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「動機」エラリー・クイーン著/真野明裕訳(IF NOVELS)番町書房

『エラリー・クイーン傑作集』所収。
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「動機」と「結婚記念日」が未読だったので「ちょっとラッキー♪」くらいの気持ちで古本屋さんで買った本でした。
現在では『間違いの悲劇』(飯城勇三訳/創元推理文庫 東京創元社)でも読めるのですが、それ以前にこの本が出るまでは「動機」は単行本未収録だったそうです。
裏表紙カバーを見ましたら、「あら、めずらしい。クイーンさんの著者近影だ」と何気なく内容紹介を読み始めましたら…
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本書で活躍するクイーン父子の作品群は、エラリー・クイーンの絶頂期に書かれた傑作である!主人公のリチャード・クイーンはニューヨーク警察のヴェテラン警視で、息子のエラリー・クイーンは古書探しを道楽とする小説家という設定である。(後略)

「主人公のリチャード・クイーン」

何ですって。Σ(゚д゚*)
いや、私にとっては最初から最後までそうだが(えええ)いつの間にそんなことにというかそれってどんな黄金時代よ!? と思って奥付を見ましたら、発行は1977年(昭和52年)。
このころ刑事物が花盛りで「名探偵」が謎を解くというスタイルはもう古いと見なされていたそうです。なので、警察官を前面に出す方が良いという営業判断があったのだと冷静に落ち込みつつ思ったのですが、この営業マン(?)は見上げた粘り腰というかごり押しというかで、目次を開いてさらにびっくり、目次でまでクイーン警視を先にあげているではありませんか。
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すごいぞ、番町書房。

さて、肝心の作品の感想ですが、かなりネタバレですがそれでもいいですか?
アガサ・クリスティーの『ABC殺人事件』もちょっとネタバレですがいいですか?










連続殺人が起きるのですが、その関連性や動機がわからないという、ミッシンクリンクものになって
います。
連続殺人のパターンには、
(1)本当の無差別殺人
(2)犯人なりに理屈がある無差別殺人
(3)標的があり、その殺人を隠すためにほかは無差別殺人
と、大ざっぱに分けられると思うのですが、(1)はこの作品でも言われるような「ラッシュアワーのグランド・セントラル駅で人混みにまぎれて逃げる」というパターン。一番たちが悪いです。
(2)1990年代に流行ったシリアルキラーもののパターン。
(3)アガサ・クリスティーの『ABC殺人事件』のパターン。「木を隠すなら森の中」。

ですが「動機」は上の3つのどれにも当てはまりません。
また、連続殺人の引き金(動機)となった犯人が結局わからないという結末になっています。クイーンの作品にしては珍しいですよね。

なのですが、このやりきれなさの中に読者を残していくというラストシーンは、傑作『九尾の猫』を思い出さずにいられませんでした。
調べましたら「動機」が発表されたのは1950年代後半だったようです。1950年代のアメリカというと何だかポップなイメージがあったのですが、良く見ればマッカーシズムの吹き荒れた時代であり、また核の恐怖が深刻になった時代でもあったのでした。
クイーンには『ガラスの村』というやはりノンシリーズの作品がありますが、こちらの作品も1950年代に発表されました。
狭い「ムラ社会」で集団的にヒステリックになる人々、というのは同時代のアメリカの揶揄でもあったのだろうと思います。
『九尾の猫』でも殺人でパニックになる人々が描かれていましたが、ミステリという形式の物語上「犯人」は明らかにされながらも、正直なところあの犯人が途中でわかったところで著者を出し抜いたという爽快感はまったくありません。それは『九尾の猫』が、目に見えない「誰か」に無辜の人々がただ殺されてゆくということに対して自分たちは無力だった、という虚無感を描いた作品でもあったからではないかと思います。
「動機」でも、突然の暴力で一人息子を奪われた父親のしたことの善悪は、結局著者の目からは判定が下らない形で物語が閉じています。

「絶対的に悪い人を、絶対的に正しい人が罰する」という形式の物語を国名シリーズで描いてきたクイーンは、その後何度も何度もそれに対する疑問を呈するような作品を発表しています。
それはクイーンのパズルと論理を愛した人々にはあまり好評ではなかったこともあったようです。けれどもわたくしには、過去のスタイルに自分で何度でも疑問を呈することができたからこそ、クイーンは世紀を越えて読み継がれてきたのではないかと思っています。
例えその答えは出なかったとしても。
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by n_umigame | 2010-11-01 18:07 | *ellery queen* | Trackback | Comments(0)
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