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『帝王死す』 エラリイ・クイーン著/大庭忠男訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)早川書房

第二次大戦当時の機密島を買い取り、私設の陸海空軍を持つベンディゴ帝国に君臨する軍需工業界の怪物ジング・ベンディゴ----彼の許に舞い込んだ脅迫状の調査を求められ、クイーン父子は突然ニューヨークから拉致された。その強引なやり方と島の奇妙な雰囲気にとまどいながらも、エラリイはついに意外な犯人をつきとめた。しかし次の瞬間、父子の眼前で不可解な密室殺人が……冒険小説風に展開する奇抜な不可能犯罪の謎!
(カバー裏)


好きなんです、この作品。
翻訳も、大好きな訳者の大庭忠男さんです。
初めて読んだときは、「作家クイーンさんたちは何がしたかったのか」と開いた口がふさがりませんでしたが、2度目以降は何度読んでもおもしろくて笑いが止まりません。(そういう「おもしろい」かい。)
あまりに何度も読んだので、ページが取れ、おまけに付箋を貼りすぎて邪魔っけで読みにくいったらありゃしません。(取れよ、付箋。)
おかげさまで、このたび複本を買う運びとなりました。
何かが間違っているような気がしますが、きっと全部間違ってます。でも気にしない。

エラリイ・クイーンというとロジックの権化みたいな言われようをしていることが多いように思いますが、個人的にクイーンはそんなに理詰めな作風ではないと思っています。
それを証拠に、中期から後期にかけての作品は「こんなのクイーンじゃない」とか「一回読めば十分」とか、もっと進んで「凡作」とか、もっと進んで (ピー) とか言われております。
クイーンじゃなかったら何だってんでしょうか。中期後期も含めて、全部クイーン。それでいいではありませんか、クイーン警視が出てるなら。(おおおおい)
少なくとも、そこに愉快なクイーン親子がいる限り、たいていおいしくいただける自分は幸せ者だと思います。

以下、ネタバレにつきもぐります。
犯人についても触れていますので、ご注意ください。








さて、この作品は、クイーンの密室ものに当たると思います。
クイーンの密室というと『チャイナ~』の前例にもあるように、お世辞にもエンタテインメントとして成功しているとは言いがたい。国名シリーズの頃は特に、クイーンの回りくどい、わかりにくい文章もあいまって、密室の状況を説明するのに向いていないのかもしれないと思ったくらいです。

ところがこちらの『帝王死す』。わかりやすいです。
密室の中に被害者とその妻、合計二人。
密室の外に見張りのクイーン警視一人。
犯行予告をした被害者の弟一人、見張りのエラリイ一人。
このシチュエーションで被害者が撃たれるのですが、トリックがどうなっているかはさておき、この状況では実行犯はもう決まっていると言っても過言ではないのではないでしょうか。

したがって、この作品の愉快なところは謎解きではありません。(言い切りよった)
裏表紙でも逃げを打紹介されているように、このお話はクイーン父子の「冒険小説」であります。

イントロで、クイーン父子は謎の男たちに有無を言わせず拉致されます。
やってきたのは第二次大戦のどさくさに軍需産業で成り上がった、愉快なベンディゴ・ブラザースの次男・エーベルでした。機を見るに敏で、何で稼いでもカネはカネだ、という感じのエーベルは現代のヤッピー(死語)の大先輩ではないかと思います。
大好きな朝ごはんの最中に邪魔をされたクイーン警視は、仕事も勝手に有休扱いにされていたのでプンスカプンです。
エラリイはエラリイで、先の先まで仕事終わっててしばらく締め切り来ないでしょ、と。
そこでいきなり大統領(当時の、おそらくトルーマン?)に確認の電話をすると、「まあよろしく頼むわ」みたいな一言で、結局クイーン父子は行くはめに。
何でクイーン家の電話は大統領とホットラインでつながってんだというツッコむ隙もあらばこそ、にやりと笑いあって握手するクイーン父子に、「今から冒険が始まるんだ!」とわくわくします。

わくわくするのはイントロだけで(おおおおい)、真ん中以降はちょっとだれ気味になり、結局事件の背景にあったのはベンディゴ家のお家騒動でした。それもなぜだかライツヴィルで明らかになるあたりは、もうクイーンさんのごり押し趣味だろうと。
そんなこんなでエラリイが説明してくれたところをまるっとまとめると、今で言うところの機能不全家族で育ってトラウマを負った兄弟のリベンジ大・作・戦★でした。という。しかもおまえそれリベンジするなら相手は親じゃないのという感じで。

こうやって書くとなんだかすごくダメミスみたいな感じですが、いやいや、読んだらすごく楽しいんですよ!
作家クイーンは女性を書くのが有体に申してへたくそというか女性になってないことが多いですが、この作品に登場するカーラは、自分で描いてみたいと思った数少ない女性キャラです。(あとはニッキイとジェシイとリーマ。)

また、ひどい家庭で育った兄弟の気持ちの動きとか、とても現代的だと思いました。
昔より増えているように感じられることも、事象に名前がつけられたことによって顕在化しただけだということがよくわかります。『九尾の猫』(1949年)を読んだときも思いましたが、クイーンの作品を読んでいると、掘り下げられてはいないものの、今読んでも現代的な問題提起になっている作品が多いことに気づかされます。

楽しいので、未読の方はぜひトライしてみてください。
ただし個人の感想様々ですので「時間返せ、きい!」となった場合の保証はございませんので、ご了承ください。
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by n_umigame | 2012-02-27 19:26 | *ellery queen* | Trackback | Comments(2)
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Commented by Yuseum at 2012-02-29 22:32 x
そうそう、クイーン作品の愉快なところは謎解きではない(; ・`д・´)
結構、内容を忘れましたが(..;)、それは無理でしょな密室みたいな感じのものとw、ラストの「プール」が印象的…

…一応、原作を確認しました。
そうそう、プールでキングはうちひしがれた老人になっちゃうんですよね( ´-`)
Commented by n_umigame at 2012-03-04 20:30
「密室」は無理にそこまで密室にせんでも…て感じですよね^^;
物語も、ツカミはオッケーなのですがクイーン父子がベンディゴ島に行ってからはあまり動かないんですよね。
でもこれはこれで、現代的な問題をいろいろとはらんでいる作品ではあります。
考えようによってはキングは、彼は彼で本当にかわいそうな人ですよね。