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『犯罪』フェルディナンド・フォン・シーラッハ著/酒寄進一訳(東京創元社)

一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の息子。彫像『棘を抜く少年』の棘に取り憑かれた博物館警備員。エチオピアの寒村を豊かにした心やさしき銀行強盗。魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。弁護士の著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの哀しさ、愛おしさを鮮やかに描く連作短篇集。文学賞三冠獲得、四十五万部刊行の欧米読書界を驚嘆せしめた傑作!

「フェーナー氏」
「タナタ氏の茶碗」(碗は旧字)
「チェロ」
「ハリネズミ」
「幸運」
「サマータイム」
「正当防衛」
「緑」
「棘」
「愛情」
「エチオピアの男」  (出版社HP)



立て続けに、違う意味で「怖い」本を読んでしまいました。
前半は特にグロテスクな描写が続くので、その直截な描写に対する怖さ、嫌悪感ももちろんありますが、どちらかというとそれは表層の部分で、底流している冷たいものが恐ろしいといった印象でした。

短篇集ですが、全部読み終わるとすべての物語の底の方がつながっているような印象を受けます。

東京創元社から出版されていますが、ミステリーと言うよりは普通小説に近いおとぎ話を読んだような読後感でした。最後に収録されている「エチオピアの男」が特におとぎ話のような印象なので、締めくくりとしてなおさらそう感じたのでしょう。
早川書房から出ている「異色作家短篇集」シリーズが近いでしょうか。
けれども「異色作家短篇集」があくまでエンタテインメントであるのに比して、『犯罪』はやはり普通小説に近いと思います。

「おとぎ話」と言いましたが、タイトルにあるように、「犯罪」がテーマのひとつ(と思われます)となっていて、物語の中心人物がなぜその犯罪を行ったかという部分が丁寧に語られます。
それが「ついかっとなってやった」などというレベルではもちろんなく(笑)、どこか、あるいは明らかに病んでいるのですが、その犯罪の瞬間に立ち会ってしまったような臨場感と、人間としてどこかしら共感できる部分があるのが、これまた恐ろしいのであります。
それでいつつ、どこかファンタジーを読んだような、不思議な「アウェー感」もあります。

最後まで犯人がわからないとか、やばいんじゃないのと予想していたらやっぱりかい、みたいなオチもあり、勧善懲悪できれいに話がまとまるといった作風ではありませんが、最後のお話がびっくりするくらいハッピーエンドでしたので(笑)、わりとさわやかな読後感でした。

どのお話も、最初は三人称で語られているのに、途中、主に終盤から「私」の一人称で語られます。
それぞれの犯罪者の弁護側の人物による語りに突然切り替わるのですが、著者のシーラッハさんは弁護士だそうで、出版社の特設ページによると、実際にあった事件を元に書かれた小説なのだそうです。
そうであるからこその理不尽さ、不可解さなのかもしれませんね。
現実はお話のように、きれいにまとまるなんてことはほとんどありませんから。
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Commented by Yuseum at 2011-06-30 20:54 x
翻訳ミステリー大賞シンジゲートの七福神中六人が絶賛してたのが、これか・・・(°0°)
Commented by n_umigame at 2011-07-03 18:45
これですー。怖かったです~。意外な読後感の良さもあまって強烈な印象を残します。
by n_umigame | 2011-06-27 18:19 | | Trackback | Comments(2)

Welcome. 本と好きなものがたり。


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