『気になる部分』岸本佐知子著(白水uブックス)白水社

眠れぬ夜の「ひとり尻取り」、満員電車のキテレツさん達、屈辱の幼稚園時代―ヘンでせつない日常を強烈なユーモアとはじける言語センスで綴った、名翻訳家による抱腹絶倒のエッセイ集。待望のUブックス化。(Amazon.jp)


『ねにもつタイプ』、おかわり(笑)です。
『ねにもつタイプ』がとてもおもしく、かつ爆笑しながらも身につまされましたので(笑)、カクテキさまのオススメもあって速攻で買いに行きました。

と言ってもこちらの方が先に出版されたエッセイ集。
エッセイ集なのですが、だんだん現実と妄想とのさかいめが曖昧になっていき、著者のネガティブ・クリエイティブな世界が炸裂しています。
『ねにもつタイプ』が連載されているのが筑摩書房のPR誌『ちくま』なためか、『ねにもつ~』の方が間口が広いように思います。(や、こちらも「どこがおもしろいのかさっぱりわからない」という方はいらっしゃるでしょうが。ある意味そういう方は悩み事の少ない…と言って語弊があれば、疑問に思うことの少ない逡巡なき人生を歩んでらっしゃるかと想像され、ちょっぴりうらやましくもあります。)

こちらのエッセイで笑ったところは、やはり、激しく共感してしまった部分なのですが、童謡の『こがねむし』はなぜあんな陰惨なメロディなのか。
童謡はマイナー調の旋律のものが多いですが、だから「本当は怖い<かごめかごめ>」とか「都市伝説<とおりゃんせ>」といったまことしやかな説が出てくるのか、それとも元々恐ろしくも悲しい事実があり、それを歌ったものだから悲しいメロディなのか。
『おおさむこさむ』の「山から小僧」の「小僧」とはいったい何者なのか。これも「考えるとだんだん不安になってくる」という著者のお気持ちに深く共感いたします。だいたい、日本の「山」から降りてくる「小僧」様(よう)のものでポジティブなイメージのものを連想できません。

「大相撲とわたし」で語られる
もしかしたら、宇宙のどこかには、種の進化をつかさどる委員会のようなものが存在していて、たとえば百年に一回とか、それくらいの割合で審査会を開き、何を進化させて何を退化させるのか決定しているのかもしれない。

という部分は、光瀬龍さんの『百億の夜と千億の昼』ですよそれ、とツッコむのは誰にでもできますが、問題は、岸本さんは本気の正気でこう考えている節があるということです。

また、「その袋に福はあるか」で福袋についての考察は大笑いしつつも、深いです。
「人は福袋が好きである」ということに気づいた岸本さんが出した結論は「福袋は人間の理性を狂わせる」。
福袋の前では、愛も理想も学歴も無意味である。私は福袋によって、人間の業の深さというものをつくづく思い知らされたのである。

まったくです。
ちなみにわたくしは福袋というものを買ったことがありません。だって、何が入ってるかわかんないじゃん。「それが楽しいんじゃない」というご意見も心情としては理解できますが、じゃあはずれたときに怒らないのかと言うと、岸本さんの観察どおり「福袋を買った人は必ず怒る」。

また、小学生のときに驚いたネタ、疑問に思ったネタが今回もかぶっていてびっくり(笑)。
ロシア民謡『一週間』の歌詞。
「月曜日にお風呂をわかし/火曜日はお風呂に入り」
これを教わったとき、クラスのほぼ全員が、「冷める」とつっこんだことをなつかしく思い出しました。
どうなってるんだ、ロシアの風呂は。
また、「アルジェリアとナイジェリア」という国があると教わったとき、わたくしも冗談だと思って長い間本気にしませんでした。

「都市の兵法-電車編-」。満員電車の中で遭遇する「あるあるネタ」なのですが、画期的だ!と思ったのは岸本さんの痴漢撃退法です。
 女性の兵法者の場合、最大の敵はやはり痴漢であろう。バッグ、爪、画鋲などで防御するのが定石だが、本来素手で戦うのが兵法の美学であり、上級者になると、全身から殺気を発散することで彼らを撃退することが可能である。

師範!ぜひその技をご教授ください!!
筆者も数年がかりでこの技を習得した。痴漢以外の異性も近寄らなくなるという弊害はあるものの、実に有効な技であるので、初級者もぜひ精進してマスターすることをお薦めする。

前言撤回します。

また「『国際きのこ会館』の思ひ出」が秀逸でした。
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Commented by カクテキ at 2010-10-30 09:40 x
読まれたのですね~。
>著者のネガティブ・クリエイティブな世界が炸裂
たいへんに的を射た表現だと思います(笑)。
「おもしろおかしく書いてやろう」ではなく、おそらく日常の岸本さんの頭の中がネガティブにクリエイティブと思われますよね。
ロシアの「一週間」は、蓋がなくて火力が弱いのだな…と自分を納得させた子ども時代を思い出しました。
これもかなり…(笑)。
読後に書いたことを読み返したら、私、カップヌードルクイズや算数の文章問題にいたく感銘しているようでした。
Commented by n_umigame at 2010-10-30 21:58
はい、おかげさまでさらなる大爆笑でした(笑)。
そうですね、おっしゃるとおり、受け狙いで書いている様子がなくて本物の天然臭がふんぷんなところがとても良いです。…って自分も「あーわかるわかるー」とか思いつつ読んでいるので、てことは……あれ?目から水が?(泣)
>蓋がなくて火力が弱い
ああ…!その発想はありませんでした!
カップヌードルクイズもおかしかったですね。岸本さんのついついマイナーな方へ目がいってしまう体質(?)がとても良いです。
冒頭の「1+1=2」になるということをどこか信じていないというのも共感しましたが、ポジティブになろうとして菜の花畑に河童が出てくるところは笑い死ぬかと思いました。ここだけは理解不能です(笑)。
by n_umigame | 2010-10-29 20:18 | | Trackback | Comments(2)

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