*さいはての西*

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『ルイス警部』#10:「シェークスピア殺人事件」

学生演劇の試演中、キャストの1人が刺殺された。観客の中には、役を取り損ねたジョー、演劇学部長のグレグソン教授、考古学のオルダーソン教授、大学中退の作家フィルらがいた。ルイスとハサウェイが聞き込みを続ける中、野心家の新聞記者アマンダが絞殺される。彼女は何か特ダネをつかんでいたらしかった。2つの遺体のそばには、いずれもシェークスピアの戯曲の引用文が残されていたことから、謎がますます深まる。/出演:ケヴィン・ウェイトリー、ローレンス・フォックスほか/原作:コリン・デクスター/英/字幕/2009年


前回はファンタジーで今回はシェークスピアの「見立て殺人」ものでした。

今回もいろいろとネタバレしているのでもぐります~。













イギリスのミステリドラマで日本に紹介される作品はだいたいどれも脚本がとてもよく錬られていて、どのセリフにもプロット全体にかかる意味があり、よーく見ていないと、一言聞き逃すだけで「それ何の話でしたっけ?」となることもあるので結局テレビにかぶりついて見てしまうはめになるのですが(笑)、今回は冒頭から『ヴェニスの商人』のポーシャのセリフから始まります。
(自分の持っている本で今調べたところ(笑)第四幕第一場でした)
このセリフが作中3回も出てくるのですが、これについてはのちほど。

お話はオックスフォードの学生でシャイロックを演じることになっていたリチャードが殺されるところ、そしてルイスが奥さんのお墓にお花をわんさかお供えして「お誕生日おめでとう」と言いに行くシーンから始まります。(古いお花もわんさか持っていることから、お墓にお花を絶やしたことがないことがわかります)

今回はこの二つのシーンが全体のポイントでした。

まず殺人事件の方ですが、聞き込みに行って学生に「彼、優秀だわ」と言われるルイス。そうですよ、彼、警官としてとても優秀なんですよ。『モース警部』のときはただの人の好い部下みたいな扱いで、ルイスファンとしてはちょっぴりイラッとすることもありましたが(主に上司のルイスに対する扱いが…)改めて言われるとうれしくなってしまいました。
「英国の演劇界はオックスブリッジの男性が支えている」と言う野心家のサラのセリフにもなんだか頷いてしまいました。「ケンブリッジがやや優勢」なんだそうですが、なるほど、コメディ系はケンブリッジのOBの役者さんやライターさんが多い気がしますね。(フットライツの存在が大きいのかも知れませんが、詳しくないのでごめんなさい。ダグラス・アダムズもケンブリッジ卒ですよね。)

被害者リチャードの母親がルイスに「聞いてくれてありがとう」と言うシーンもなんだかじんわりしていまいました。
ルイスは優しいから人の気持ちをくみ取るのが上手ということもありますが、「なぜ人は生き急ぐのかしら」と言われて「わかります」とコメントするところは自分の体験から来る真心からの言葉ですよね。
ルイスは人の話を聞くのがうまいなー。

『ヴェニスの商人』の舞台がはねたあと打ち上げに学生たちが訪れたバーの名前が「プロスペローズ・バー」で、どこまでもシェークスピア・ネタで行くなあと思って見ていたら、第2の殺人事件が。
リチャードの死体のそばにあった「貸しても借りてもだめだ」というセリフは『ハムレット』でポローニアスが息子のレアティーズに「金を友人に貸しても借りてもだめだ。金も友人も失う」というセリフの引用なので、まんざら遠いネタでもないですが、2回目のはちょっとこじつけくさい?(笑)

さて、別件でホテルで詐欺事件があり、被害者として名乗り出たのがたまたま殺人事件の証人だったことから、あれよあれよと足がつき、実は詐欺の犯人だったことがわかります。
ところが、この男が5年前ロンドンでルイスの奥さんのヴァレリーをひき逃げした犯人でもあったことがハサウェイの調査で判明します。

ルイスにこのことを話すべきかどうかを悩んだハサウェイは、ルイスと共通の上司であるイノセント警視正に相談します。
”話すべきかどうか悩む”という一点だけをもってして、ハサウェイにとってルイスがどういう存在なのかが伺えますが、ハサウェイは「ルイスはいい人で皆に好かれているけど自分の悩みは打ち明けない。結婚のことで口出しするなってはっきり釘をさされました」と。
イノセントはそれに対して、「話すかどうかはあなたたちがどういう関係かによる。」仕事だけの関係なのか、プライベートにまで立ち入っても大丈夫なのか。
それについては自信がないの? と聞かれて
「Always NO.」と答えるハサウェイ。もうこの一言でハサウェイに惚れそうになりましたね(笑)。この人間関係に対する謙虚さがとてもいい。
誰かとの関係や絆が「絶対揺るがない」なんてことはありえませんよね。またそう思うことが、相手に対する甘えや慢心につながりかねないこともわかっているから出てくるセリフだと思いました。

結局「人間関係を試す方法は一つだけ。当たって砕けろ」とアドバイスするイノセント警視正。
これはルイスとハサウェイの問題と判断して、「Good luck.」と言って送り出すイノセント警視正も、とてもいいですね。ハサウェイを(そしてルイスを)信頼していないとできないし、そのあとちゃんとフォローするところもすばらしい。いかにも偶然出会ったかのように演技してまで(笑)。気を使いますよね、うんうん。
ルイスはモースと組んでいたときの上司ストレンジ警視正もいい人でしたが、上司運良いと思います。イノセント警視正は最初に登場したときは俗物で気の強い女といったステレオタイプな「やな上司」という感じでしたが、だんだん部下思いで、でもダメなときはダメと言うステキ上司になってきました。

で、ハサウェイはルイスに代わって、事前にひき逃げ犯に軽くリベンジ(被害者が誰だったか教えた)したところで、
「警部、話があります」
「結婚か?」
といつもの上司と部下漫才を繰り広げたあと、ルイスにヴァレリーをひき逃げした犯人のことを話します。
「なぜ話さなかったんだ、わたしがあいつを殴るとでも?」と怒るルイス。「そんなことは起こらない。君がその前にわたしを止めるからだ。おまえはわたしのことだけでなく自分のこともわかってない!」
いや…それはハサウェイがかわいそうだと思うよ、ルイス。ハサウェイはハサウェイでなんで言えなかったのか、そこは汲んであげようよ。
でもルイスはルイスで、5年間片時も頭から離れなかったであろう妻をひき逃げした犯人を見つけたのが部下で、それを黙ってられちゃって、刑事としてくやしかったとか、そんなふうに同情されたことが情けなかったとか、いろんな気持ちがないまぜになって爆発しちゃったんですよね。
結局犯人に会いに行って「あまりにも普通だ」とつぶやくルイス。
自分にとって世界でたった一人の存在を失ったとき、やはりその解決ももっと劇的なものを想像していたけれども、本当にただのひき逃げだったことに対して、やりきれない気持ちになったのでしょう。

ひき逃げ犯人に対して”爆発しそうなところをぎりぎり抑えてる感”が見ている方にもひしひしと伝わってくる演技で、こちらもどきどきしました。
ルイスみたいな、ふだんは優しい人が怒ると恐いよー。

最初と同じ『ヴェニスの商人』のポーシャのセリフが、最後にそっくり繰り返されます。

「慈悲は強いるものではない
恵みの雨のごとく 
天より注ぐもの
与える者と受ける者を 
二重に祝福する
これこそ最も偉大な力 
王冠よりも似つかわしい」

この舞台のシーンをルイスが見ているシーンで、涙が出そうになりました。

「ありがとう。いっしょに来てくれて」と言うルイスと、「当然ですよ」と答えるハサウェイ。
この先もこのバカップルゴールデン・コンビの活躍がハラドキです。
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by n_umigame | 2011-02-13 20:13 | 映画・海外ドラマ | Trackback | Comments(2)
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Commented by カクテキ at 2011-02-14 11:04 x
nisemiさん、こんにちは。
放送に間に合ったとお聞きして、私でも役立つことがあると嬉しくなりました。
メインの事件がどっちなのかわからなくなるほどに堪能しました。
ハサウェイの気遣いも、ルイスの理不尽ないらつきも、そして忘れてならないイノセントの小芝居、どれもたいへんによかったです。
あとは、私がシェークスピアをもう少し知っていればもっとよかったのだなあ…と少しさみしいですが。
>ゴールデン・コンビの活躍
とにかく大股で歩きまわってますよね(笑)。
そこも含めて大好きですが。

余談ですけど、しろくまカフェ、私も大好きです。
リアル獣なのにほんわかかわいらしいところがやめられません。
そして、「腰痛探検家」はまだ読んでいませんが、高野秀行さんもかなりファンです。
Commented by n_umigame at 2011-02-14 18:54
>カクテキさま
本当にありがとうございました。(*^.^*)あの日カクテキさまのブログを拝見していなかったら、今頃泣いていたと思います(笑)。
>メインの事件がどっちなのかわからなくなるほど
まったくです!!いやルイスの奥さまの方がメインということで、もう良いと思います!
>とにかく大股
こちらも、ですよね! 大股ですよね~。特にハサウェイの歩き方が気になっていました。靴を履いている部分が重いような、ぶんまわすような足運びですよね。
イギリスではまだまだ続いているのでしょうか。まだまだこのコンビを見ていたいです。

しろくまカフェ、カクテキさまのブログにも貼ってあるなあと思ってニコニコ見ていました*^^*。「リアル獣」なところがツボですよね。
高野秀行さんは実は『腰痛~』が初読でした。宮田珠己さんの本を読んでいたら薦められたので、きっとおもしろいんだろうと。また別の作品もぜひ読んでみますね。