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*さいはての西*

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「アガサ・クリスティーからの暗号」(@LaLaTV)

ミステリの女王、アガサ・クリスティー。45ヶ国語に翻訳され、世界で10億部以上売れている20世紀最高のベストセラー作家。聖書、シェークスピアの次によく読まれていると言われる彼女の作品群は、長篇、短篇、戯曲を合わせ100作以上にのぼる。現在でも世界中の読者に愛読されるその理由とは。読者を「中毒」にする手法とは。謎に包まれた一人の女性の人生を振り返りながら、言語学者たちがアガサの文章に隠された謎に迫る。

2005年 イギリス
(LaLaTV HPより)


アガサ・クリスティーの作品を言語学者たちが中心となって読み解くという趣向の番組でした。
わりとおもしろかったです。

文学論ではなく、あくまでも暗号を解くような手法で、クリスティーの全作品を語彙や登場人物の数、構成などから分析して、そこに公式とも言うべきものを見いだしていきます。
「クリスティーの作品がマンネリでどれも同じだ」という批判を認めつつ、だからこそ、そこにこそクリスティーの作品の魅力があるのだと説明されます。

例えば語彙の使い方がコナン・ドイルの作品と比較しても、表現の幅が非常に狭いのだとか。
3次元グラフで表現されていたので歴然としていたのですが、「誰それがこう言った」という表現には、answered, repliedといったほかの表現もあり得るのに、ほとんどsaidという表現で統一されていること。
これは文章の表現よりプロットに集中させる効果があるそうです。
(確かに文学的表現が巧みな作家だと、文章の美しさや巧みさに気を取られて何度もその文章を読んだりして、話が進みませんよね(笑)。あと、表現の巧さだけに気を取られて肝心の話を忘れてしまったりですね。)

また、『そして誰もいなくなった』を例にとって、物語の冒頭でまったく相関性のない登場人物を10人も次から次へと紹介されているが、人間が同時に覚えていられる事柄は5~9迄で、10以上になると個別に認識できなくなる。つまり思考が止まってしまい感覚でしか記憶できなくなるのだが、人間にとって思考より感覚の方が強く記憶に残るのだとか。
そしてこの10個以上の事象を同時に理解を迫られる状態では人間の頭のなかはいわばトランス状態になっているそうです。

そしてこんな具合にクリスティーの作品は最初は読むのに時間がかかるのだが、後半は謎解きに入るため、一気に読める。
こういった「読者が読む速さ」もクリスティーは意図的にコントロールしていたのではないか。
なぜなら、前半に恐ろしいこと、どきどきするスリルを味わうが、そこでアドレナリンが放出される。が、最後に探偵が謎解きをしてくれ、カタルシスを味わう際にセロトニンが放出される。これは安価で安全な麻薬であるとして、クリスティーの作品が「同じような」作品であるにも関わらず、だからこそ何度も、あるいは次々と読みたくなってしまうのであると。

中毒性があるということですね。
人間が反復を好むということは心理学者がいろいろと説をあげておられるのでそちらに譲るとして、「繰り返し」の楽しさ、マンネリの楽しさということはあると思います。

なかなか楽しい番組だったのですが、「この人ホントに研究者?」みたいな革ジャケットにシルクハットの男性がちょっと気味が悪かったです。(声も高くて…)すまん。

9月27日(土)深夜にもまた放送があるそうですので、興味のある方はどうぞ~。
デヴィッド・スーシェもちらっと出ていました。
by n_umigame | 2010-09-20 14:45 | ミステリ