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『闇の王国』リチャード・マシスン著/尾之上浩司訳(ハヤカワ文庫NV)早川書房

『アイ・アム・レジェンド』『運命のボタン』…マシスンこそがレジェンドだ! 巨匠が、この世のものならぬ怪異を語る最新長篇、ここに登場!

私の名はアーサー・ブラック。これまでに二十七冊の〈ミッドナイト〉シリーズをはじめ、三十年以上にわたって多くの作品を書いてきた。金を稼ぐために。そしていま、八十二歳になったいま、私がまだ本名のアレックス・ホワイトを名乗っていた十八歳の頃の経験を記そう。これは実際にあった話だ。信じがたい、とてつもない恐怖の数々が記されているが、何から何までが事実なのだ! 伝説の巨匠が満を持して放つ、最新長篇
(出版社HP)


お話をまともに受け止めるなら、俗に申し上げると、爺さんの「若い頃のオレはモテた」話。
もう少し文学的に(?)表現するなら「≪マシスンの分身であるところの≫アーサー・ブラックの”ヰタ・セクスアリス”」。
そうでないならどう楽しめばいいのか困る作品でした。
リチャード・マシスンはストーリーテラーとしてはとても巧い作家なので、最後まで読めないということはないのですが、最後まで読み終わって「………で?」と思ってしまいました。

紹介には「恐怖の数々」とありますが、ホラーではなくファンタジーです。

もっと言ってしまうと、妖精が出てくるファンタジーです。

あとがきによりますと、訳者の推測ですがと断った上で、ヤングアダルトのジャンルで生ぬるくご都合主義にあふれた妖精物語が大量生産されていることに対して反感を抱いた著者が、妖精物語はこういうものだという思いで筆を執ったのではないか、とあります。
しかし正直なところ、対抗馬がこれではなあというのが感想です。

たいていの「若い頃のオレはモテた」話に信憑性がないように(笑)、この物語も確信犯的に、語り手が信用できないことをそこここでにおわせています。
原文では綴りがあやしかったりするそうですが、語の用法についても何度も何度も「これでいいかな?」「陳腐だけど」といったコメントが入り、うっとおしいことこの上ない。
なのですが、もちろんこれは「この語り手は信用できない」というメッセージの畳みかけにもなっています。それにお年寄りの話ってこうだよねえ、というそこだけ妙なリアリティがあります。

リチャード・マシスンは自分も認める偏執狂だそうで、そういう意味ではいつもの(おおおい)妄想をぶちまけた話と読めなくもありません。

ですが、マシスンの作品に繰り返し登場する、「精神的・身体的に虐待する親/我が子を自分の所有物だと思っている親」と、「そこから逃れて自分の人生を生きようとする子」がこの作品でも描かれており、それがマシスン自身にとってはきっと意味のあることなのだろうとは思います。
導入部でしか語られない部分ですが、ここが一番「回想」としてのリアリティというか、重量を感じました。

個人的には、やはりマシスンはアイデア勝負の短篇の方がしゃきっと決まって、おもしろいと思います。
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by n_umigame | 2011-08-17 20:36 | | Trackback | Comments(0)
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