*さいはての西*

fwest.exblog.jp
ブログトップ

『死との約束』アガサ・クリスティー著/高橋豊訳(クリスティー文庫)早川書房

「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃ…」エルサレムを訪れていたポアロが耳にした男女の囁きは闇を漂い、やがて死海の方へ消えていった。どうしてこうも犯罪を連想させるものにぶつかるのか?ポアロの思いが現実となったように殺人は起こった。謎に包まれた死海を舞台に、ポアロの並外れた慧眼が真実を暴く。(Amazon.jp)


『鳩の中の猫』に進んだのですが、「女子校」が舞台で「王子」が出てきた時点で何かのシャッターがわたくしの脳内で降りてしまいまして(笑)休止。次にこれを読み始めたら一気読みしてしまいました。
クリスティーによって1930年代から1940年代くらいに書かれた作品はパズルミステリのお手本のような端正な佳作が多いんだなあということを再発見しました。

『死海殺人事件』というタイトルで映画化されたそうですが、こちらは未見です。

中東が舞台ということもあるかもしれませんが、読後感が『ナイルに死す』を読んだときの印象に少し近かったです。
クリスティーは誤導(ミス・ディレクション)の名手だと思いますが、殺人事件が起き、その周辺に怪しい人たちがたくさんいて、みんながみんな紛らわしいことをする。この紛らわしさがとても自然で(作中で、ですが)ほんっとうに紛らわしいのですが(笑)、一人一人の事情を聞くとそれもしかたないか、と同情の余地がある。これがとても巧いと思います。
それをポワロなり探偵役が一枚一枚表面に覆われていた皮をはがしてゆく過程と、最後に真実が明らかになってゆく様子がたまらないのですが、『ナイルに死す』がこのパターンの傑作だとしたら、こちらの『死との約束』はそのやや縮小バージョンという印象でした。

ドラマでこのおもしろさ、楽しさをどれだけ表現できるのかはちょっと疑問ですが…。

作中、容疑者の一人から「『オリエント急行』の事件の時は犯人を逃がしたのに、今回はなぜ大目にに見ないのか。今回殺された人間だって、死ねばまわりの皆が幸せになるような人間じゃないか」と問われたポワロが、自分は殺人を絶対に是認しませんよ、と答えたのは、ちょっと苦しかったかも(笑)。
復讐だったら良いという問題でもないですもんね。
また、ポワロもいろいろな事件で殺人犯の自殺を容認しているのですが、これもいわゆる「黄金期」のパズルミステリによくあるパターンで、はっきり言っていやな感じです。


物語とまったく関係がないのですが、この作品に登場する黒髪の美しい医者の卵の女性サラ・キングは、作中の描写やファーストネーム、キングというファミリーネームから、何となく、本当に何となくですが、エラリイ・クイーンを意識したのかしらと思いました。
[PR]
by n_umigame | 2010-08-15 17:39 | ミステリ | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://fwest.exblog.jp/tb/11745287
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。