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*さいはての西*

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『サラの鍵』(2010)

1942年7月16日のパリ。10歳の少女サラは両親と共に警官に連行される直前に、弟のミシェルを秘密の納戸に隠して鍵をかける。「すぐに帰る」と約束をして。しかし、それはフランス警察が1万3千人のユダヤ人を屋内競輪場(ヴェルデイヴ)に収容した一斉検挙だったのだ。2009年、フランス人と結婚しパリに暮らすアメリカ人ジャーナリストのジュリアはヴェルディヴ事件の取材を通じ、夫の家族の秘められた過去を知る事になる…。
(goo映画)



劇場で予告を見てから気になっていた作品です。
ちゃんと時間が取れるとき、そしてあまり疲れていないとき限定だなこりゃ、というわけで見てみました。

予告通りたいへん重い映画ですが、ラストは少し希望を感じさせる幕切れになっていました。

パリ警察による大規模なユダヤ人検挙である「ヴェルディヴ事件」。恥ずかしながら、まったく知りませんでした。
作中、若いジャーナリストが、「ヴェルディヴってどんな綴り?」と聞いて年長の同僚にあきれられるところを見るとフランスでも若い世代には知られていないようですが、若者が、当然のことのように「ナチスは記録魔だから云々」と言うと、主人公のジュリアが「検挙したのはパリ警察よ」と事実を正すシーンが印象的でした。
非道の行いは外国人がやったと思いたい。そんな「普通の人の普通の心理」の怖さを感じさせるシーンでした。どこの国にも暗部がありますが、この事件は1995年にシラク大統領が謝罪するまで自国の責任を認めていなかったそうです。

映画は過去と現実を交差ささえて、淡々と見せていきます。
過ちを明かす/正すのだ、と大声で言い立てるような気負ったところはありません。

この作品では「名前」が重要なキーになっています。
ホロコーストの記録を残し管理している老人が言うように、犠牲になったユダヤ人たちを「数」ではなく「顔」を残すこと。
収容所で一度は妨害した警官が、「ジャック」と名を呼ばれてサラたちを逃すシーン。
デュフォール夫妻にかくまわれて最初は「ミシェル」と弟の名を名乗るけれど、デュフォール夫妻が信頼できるとわかってからは「サラ」と本当の名を明かすサラ。
ジュリアの二人目の子どもの名前。

人が人と対等に向き合うとき、そこに必ず「名前」があるということ、そして名を呼ぶことで人一人の重みを考えるということを、考えさせられました。

そして過去に犯したあやまち…ジュリアの言葉で言えば「真実」と向き合う勇気について。
ジュリアの夫ベルトランは「真実を見つけて、それで誰かが幸せになったのか? 世界が少しでも良くなったのか?」と問います。
ジュリアが暴いた真実はつらいもので、ある人は隠し通し、ある人は最初は受け入れることができず、やがて深く傷つきます。「自分の今までの人生はすべてうそだったのか」と。

それでも、というのがこの作品の問いかけでしょうか。
それでも、やはり、知らなくてはならない、伝えていかなくてはならない。二度と同じ悲劇を繰り返さないために。

ヴィシー政権下のパリの悲劇を描いた作品というと、萩尾望都さんの『エッグ・スタンド』もお勧めです。
ぜひ。
「春…! 春は来るのか」という主人公のモノローグが忘れられません。
by n_umigame | 2012-08-17 20:17 | 映画・海外ドラマ