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『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』【新訳版】ジョン・ル・カレ著/村上博基訳


(ハヤカワ文庫NV)早川書房

英国諜報部〈サーカス〉の中枢に潜むソ連の二重スパイを探せ―引退生活から呼び戻された元諜報部員スマイリーは暗黒の領域に分け入る困難な任務を託された。情報によれば、この二重スパイは彼のかつての仇敵、ソ連諜報部のカーラに操られているという。スマイリーは〈サーカス〉の記録を遡り、関係者の証言を集め、複数の容疑者を洗いあげていく。やがて彼が見いだす意外な裏切者の正体とは?敵味方の区別もつかぬ灰色の世界に展開するスマイリーとカーラの凄絶な頭脳戦。二人の宿命の対決を描きスパイ小説の頂点を極めた3部作の第1弾!
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人と人のあいだに、なんらかの自己欺瞞を支えにせぬ愛情なんてあるのだろうか。(p.497)


しばらく「イエス、くりかえす、ノー」が自分内で流行りそうです。仕事で使ってみたいよ。上司に言ってみたいよ。

旧訳版にざっと目を通していたのですが、新訳でじっくりと読み直しました。
「旧訳は読みにくい」と評判だったのですが、読み比べてみてもそうでもなかったですよ。(井上勇訳でエラリイ・クイーンにハマった人の言うことなので、そんな感じで聞いておいてください。)
「ティシュー・ペーパー」(新訳)と「ティッシュ・ペイパー」(旧訳)、どちらが自分的には気持ち悪いですか程度の差かなと(笑)。

「スマイリー三部作」と呼ばれるシリーズの第一作だそうです。
ジョージ・スマイリーとの出会いは『寒い国から帰ってきたスパイ』だったのですが、このスマイリーにはあまり良い印象は残っていませんでした。不快なキャラというわけではなく、ちょっとしか出てこないのですが、怖くて怖くて…。たまたまBSか何かでやっていた映画も見たのですが、ちらっとしか登場しないラストとか体温が2度くらいさーっと下がる感じでした。ものすごい存在感を残していくという意味ではすごいキャラクターだなという感じでした。

大筋を言うならば、引退したスパイであるスマイリーが、英国諜報部(サーカス)に長年潜入している<もぐら>(二重スパイ)を探し出す物語です。主にスマイリーの目から見た世界が描かれるのですが、わかりやすい、スピーディ、カタルシスを味わえるラストシーンといった、エンタテインメントに求められるそれらの要素のどれからも遠い作品です。
では読みにくくてつまらないのかというと、まったくそんなことがないのです。
むしろその逆です。
ひたすら緻密に描写され、ゆっくりゆっくりと進む物語の中から、暗く濃い霧の中からぼんやりと浮かび上がってくる影のように真実が明らかになってゆきます。
登場人物も多く、錯綜する、大は政治的、国際的背景から小はスマイリーと妻アンとの関係のような比較的卑近なところまで、それぞれの思惑を持って入り乱れては登場し、消えてゆきます。
それらすべてが混沌として、ノンフィクションを読んでいるのかと錯覚するほどリアリティと重量があります。ぴりぴりとした緊張感と心理戦が繰り広げられる中にいると胃に穴が開きそうなのですが、それでいて文章はロマンティシズムにあふれ読んでいて気持ちが良く、いつまでもここにいたいような気持ちになります。

ジム・プリドーと、彼の赴任先の学校の生徒であるローチとの交流もいいですね。ちょっと『飛ぶ教室』を思い出しました。
ひたすらホモソーシャルな世界の話ですが、女性も魅力的です。「いい人」ではないかもしれないけど、重量やにおいを感じます。

『寒い国から~』であまり好きになれなかったスマイリーも、常に冷静で何があっても動じず、焦らず、怒らず、一見老練でかっこいいと思ったのですが、必要であれば笑い、苦手なカレーも目がないふりができるという、考えようによってはたいへんおそろしい人です。やっぱり怖いよスマイリー。

果たしてこの作品が映画でどうなっているのか、いやが上にも期待が高まります。
旧版あとがきによりますと、すでに『ティンカー~』の時点で齢70というスマイリーなので、ゲイリー・オールドマンはちょっと若いかなあと思ったのですが、予告やスチールを見ていると渾身の老けメイクで全然問題ナッシンですね。(40歳のギラムが若造呼ばわりされるわけだよ…)



以下、ネタバレ
















それにしても、なぜこう、さらっとバイセクシャルというかゲイの人が自然に出てきますかね、イギリスの作品は。(笑)しかも初版1974年のこの作品ですら「ゲイの人?え、ふつうにいますけどそれが何か。」くらいのナチュラル感。
ビル・ヘイドンとジム・プリドーが恋人どうしだったっていうのはいいけど、ヘイドンはどちらかというと同性の方が好きで、他人の奥さんに手を出すのも、若い女性をかこうのも作戦でしかない印象がちょっとアレでした。もういいじゃん、ふつうにゲイで。女にしたら迷惑ですよね、こういう人。スマイリーに同情してしまいました。
しかも、ちょっと読んでしまった映画版『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ/裏切りのサーカス』ネタバレ感想文では、原作では女好きの彼がさらっとゲイの設定だとか。えええええ何その改変、楽しすぎて二の句が告げません!(笑)
(ちょっぴり、それが伏線になるとしたらどうするんだろう…と思いましたが…)
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by n_umigame | 2012-04-06 18:30 | | Trackback | Comments(0)
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