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『オスは生きてるムダなのか』池田清彦著(角川選書)角川書店

38億年前、生物が地球上に現れて以来、生物の細胞系列は生き続けてきた。性が誕生すると生物は劇的に変化し、限りない多様性やあらゆる能力と引き替えに、「死ぬ能力」をも獲得する。一回の生殖で一生分の精子を貯める女王バチ、口が退化し寿命が3日しかないアカシュウカクアリのオス、個体で性別を変化させるミミズ…。生物によって異なる性の決定システムから、ヒトの性にまつわる話まで、生物の性の不思議に迫る。(Amazon.jp)


非常に挑発的なタイトルですが(笑)、内容は性の発生のメカニズムと、なぜ性別があるのか、性別があることのメリット・デメリットはなにかという問いについての仮説となっています。
また上の内容紹介にもありますが、「死ぬことができる」のも「能力」なのだという点は目からうろこでした。(死なない生物の例として上げられているのが「大腸菌」であったり「ガン細胞」であったりするのでなおさら…(笑))
合間合間に著者の「素(す)」の顔がのぞくような、いきなりくだけた文体になるところがあり、くすくす笑いが止まりませんでした。

わたくしも常日頃、もし種の存続だけが目的であるならば、合理的に考えるとオスはこんなに要らない。であるのになぜ、オスとメスはほぼ「1:1」の比率なのかと不思議に思っておりました。

その疑問にも著者は別の研究者の仮説を引いて説明をしてくださっていますが、著者ご自身は、
「ぶっちゃけ、ぼくは、オスは生きてるムダだと思う。
だって種つけだけさせらえれたらすぐ死ぬオスはたくさんあるし、オスとメスが1:1なのだって種として安定するのが目的であって、そうでなければメスしかいない生物だっているんだもん。
機能主義の人たちは、進化や生存には何か理由や目的があると考えたがる。でも研究すればするほど、生き物の世界はもっと偶発的で気まぐれで、意味なんかないと思えてくる」
と、オス代表として(?)ちょっといじけたような合いの手が大爆笑でございました。

進化論がなぜ純粋に科学の範疇におさまらず、哲学や宗教の問題になるのか、その理由をかいま見たように思いました(笑)。

また「男は現象、女は実体」という多田富雄氏の名言があるが、正確に言えば自分は「女は実体、男は情報」だと思うと述べられています。
米原万里さんがエッセイで、女性より男性の方がバリエーションが豊か(=ピンキリの幅が広い)のはなぜかと考え、「男性サンプル説」を唱えておられましたが、この著書でも
「男の人は能力にバラつきが大きい。すごく優秀な男から、できない男までいて、偏差が大きい。女の人はコンパクトにまとまっていて平均的である。どの能力でもだいたいそういう傾向にある。男の場合、ある分野で非常に優れている人が出る反面、平均的には女性のほうが優れていると言えそうだ。」

とおっしゃっています。
「バカなことをやって早死にするのはオスと決まっている。世界を女性が主導するようになったら、世界から戦争がなくなって平和になるかもね」とも。(女性の立場から言わせていただくなら、戦争がなくなる代わりに別の問題が顕在化しそうではありますが(笑)。)

これは何となく肌で日々実感されている方も多いのではないでしょうか。
しかし、だからこそこの世界はトホホでありつつも豊かであるとも言えると思います。
ほとんどの短所は長所の裏返しです。
ざっくり言うと、女性のノーベル賞受賞者が少ないことと、男性の犯罪者が多いことは同じ手の表と裏とも言えるということかもしれません。(ざっくりすぎだ)

いずれにせよ、
遺伝子の突然変異と自然選択だけで、すべての進化を説明しようとする考えが一時流行っていたけれども、生物はそんな単純な存在ではなさそうである。

とおっしゃっています。

カエサルは「人間は自分の見たいものだけを見る生き物だ」と言ったそうですが、ヒト(人間)にだけ解明することができるかもしれない能力が与えられた謎が、ヒトにとって都合が良い結論に達するとは限らないということを、常に頭の隅に置いておいた方が良いのだろうと思います。
科学者はもちろんのこと、あらゆる客観的な事実が求められる仕事において。

一見固そうな本ですが、読むと楽しい1冊でございました。
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by n_umigame | 2010-10-08 18:04 | | Trackback | Comments(0)

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