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『キングの身代金』エド・マクベイン著/井上一夫訳(ハヤカワミステリ文庫)早川書房

野心家のキングは窮地に追い込まれた。彼の息子の誘拐を企てた犯人が、誤って運転手の幼い息子を連れ去ったのだ。身代金の要求は50万ドル。もし支払えば、キングの一生の夢である会社乗っ取りの賭けが打てなくなる。だが拒絶すれば罪のない命が……黒澤明監督の映画「天国と地獄」の原作 (Amazon.jp)


1959年の作品です。
黒澤明監督の『天国と地獄』がおもしろかったので、いつか原作も読もうと思いつつ、やっと読みました。
上の紹介文でも「原作」とありますが、誘拐を企てた犯人がまちがって運転手の息子を連れて行ってしてしまった、というアイデアの部分だけで、あとは犯人像といい、身代金の受け渡し方といい、映画は映画でまったくのオリジナル作品とみなしても良いと思います。

最初から最後までそれなりにおもしろく読めたのですが、いかんせん、古くさいです。
古典本格ミステリの翻訳が多少古くさいのは、それも含めて味なので気にならなかったのですが、警察小説で、邦訳が出たのであろう1970年代に流行ったらしき言い回しがいちいちひっかかってしまいました。
あと刑事の一人称が、もれなく「あたし」(←男性)なのは、なぜですか。
エラリイ・クイーンを読んでいてもヴェリーやほかの刑事の一人称が「あたし」な作品があって気になっていたのですが…。岡っ引き? 岡っ引きなの!?(そういえばコロンボも一人称「あたし」だなあ) とりあえず男性一人称「あたし」がかもし出すイメージというものがあると思うので、刑事が全員一人称「あたし」はまずかったのではないかと思う次第です。

キングが他人の子のために身代金なんか払わない、と言い切るシーンがあるのですが、ノブレス・オブリージュなんかくそくらえ、おまえの金は俺の金、俺の金は俺の金、というところは、かえって現代的だと思いました。
キングの妻や刑事たちは当然キングがお金を払うと思いこんで話を進めているところは、時代かなあと思いましたが。
警察小説としては、刑事がちょっとのんきすぎて読んでいてイライラしました。逆探知のシーンとか、キャレラのバッジを受け取る制服警官のくだりとか「仕事しろよ、素人かよ」とか思ってしまいました…。エラリイ・クイーンにも子どもの誘拐を扱った作品がありますが、そちらの方が読んでいてドキドキしました。アイソラはニューヨークがモデルなのだそうで、なおさらそう思ってしまったのかもしれません。

ところで、この作品はご紹介するまでもなく、かの87分署シリーズの中の1冊です。
87分署シリーズと言えば警察小説のパイオニアにして金字塔と呼ばれている作品群で、もちろんわたくしも読みました。最初の2冊だけ……。
2冊で挫折したのは中心人物らしきスティーブ・キャレラがいい子ちゃんすぎて鼻白んだということもあるのですが、著者のエド・マクベインはそのうちキャレラには死んでもらう予定だったらしく、ああやっぱりなと思うとともに、だったら思い直してまた読んでみようかなと思いました。(笑)
ただ書店に行ったら、何年か前まではハヤカワミステリ文庫のコーナーでずらりときれいな黄色の背を見せていたのに、この本を買うときは数冊しか棚にありませんでした。
古本屋さんへゴーですかね…。
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by n_umigame | 2011-02-16 22:55 | ミステリ | Trackback | Comments(2)
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Commented by 縁側昼寝犬 at 2011-02-19 18:42 x
nisemiさま、こんにちは。

 87分署シリーズを何冊か読んだことはあるのですが、のめりこめず、順番に読破するまでには至らずでした。こんなに有名なシリーズなのになんでだろうか、と思っていたところ、某ミステ○マガジンで「マクベインは作品の出来、不出来の差が大きい云々」と評されていて、ああ、それでのめりこめないのか、と納得しました。ハズレても泣かない、壁に向かって投げないことを前提に、古本屋さんへGOですです。
 
 ですがアメリカ人にはそんなこと関係なく、受ける舞台設定なのかも知れませんね。アメリカミステリー小説シリーズの謎です。
Commented by n_umigame at 2011-02-19 19:25
>縁側昼寝犬さま
警察小説は大好物なんですけれどもねえ…。パイオニアには敬意を表するものですが、その後に続いた警察小説に傑作が多いので、どうしても物足りなく感じてしまいました。
設定自体はオッケーだと思うんですよ。もっともっとおもしろくなりそうなのに、何が足りないのでしょうか。謎ですよねえ。 ̄Д ̄ ~~3