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*さいはての西*

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『孤高の警部 ジョージ・ジェントリー』#9「混沌のキャンパス」 ; Peace & Love

1966年、ポラリス原子力潜水艦が造船所に入るのを阻止しようと大学生のデモ隊が警察と衝突する。ダラム大学の学生たちはCND(核武装反対運動)の活動と自由恋愛の思想に燃えていた。デモの翌日、首謀者の大学講師フレイザーの水死体が埠頭で発見される。(AXNミステリー)


毎回原題は”Gently~”というタイトルなのですが、今回は違いましたね。

今回も1966年です。

以下ネタバレにつきもぐります。
犯人もわっていますのでご注意下さい。










原潜反対デモから始まりますが、今回のテーマは「自由恋愛(フリーセックス)」と「同性愛」でしょうか。同性愛の方は、単にゲイがどうこうということではない深いテーマになっていると思いました。

フーダニット(誰が犯人か)もののミステリというのは、テレビドラマや映画でやると、どうしても有名どころの俳優さんが混じっていれば彼/彼女が犯人である確率が高くなり、見せ場的にもどうしてもそうなってしまう傾向があります。
これは純粋に犯人当てが目的のドラマでは興をそぐ結果になりかねず、かといってあまり犯人が目立たないようにするとなるとドラマ全体が地味になってしまいかねません。
そんなわけで今回の犯人はもちろん彼。
てゆうか、ダルジール警視じゃありませんか!!!
いいのかダルジールが犯人で。最初に殺された大学講師がカスだから、まあいっか。(おおおい)

もちろん途中までは彼が犯人だということはまったく知らない状態で見ていたので、「主役ができる役者さんをこんな一証人ポジションの守衛さんの役だなんて、ぜいたくだなあ」とのんきに見ておりました。

ミステリの筋としてはちょっと唐突というか…。
まず、ジェントリーも本人に聞いていますが、なぜそんなに彼女にだけ大学の一守衛さんが心にかけるのかが、いまひとつ納得ができませんでした。これで最後に「実は彼女は私の実の娘です」とか「若い頃に愛した女性の忘れ形見で、母親に生き写しで情が移って…」とかいうカミングアウトがあるのかと思いきや、それもなく。
ゲイの彼氏(?)を衝動的に殺してしまうのも、理屈だけで考えると得心がゆきませんでした。
ただこれは自分がゲイだということを受け入れることができなくて、それはなぜかというと、おそらく繰り返し語られる「軍隊での功績」であるのではないかと思いました。
犯人が殺したかったのはゲイの彼氏ではなくて<実はゲイだった自分>ではないかと。彼氏はその投影でしかありません。
軍隊に入ったことがないので想像ですが、たいへんマッチョな組織であることは間違いないでしょう。同じくたいへんマッチョな組織であった昔のNY市警でゲイだとぼこぼこにされるというエピソードを何かで読んだ覚えがあるのですが、例えそれが幻想上の<男らしさ>であれ、それにしがみつくタイプの男性がいるのだということだと思います。
その自分の幻想…と言って冷たければ、理想の<男らし>い男だと自分は思っていたのに、なよなよした(あくまで偏見でしかないのですが)ゲイだった。それがすごくショックだったのでしょう。
本当に自分の男らしさに自信があれば、ル=グウィンの言葉を借りれば、彼は自分の男らしさが布巾(=台所仕事に象徴される女性の仕事と言われてきたものごと)では揺るがないことを知っているはずです。ですが、繊細/弱い男性にはそれは無理だったと。
(大脱線しますが、エラリイ・クイーンを読んでいてすごいなと思ったのが、クイーン警視が当たり前のように料理をするシーンが出てくるところです。父子家庭だから父親が家事をするのが当たり前になっていると言われればそれまでですが、なおかつクイーン警視が有能な刑事でとても公平で男らしい性格であることと一切破綻していません。もしクイーンがマッチョな作家だったら、彼に料理なんかさせなかったと思います。今から60年以上前のお話ですからなおさらです。)

1960年代のイギリスで、戦争経験者が大勢現役だった頃、本当の男らしさとは何かというテーマについて投げかけた回でもありました。
そして一方では「自由恋愛」の名の元に誠意のかけらもない人間と無節操な関係を持つことのリスクや、そこから引き起こされる悲劇(結局泣くのは女性だよ)というメッセージも含まれていたかと思います。
本当に毎回毎回深すぎるドラマであります。

さて、今回のお笑いポインツですが。
バッカスが飛ばしてくれてます。

・チェ・ゲバラを知らないバッカス。そんなもん? ではあるでしょうが、「これ彼氏だな!」と決めつけて、「チェ・ゲバラ知らないの?」と笑われてから何かおかしいことに気づくバッカスに笑いました。よかった、レーニンのポスター見て「こいつが彼?」とか言わなくて。
・シーガル・クラブというゲイの集まるクラブへ入り込むジェントリーとバッカス。
うっすらどういう場所か知っていて入るジェントリーと、カウンターで他の客からじろじろと見られ「羨ましいね」と言われるまで気づかないバッカス…というか気づいた瞬間のバッカスに大爆笑。
実はここ、わたしもバッカスと同時に「あ、そういう…!」と気づいて大笑いしました。
・バッカスはどんどん仕事のできる子になってきましたね。ジェントリーはバッカスに自分の推理をどんどん話させて、自分は最後まで聞くまで何も言わず、バッカスに自分に気づかせます。いいなこんな上司。アタシも欲しいよ。
・バッカスはとうとう離婚を決意。
舅(署長…でしたよね?)は最初、「もうスイフトが犯人でいいじゃん!」と決めつけて事件の早期解決を焦るのですが、「でもジェントリーは確証がないうちは犯人と決めつけたらダメだって言ってます」と言い返し、結果、やはりジェントリーが正しかったことが証明されます。
真犯人が逮捕されて、あきれたように「何という結末だ、嘆かわしい」みたいなことを言う署長をにらみつけるバッカス。「娘が離婚なんて世間体が悪い」とかなんとか言われて、そのせいもあって離婚を渋っていたバッカスでしたが、これでもうこんな男には愛想が尽きたというシーンでもあったと思います。
だから、あれだけゲイに対する偏見だだ漏れだったのに、犯人に新聞とコーヒーを差し入れるという気遣いをしたのでしょう。
・バッカス…立派になって…(涙)。
by n_umigame | 2011-12-26 20:15 | 映画・海外ドラマ