『ムーミンのふたつの顔』冨原眞弓著(ちくま文庫)筑摩書房

日本ではムーミンを知らない人は少ない。しかし、ムーミンにはじつに多彩な顔があることを、知らない人は多い。トーベ・ヤンソン自身が、様々なムーミンを描いてきた。児童文学、コミックスなどメディアも様々で、その時々の状況や環境が大きく影響している。本書では、おもにシニカルな顔とファンタジックな顔というふたつの姿をあぶり出し、その底知れぬ面白さに迫る。
(出版社HP)


先日のムーミンカフェの興奮さめやらぬ中、文庫化されていたので即買い即読みしました。
冨原眞弓さんのムーミン関連本は信頼できるし、大好きです。
翻訳もそうですが、シンプルで端正な文章にも関わらず無味乾燥というわけでは決してなくて、適度にエモーショナルな部分もあるという「クールに熱い」文体が読んでいてとても心地よいです。あと数秒で眠りに落ちるというようなときでも(笑)、すっと入ってくる文章です。

内容ですが、ムーミンの日本とヨーロッパでの受容のされ方、その後の広がり方の違い、冨原さんが呼ぶところの「夏のムーミン」と「冬のムーミン」、ポストムーミンと呼ぶべきような作品群のことなどが概観されます。
(アメリカではあまり受け入れられなかったようです。冨原さんの言を借りれば、ムーミンのどこかしら暗いところがミッキーマウスのように影がない単純なキャラクターとは相容れないのも当然であろうとのこと。アメリカには二律背反するような複雑なキャラクターは確かにあまりないように思います。代わりに「影」や負の面を負うキャラクターや表現が別途にあって、役割分担しているように見えますね。)
「概観」と言いましたが、底の浅いものでは決してなく、薄い本なのですがとても読み応えがありました。

興味深かったのは、ヨーロッパでは、スナフキンももちろん人気があるが、ムーミンママやミイ、モッラ(モラン)などが人気を等分しているのに、日本ではスナフキンの人気がダントツだということです。
身の回りにあまりムーミンについて語れる人がいないのでムーミン語りをしたことはないのですが、何となくそうかもしれません。
わたくし個人としてはムーミンママが一番好きで、歯に衣着せぬミイやモッラも甲乙つけがたいくらい惹かれます。(スナフキンだってもちろん好きですが)
読みすすめていって”4.コミックスのムーミン”の最終項「ほんとうの自由」で次のように語られます。

著者トーヴェ・ヤンソンがこう語ったそうです。

わたしはあの物語の中で描こうとした家族は、しあわせであることがあまりにもあたりまえすぎて、自分たちがしあわせだとうことさえ知らない。かれらはいっしょにいて居心地よく感じ、互いにまったき自由を与えあう。ひとりでいる自由、自分だけの考えにひたる自由、だれかにうちあけたいと思うまでは、自分の秘密をあかさず隠しもつ自由、そういった自由である。ふしぎなことに、かれらは互いに良心の呵責を与えあうことなく、責任を、必要からひきうける義務としてではなく、愉しみながらはたすことができる。(後略)


ヤンソン自身が「ユートピア的」と呼んだ家族、かれらがこの絶対的な自由をどうやって手に入れたのかをうまく説明できずにいると。
そしてこのような「人びとのただなかにあって、孤立するのではなく、まったく動じないと言う意味で、みずからの孤独を保っていられる」という「めずらしい資質」を、物語の中でムーミンママとスナフキンというふたりによって代弁させようとしたのだと。
別のインタヴューで、ヤンソンは、スナフキンの自由にはときとして自己中心的な弱さが混じらないでもないが、ムーミンママの自由にはそうした弱さもないと述べている、とした上で、

たしかに、気分しだいでふらりと姿をみせては消えていくスナフキンのほうが、どうみても格好はいい。いつでも身近にいるムーミンママにたいしては、ともするとありがたみを忘れてしまいそうになる。しかし、自由であることにこだわる必要も感じないママのほうが、自由を求めて定期的に旅に出るスナフキンよりも、もしかするとはるかに自由なのかもしれない。


と、冨原さんは述べておられます。
「お金持ちとは、お金のことを考えずにすむ人のことである(実際に百万長者であっても四六時中お金のことを考えなければならない人はお金持ちではない)」と定義されたのは内田樹さんですが、その伝で言うならば「自由な人とは、自由について四六時中考えなくていい人」のことなのかもしれませんね。
ムーミン家族が「しあわせであることがあまりにもあたりまえすぎて、自分たちがしあわせだとうことさえ知らない」ように。
痛まないときは胃の存在を忘れているように(笑)。
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by n_umigame | 2011-01-24 23:12 | | Trackback | Comments(0)

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