『八月の暑さのなかで:ホラー短編集』金原瑞人編訳(岩波少年文庫)岩波書店

「ずっとずっと、こんな短編集を作りたくてしょうがなかった」「なんでこんな本を作りたかったかというと、昔から怖い話が大好きだったからだ」という訳者、金原瑞人氏自らが編んだ、英米ホラーのアンソロジー。

 エドガー・アラン・ポー、サキ、ロード・ダンセイニ、フレドリック・ブラウン、L.P.ハートリー、そしてロアルド・ダールなど、短編の名手たちによる怖くてクールな13話。全編新訳でお届けします。訳者あとがきの愛情あふれる各話解説にもご注目。
 
 佐竹美保さんのクラシカルで優美な扉絵と、切れ味よい訳文とに誘われて、気づけば物語の奥深くへ……。

 眠れなくなっても、当方は責任を負いませんので、どうかご注意を。

もくじ
1. こまっちゃった  エドガー・アラン・ポー(原作)/金原瑞人(翻案)
2. 八月の暑さのなかで  W・F・ハーヴィー
3. 開け放たれた窓  サキ
4. ブライトンへいく途中で  リチャード・ミドルトン
5. 谷の幽霊  ロード・ダンセイニ
6. 顔  レノックス・ロビンスン
7. もどってきたソフィ・メイスン  E・M・デラフィールド
8. 後ろから声が  フレドリック・ブラウン
9. ポドロ島  L.P.ハートリー
10. 十三階  フランク・グルーバー
11. お願い  ロアルド・ダール
12. だれかが呼んだ  ジェイムズ・レイヴァー
13. ハリー  ローズマリー・ティンパリ
  訳者あとがき

(出版社HP)



ぶっちゃけた感想としては、編訳者の趣味ですね? という1冊でした。

帯には「脳みそも凍る13の物語」とあって、岩波少年文庫だしそうハズレはなかろうという期待のもとに読み始めたのですが、ポーの原案を金原瑞人さんが書き下したという作品がいきなり、「”脳みそが凍る」”って、このものごっつ寒い文章のこと!?」と思いましたです……。
いかにも中高年男性が女子中学生になりすまして書きました、というこの文章は、こういった文体を読みつけない人間には苦行に近かったです。すみません。

わたくしにとっては既読のものと未読のものが混じった短編集だったのですが、未読のもののなかでは「もどってきたソフィ・メイスン」のオチがおもしろかったです。
ただ「十三階」のように、ホラーのセオリーとも言うべき作品があるなかで、ほかの作品はかなり趣味的と言わざるを得ない気もしました。
対象は中学生以上なのですが、わざわざホラーの逸品を探して読むためにたずねてきた中学生がいたとしたら、わたくしでしたらこれをオススメしません。(中学生にもなれば、いっそ早川書房の「異色作家短篇集」をどれでもいいから読んでもらった方が…)
なぜかと言うに冒頭に戻るのですが、いかにも「わたしっておもしろいお話いっぱい知ってるでしょ? こんなのもこんなのもあるし、ほらこんなのも! おもしろいって言えよ!」という押しつけがましさを感じ、本当に具体的な読者、中学生なら中学生をイメージして、その読者のために、楽しい物語を用意しよう、というスタンスが感じられないからです。
それがせめて、ああこの人は本当にこの物語を愛しているのね、という過剰なまでの愛情があふれ出ていることを感じ取ることができればまた違ったのでしょうが、それもなく。

子どもにとって、こういった形で「自称・おもしろい本」を押しつけてくる大人ほど、うっとおしいものはありません(笑)。
自分もそうだったはずなのです。が、それを忘れてしまった大人が、自分たちの子ども世代に同じことをしているんですよね。

「もどってきたソフィ・メイスン」のオチがおもしろかったと上述しましたが、「ホラーの意味をひねった」という部分で評価するという意味で、このオチもヴィクトリア時代に生を受けた人らしい説教くささを感じないでもありません。

自身の経験から申し上げると、課題図書とそれに準ずる「大人が読めと言ってくる話」に面白かった試しはほとんどありません。
だいたいは自分が読んでおもしろかった作家さんが心から愛した作品、または友人たちが回してくる作品、あるいは学校で教えを受けた先生方が心から愛していらっしゃることが伝わってきた作品でした。
そしてそこから派生していった作品でした。

こういったことはおそらく、「自分の息子にベッドサイドストーリーとして創作して読み聞かせた物語」が普遍的な名作になった例(『くまのプーさん』『ホビットの冒険』etc.)を思うと、「私的な、具体的な読者/聞き手」を相手にした真剣勝負がすばらしい物語を次代につなぐということとも関係があるのだろうなあと思いました。
個人的な体験が裏打ちされていることが意外と重要だということですね。

収録されている1作1作がつまらないとか駄作だとかいうわけではけっしてないのですが(冒頭の1作を除いて…)、薦め方を間違えると物語は色褪せることもあるのだということがよくわかった1冊でした。
そんなことは一切気にならない、という方はどうぞ虚心にお読みになってください。
作品自体のクオリティは保証いたします。
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by n_umigame | 2010-09-19 18:43 | | Trackback | Comments(0)

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