*さいはての西*

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『人生一般ニ相対論』須藤靖著(東京大学出版会)

内容紹介
「日常のなかにひっそりと隠れている物理学の原理の役割をあぶり出すことで物理学的世界観を布教しようとするさりげない試み」と称し,ダークエネルギーから高校教科書まで,さまざまな話題を著者の日常とともに「物理屋」の視点でつづる,痛快エッセイ集.『UP』掲載9編他全14編を収録.



主要目次
基礎編
海底人の世界観
外耳炎が誘う宇宙観の変遷
都会のネズミと田舎のネズミ
ガリレオ・ガリレオ
レレレのシュレーヂンガー
一般ニ相対論
ニュートン算の功罪
目に見えないからこそ大切
オフリミット
物理とカラオケ

応用編
土曜の昼、午後3時半
高校物理の教科書
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻
天文学就職事情

問題編
復習問題25
(出版社HP)


この本で相対論は学べません。
ましてや人生は学べません。
でもちょっぴり楽しくなれるかもしれません。(帯より)



笑いすぎて腹がよじれるか思いました。

著者のご専門は宇宙論・太陽系外惑星だそうですが、もうそんなことはどうでもいい(失礼な)。
東京大学出版会のPR誌『UP』に連載されているエッセイを集めたものがメインで、最近同誌で単行本化されたことを知り、書店に走りました。(お値段のわりに軽い装丁でビックリ。大学出版会の本なのでしょうがないと言えばしょうがないけど、せ、せめて2000えんくらにしてほしかった……買ったけどさ!!)

芸風(芸風て言うな)は、言うなれば、「死んだ鍋(dead pan)」。生真面目な顔をしてものすごい角度から飛んでくるジョークです。ただし、ブラックさはさほどなく、大笑いですが。

エッセイには、専門書か学術論文かと見まごうばかりのびっちりとした小さい文字の脚注がこれでもかとついているのですが、この脚注がまた、何を言ってるんだこの人はと思うような大爆笑な脚注なのです。

例えば、最初に収録されている「海底人の世界観」。
 というわけでいよいよ海底人の世界観を考えるという,本来の趣旨にうつろう.まず,なぜ海底人なのか.(中略)このため中心星から遠からず近からず適度な距離にあり水が液体として存在できるような温度にある惑星は慣習として,「居住可能惑星(ハビタビルプラネット)」と呼ばれている.*11 もちろん,太陽系の中でこの条件を満たしているのは地球だけである.

→その脚注。
*11 もちろん,けっしてこの言葉を真に受けてはならない.表面温度が摂氏0度から100度の範囲にあるものと推定しているだけにすぎず,人類が安心してそこに居住できる可能性はないに等しい.惑星科学者たちは公正取引委員会から誇大広告として訴えられても仕方ない用語を使っているのだ.「こんにちは,○×エステートの田中でーす.今回,ハビタルプラネット316bに格安の物件が出たのでご紹介いたします」といった電話が突然かかってきたらただちに「間に合ってます」と言って切るべきである.一瞬であろうとも真剣に検討するようなことがあってはならない.


「ガリレオ・ガリレオ」では、「イタリア語のガリレオ・ガリレイをラテン語の格変化に従って活用させるとガリレオ・ガリレオとなる」ことから、
*7 確かに江戸川コナンを「名探偵コナン」と呼ぶやり方もまたこの用法に則している.一方,「探偵小五郎」では怪人二十面相には勝てそうにない.ラテン語化して「探偵コゴロッチ」となってしまうとなおさらである.


この、論理があさってな方向へ転がる転がり方が、宮沢章夫にも似ているなあ(笑)。

推理小説をよくお読みになるようで、ヴァン・ダインの『僧正殺人事件』についても触れられているのですが、
 ところで東野圭吾は理科系出身であるためか,その作品は理系ミステリーに分類されたりする.逆に言えば,世間的には推理小説は本来文系に分類されるものと理解されているのだろう.
とすれば,推理小説の古典として著名なヴァン・ダイン『僧正殺人事件』を引き合いに出して反論しておくべきかもしれない.そこには,当時最先端の物理学の知識が(しかも全く意味もなく)てんこ盛りなのである.たとえば,殺害されたある被害者の近くに(数式略)といったメモが残っていた,とある.これは2次元時空のリーマンテンソルを計量テンソルで書き下した結果
(数式略)
だと思うのだが,それを推察できるだけの知識を持つ読者がはたしてどれくらいいるであろう.しかも,そのあたりを心配しながら読み終えた私にとってさらに衝撃的だったのは,このメモの内容はストーリーとは全く関係ないことであった.


((´∀`))
まったくです。

『僧正殺人事件』も新訳が出ましたので、未読の方は(そんなミステリでもよろしければ)ぜひに、おひとつどうぞ。
それからこのエッセイをお読みになると「なるほど」と心から頷け、倍笑えると思います。
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by n_umigame | 2010-06-19 18:23 | | Trackback | Comments(0)
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