません。
「いやーわたくしなんぞ親子萌えのお笑い好きの、とにかくまじめなファンの方に失礼になりますので場違いなので……」と一度はご辞退申し上げたのですが「親子萌えでもいいからカモン!」とおっしゃっていただけたので(^^)。恥の多い人生を歩んでまいりました…(笑)。
お世話になりましたらまた改めてよろしくお願いいたします。

こちらもからもまたお邪魔させていただきますね。