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『ねにもつタイプ 』岸本佐知子著(ちくま文庫)筑摩書房

コアラの鼻の材質。郵便局での決闘。ちょんまげの起源。新たなるオリンピック競技の提案。「ホッホグルグル」の謎。パン屋さんとの文通。矢吹ジョーの口から出るものの正体。「猫マッサージ屋」開業の野望。バンドエイドとの正しい闘い方―。奇想、妄想たくましく、リズミカルな名文で綴るエッセイ集。読んでも一ミクロンの役にも立たず、教養もいっさい増えないこと請け合いです。 (Amazon.jp)


「三浦しをんの妄想+宮沢章夫の思いも寄らぬ方向へ話がそれる」÷2といった印象の、腹筋が痛いエッセイ。
「世の中には変わった人もいるんだなあ」ではなく、「ああ、わかるわかる」という感想が先行してしまったのが、同志を見つけてうれしいような、逆にちょっと悲しいような。

例えば「生きる」というエッセイで語られる、トイレットペーパーのお話。
わたくしも、先に買って棚の奥に置いておいたトイレットペーパーより先に手前に置いてある新しい方から使うことに軽く抵抗を覚えます。
まさにここの書かれているような、「先にここにいたんだから自分から使え」という「トイレットペーパーの声」が聞こえるような気がし、うっかり後先を間違えようものなら先住民の方に「覚えてろよ」「この人でなし」「呪ってやる」と罵詈雑言の限りをつくされているのではないかと。

また「むしゃくしゃして」というエッセイ。
これを読んで宮沢章夫さんにも似たようなエッセイがあったなあと(テイストは違うのですが)思い出したのですが、

 前々から気になっていたのだが、なぜ報じられる放火の動機は判で押したように「むしゃくしゃして」なのであろうか。
 放火だけではない。痴漢の動機は「仕事でストレスが溜まって」だし、虐待は「しつけのため」だし、未成年のひったくりは「遊ぶ金ほしさ」だし、人を包丁で刺すのは「カッとなって」だ。
 たまには遊ぶかねほしさに放火したり、カッとなって痴漢したり、むしゃくしゃしてひったくりするようなことがあってもよさそうなのに、そういう話は一向に聞かない。

そして、
 ”訳のわからないこと”として片づけられてしまった無数の名もない供述、それを集めたものがあったら読んでみたいと思うのはいけない欲望だろうか。そこには純度百パーセントの、それゆえ底無しにヤバい、本物の文学があるような気がする。

と、さりげにものすごく深いエッセイになっています。

それからびっくりしたのが、「6と8をよく間違える」というところ。わたくしも一時期、6と8をよく間違えて覚えていて困った時期がありました。16日と18日を反対に覚えていたとかしょちゅうありました。手帳に書いて確認しておいたにも関わらず、ということもありました。最近そういうことがなくなったのですが、なんなんでしょうねえ、これ。

また、やたらと赤ん坊が出てくる話を書く作家の作品を訳していて、「もし自分が意味を知らずに『赤ん坊』という言葉と出会ったら、どんなものを想像するだろうか」と考えた結果の「ブツ」がすごすぎて夜中におふとんの上で笑いすぎて悶絶いたしました。

クラフト・エヴィング商會のシュールなイラストもすてきです。
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Commented by カクテキ at 2010-10-21 12:55 x
岸本さんのエッセイ、強烈ですよね。
エッセイなのにどこか「夢十夜」を思わせるような不思議な世界です。
でも私も「わかる、わかる」と安心しながら読んでいるのですけども。
エッセイの一冊目(だと思われる)「気になる部分」は読まれましたか?
これもかなりびっくり&安心でステキでしたよ。
Commented by n_umigame at 2010-10-25 14:42
お返事遅くなって申し訳ありませんでした!
『夢十夜』…ああ、なるほど。最初は現実のはずだったのが読んでいるうちに不思議な異界へ入り込んでしまって「これは本当にうつしよのことなのか…でもなんだか気持ちいいからいいや」と思わせるところがそうかもしれません^^)。
『気になる部分』もあれから買ってきました。びっくり&安心、楽しみです!
by n_umigame | 2010-10-20 19:32 | | Trackback | Comments(2)

Welcome. 本と好きなものがたり。


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