*さいはての西*

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『第九軍団のワシ』(2011)

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西暦120年、ローマ帝国はブリタニア(現在のイングランドとウェールズ)への侵略を進めながらも、北端地域に君臨するカレドニア(現在のスコットランド)の部族の抵抗に手を焼いていた。ローマ軍最強といわれる第九軍団の兵士5000名はフラビウス・アクイラ指揮の下、黄金の“ワシ”を掲げてカレドニアに進攻したが、霧の中で忽然と姿を消し、再び帰ってくることはなかった。激怒したローマ皇帝ハドリアヌスは、ブリタニア人の南下を防ぐため防壁の建設を命じる。“ハドリアヌスの長城”と名付けられたこの防壁はやがて、ローマ帝国の支配圏における最北端の境界線“この世の果て”と呼ばれるようになる。20年後、誇り高きローマ軍人として成長したアクイラの息子マーカス・アクイラ(チャニング・テイタム)は、父の影を追うようにブリテン島(イングランド)の南西部に位置する小さな砦に赴任する。赴任して間もなくのある夜、先住民族に砦を襲われ勇猛果敢に戦ったマーカスは、その功績を称えられたものの、足に重傷を負い軍人生命を絶たれてしまう。生きる目的を失い、絶望の淵に追いやられたマーカスは、伯父(ドナルド・サザーランド)の屋敷で傷を癒しながら憂鬱な日々を送っていた。ある日、マーカスは観戦していた剣闘試合で、奴隷戦士のブリタニア人青年エスカ(ジェイミー・ベル)の命を救う。エスカは命の恩人であるマーカスに忠誠を誓い、奴隷として仕えることになる。そんなとき、ブリテン島北端の神殿に“ワシ”があるという噂を聞いたマーカスは、父の汚名を晴らすため、また自らの生きる誇りを手にするため、エスカを従え、危険な北の荒野へと“ワシ”を取り戻す旅に出る。果たしてマーカスとエスカは、消えた父と5000名の兵士の謎を解き明かし、“ワシ”を取り戻すことができるのか。想像を絶するほど広大で厳しい荒野で、2人を待ち受ける真実とは……。
(goo映画)



原作に比べるとドラマの部分が薄すぎる、というのが予想通りの感想でございました。
だって尺が120分弱ですよ~。無理無理無理。
サトクリフの小説は児童文学にカテゴライズされていますが、内容の重量といい、登場人物の細やかな心のひだを洗うようなドラマの部分といい、子どもが読むものじゃありません(断言)。もし原作を「児童文学」というカテゴライズゆえになめている人がいたら、だからこんな映画なんだと思ってる人がいたら、校庭10周しかるのち焼きそばパン買ってこい。
特にこの『第九軍団のワシ』は、原作ではマーカスとエスカが友達になるまでの課程がとても細やかに描かれていて、征服者と被征服者それぞれの側である二人の間に、いかに友情が形成されていったか、またその友情が確固としてゆるがないのはなぜかという部分が、物語上とても大事な部分です。
なかなか動き出さない物語に最初はやきもきさせられますが、この冒頭の部分があるからこそ、「ワシ」探求の旅に出てからの二人の固い絆に説得力があるのです。

以下、ネタバレですので、もぐります。














映画ではここを改変してしまっていました。
エスカは家族をローマ軍に殺されたゆえにローマ軍を憎んでいるのですが、その気持ちを最初は隠していて、道中で二人は大げんか。
ハドリアヌスの長城より北ではローマの統治も及ばず、ローマ人のマーカスにとってエスカのフォローがないのは文字通り致命的なのですが、映画では二人の関係が危なっかしいところを逆手に取って、サスペンスを盛り上げようとして、結果的にうまくいかなかった感じです。「必ず戻ってきます!」というシーンが、いつのまにエスカはそんなにマーカスに対して友情を感じる仲になったのか、とても唐突な印象を受けてしまいます。

原作では、ローマ軍が来る前に父親が母親を殺し、それは母親が自ら望んだことで、父親も兄たちも殺されたことを淡々と語ります。マーカスはそれに対して「ひどい話だ」と言うのですが、エスカは「よくあることですけど」と、非常にクールに受け止めています。このエピソード以外にもむしろ、エスカの代わりにマーカスが怒る、というシーンが原作では多くて、その最たるものはプラシドスとのエピソードでしょう。マーカス自身が、プラシドスのように貴族が腰掛けで「軍人ごっこ」をすることに対して苦々しく思っているのですが、プラシドスがエスカに対しての言動に「胸が冷えるような怒り」を感じたというシーンがあります。(ここ好きなんですよ。あまりの怒りに体温がすーっと下がるということありますよね。)
なので映画でもプラシドスが出てきたとき「おっしゃああ!」とわくわくして見ていたのですが、ラストシーンでちょっと嫌み言われてマーカスが言い返すだけという…。
まったく、なんて、なんてもったいない。

そのラストシーンも、「でかしたでかした」「第九軍団を再建しよう」「そうしようそうしよう」みたいな安直な元老院議員(?)たちにもあきれました。原作はもっとリアリティがあり、マーカスとエスカに支払われた代償は、二人のすばらしい冒険そのものだけでした。でもそれ以上の代償が果たしてあるだろうかという、心が洗われるような清々しい終わり方になっています。
映画の最後もちょっと安っぽいバディもののラストシーンみたいでしたが、音楽の力にも助けられてこれはこれでまあまあかと…。きれいにまとめようとして終わりを急いだという印象はぬぐえませんでしたが…。

映画館で見ると全体的に画面が暗くて、何が起きているのかよく見えないのですが、それがかえってどきどきしました。現実に当時の明かりでは夜ほとんど見えなかったでしょうし、マーカスが実際に感じたであろう暗さ(明るさ)ってこんなかなと。
また原作にあった恋愛要素はばっさり切り捨てたところは、思い切って良かったかもしれません。(個人的にはコティアが好きですが)
キャストですが、イギリス人俳優さんたちの演技が良かっただけに、チャニング・テイタムはやはり厳しかったかなあとも思いました。ビジュアルは大人になったマーカスという感じで良いのですが、演技が大味と申しますか…(ファンの方ごめんなさい)。マーカスのような、好青年なんだけど鬱屈している部分があり、けれども誇り高いのでそれを内に秘めて一人で克服しようとしていて…みたいな裏表のある繊細な演技は見られませんでした。

というわけで、言い出すといろいろと不満があるのですが、箸にも棒にもかからないというほどひどいわけではありませんでした。(わたくしの最低基準:ドラマ版『ゲド戦記』)もう一回見に行きたいと思いましたし、DVDが出たらほしいです。細かいところを突っ込んで見たらきっとそれなりに楽しいんじゃないかなと思いました。
DVDでは英語とゲール語の字幕もついているといいな。

あと、パンフレットに猪熊葉子さんのご寄稿があったのがうれしかったです。
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by n_umigame | 2012-04-16 21:45 | 映画・海外ドラマ | Trackback | Comments(0)
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