*さいはての西*

fwest.exblog.jp
ブログトップ

『エラリー・クイーンの災難』エドワード・D・ホックほか著/飯城勇三編訳(論創海外ミステリ)論創社

世界初のエラリー・クイーン贋作&パロディ集。ホックが、ネヴィンズが、ポージスが、ブリーンが、ロースンが、エラリー・クイーンに挑む。〈EQ Collection〉第7弾。
(出版社HP)



けっこう前に読み終わっていたのですが、感想を上げていなかったので。
夏に出したコピー誌から一部改訂してお届けいたします。

贋作篇、パロディ篇、オマージュ篇の3部構成になっています。
エラリイ・クイーンの場合、その名が「架空の探偵」と「従兄弟二人組の作家」の両方を意味するので、この贋作・パロディ集も元ネタとして両方を意味する作品が収録されています。

内容は以下のとおり。

第一部 贋作篇
「生存者への公開状」 F・M・ネヴィンズ・ジュニア
「インクの輪」 エドワード・D・ホック
「ライツヴィルのカーニバル」 エドワード・D・ホック
「日本鎧の謎」 馬天
「本の事件」 デイル・C・アンドリュース&カート・セルク

第二部 パロディ篇
「十ヶ月間の不首尾」 J・N・ウィリアムスン
「イギリス寒村の謎」 アーサー・ポージス
「ダイイング・メッセージ」 リーイン・ラクーエ
「画期なき男」 ジョン・L・ブリーン
「壁に書かれた目録」 デヴィッド・ピール
「フーダニット」 J・P・サタイヤ

第三部 オマージュ篇
「どもりの六分儀の事件」 ベイナード・ケンドリック&クレイトン・ロースン
「アフリカ川魚の謎」 ジェイムズ・ホールディング
「拝啓、クイーン編集長さま」 マーク・ジャクソン
「E・Q・グリフェン第二の事件」 ジョシュ・パークター
「ドルリー」 スティーヴン・クイーン


世界初のクイーンのパロディ、パスティーシュ集という意味では、ファンとしてはマストバイ・アイテムではあると思いますが、感想を総括的に申し上げますと、「やっぱりちょっとキビしいな」ということでした。

パロディ…つまり二次創作は何でもそうですが、元ネタを知っている方が楽しいものですが、この贋作集はなおさらそうだと思います。
と申しますのは、エラリイ・クイーンという”探偵”が元ネタとして困るキャラクターだろうなあ、ということを改めて感じた贋作集でしたので…。
年齢や外見といった具体的なイメージがはっきりしない。趣味嗜好に一貫性がない。これといった相棒もいない(わたくし脳内的にはいちおう父子コンビ、父子コンビです!…ですけれども!)。これといった恋人もいない。これといった友人もいない。短編では陽気で優しそうだけど長編ではどう考えても性格暗いし冷酷なところがだだ漏れてる。(←…)
クイーンパパみたいに、敏腕刑事なのにものすごい親バカといったギャップが魅力というのではなく、キャラクターとして破綻していると申し上げても過言ではないくらいだと思います。
なぜそこまで言うかと申しますと、かくいう自分も二次創作で困ったからですけど八つ当たりですけどそれが何?


以下、それぞれの作品の感想です。
以下の感想にはネタバレがありますので、未読の方はご注意くださいませ。(原作の『顔』を未読の方はご注意ください。)













≪第一部:贋作篇≫
贋作篇はいわゆる謎解きミステリーとして、それ自体秀作が多い印象でした。
また、パロディ(二次創作)は原典の特長が良くも悪くも極端に出やすいと思っているのですが、どれもこれもけっこう暗くて、改めて「エラリイ・クイーンって暗いよね」ということを再確認させていただきました(笑)。
「国名シリーズの頃のエラリイは明るいじゃん!」というご意見もあろうかと思いますが、発表順に読んだわけではないわたくしのような者には、根が暗い人が無理して明るくふるまっているようにしか見えず、その辺りのほころびが『アメリカ銃~』や『日本樫鳥~』で性格の陰惨さになってじわじわと表出し、その締めくくりが『十日間の不思議』になっちゃったんだなあと思っています。
代わりにクイーンパパが明るい人だからいいのです。何もかもそこに落ち着くわけなのです。


『生存者への公開状』F.M.ネヴィンス・ジュニア著
遺産を残して殺害された被害者。その被害者だけしか見分けがつかない一卵性の三つ子の兄弟が容疑者。しかも犯行当時は全員水着でした、という、設定だけ聞いていると笑ってしまいますが、謎解きが理屈っぽくていいなあ(笑)。その論理的矛盾というかジレンマをどう解決するのかという部分がおもしろかったです。原典でもよく「トンチ式遺産相続」という、最後まで生き残った人間が総取りという遺産相続法が出てきますが、けったいな遺言のおかげで自分の首を絞める(寿命を縮める)というパターンのように思います。(死んでるけどな…)
大人の事情で「エラリイ・クイーン」という名前は出せなかったそうですが、いかにもエラリイっぽいキャラが生きています。クイーンパパ(らしき人)もちらっと登場します。

『インクの輪』エドワード・D・ホック著
再読。『ミステリ・マガジン』(1999年12月号)で『赤い丸の秘密』という邦題で一度掲載されています。
これはですね、「現代版エラリイ・クイーン」なのですよ!
ですのでアメリカで現代版シャーロック・ホームズドラマを制作すると聞いたとき、真っ先に「アメリカさんよ、二匹目のドジョウを狙うんだったら、自国にステキミステリがごろごろ転がっとるやないかい、そっから選ばんかい、例えばエラリイ・クイーンとか、エラリイ・クイーンとか、あとエラリイ・クイーンとか!!」と心から叫びましたね。これからも叫び続けますのでよろしくお願いします。
さて、作品の感想ですが、前回読んだときもやっぱりいつまでも引退させてもらえないクイーンパパ(とジェシイ)を、もういいかげん休ませてあげようよと思ったり、でもまた会えてうれしいと思ったり複雑なファン心理でございました。
今あえて文句をつけるとすれば、現代の女性を台所に押し込めておくのはもう無理だということです。
つまりジェシイのことなのですが、原典『クイーン警視自身の事件』で登場したときも、看護師として働きながら自分で家を買って、「自分に来る請求書は自分で支払います」とクイーンパパに言って惚れ直させた現代的な女性でした。
クイーンパパも、保守的な人だと思っていたのですが、意外と女あしらいがうまいというか(笑)、ちゃんとジェシイを一人の人間として尊重して、ありがちな勘違いの「男らしさ」を押しつけようとは決してしないのですよ。だからクイーン警視が好きなのですが(はいはい)そのあたり、『真鍮の家』でもすでに退化していたのですが、かえってパロディである本作の方も、原典より退化しているイメージです。
ミステリーとしては、クイーンらしい言葉遊びで謎解きをする作品です。


『ライツヴィルのカーニバル』エドワード・D・ホック著
ライツヴィルものがあんまり積極的に好きではないので、舞台がライツヴィルと聞いただけで読む気がけっこう失せるのはクイーンパパが出てこないからです(ドヤ顔で)。
携帯電話を携帯してないエラリイはそれだけでなんかいろいろと、ええっと、おじさん?
なのですが、携帯電話が謎解きの重要なヒントになっているところが、現代風かもしれません。(あまり愛がないので弱気の発言です。)

『日本鎧の謎』馬天著
中国にもクイーンファンの方が大勢いらっしゃるようで、中国語版のクイーンもたくさん刊行されています。クイーンパパはエラリイから「爸爸(パーパ)」と呼ばれているのでしょうか。かわいいですねえ。なごみますねえ。
ええっと、ミステリーとしては、訳者の方のコメントにもあるように、新本格っぽいというか、無理ありすぎ?(笑)エンタテインメントとしてのミステリを愛する身としては、謎解きのための謎解きという作品があまり得意ではないので、ごめんなさい。

『本の事件』デイル・C・アンドリュース&カート・セルク著
アメリカ人のアンドリュースさん(本業は弁護士)とベルギー人のセルクさん(同・医師)という二人のクイーンファンがタッグを組んで書かれた作品だそうです。
セルクさんは、かのステキサイト"Ellery Queen, a website on deduction"の管理人さん。最近までご職業やどこの国の方かを存じ上げなかったのですが、ファンになった当初はお百度を踏んでいたサイトさんです。
お世話になっております。

作品ですが、元ネタは『顔』です。

年老いたエラリイとハリー・バークが再会するところから始まるのですが、イギリス人のハリーがNYPDの刑事になっているのが何とも言えない違和感があります。
また『顔』では、エラリイが真実をあばいたことからハリーが不幸のどん底に突き落とされるというオチになっていますが、今作はせっかく傷が癒えたハリーを呼びつけてもう一回殴って踏んづけるような展開になっており、えーと、これ書いた人、どS?(おいおい)
すまんが、それ、本質的な解決になっていないのでは?
あと、さすがにクイーンパパはもうすでに鬼籍に入っているだろうなあとか、そんなことが頭をよぎり、しかもこんな展開でたいへん悲しくなってしまった一品でした。
ひとつだけうれしかったのは、古今いろいろな説が出ているらしい、エラリイの奥さんですが、わたくしは個人的にこの人の方が絶対いいと思うんですよ、ハリウッドのゴシップ記者よりは。(カミソリは間に合ってます。) 以前から、「なんで自分のとこのドル箱シリーズキャラクターの初恋の相手をあのハリウッドのゴシップ記者にするかな?」という疑問がぬぐえなかったので。
…あ、ここで言う「ハリウッドのゴシップ記者」というのは固有名を避けるために出した代名詞とお考えください。現存するハリウッドのゴシップ記者の方々に含むところはいっさいございません。
人前でほかの女性のことを「この売女が」とか言う女の人がどうかと思うだけなんで。(しかも彼氏=エラリイの前で…)クイーンパパは女性の趣味がいいのにねえ…。


≪第二部:パロディ篇≫
パロディ篇は言ってみれば「受け狙い」ですかね(笑)。
とにかく、いかにくだらなくても笑いを取った者勝ちという感じです。


『十ヶ月間の不首尾』J・N・ウィリアムスン著
クッダラネー(笑)。
レリー部長刑事が「七フィートの肩幅」って、ハルクかよ!!
世界中の法の守護者たちから忌み嫌われちゃったセロリーもむべなるかな。自分の推理の過ちが暴露されるくらいなら父親でも撃ち殺すというのは、本当にやりそうで怖い(笑)。(特に国名シリーズの頃)

『イギリス寒村の謎』アーサー・ポージス著
再読。クッダラネー(笑)。

『ダイイング・メッセージ』リーイン・ラクーエ著
アナグラム。翻訳で読むとおもしろさが激減してしまうのが残念です。

『CIA:キューン捜査帖』ジョン・L・ブリーン著
これもだじゃれものというか。

『壁に書かれた目録』デヴィッド・ピール著
ウィルソン図書館の会報に掲載されたものだそうです。
うん。
司書の自虐ネタなんでしょうけど、司書の人ってジョークが苦手だということはわかりました。すべってます。
あと、Library of Congressはそろそろ「国会図書館」と訳すのはやめて、アメリカ議会図書館と訳してほしいです。やっぱりNDLとは違うと思うので。

『フーダニット』J・P・サタイヤ著
スター・トレックとのコラボパロディ。エンタープライズ号でカーク船長が殺された、全身にマーガリンを塗りたくって焼かれたという…おいおい(笑)。
クイーン警視がコロンボとまたいとこにされていたり、フリーダムにもほどがあります。
スタトレに詳しい人の方がより笑えたかも。


≪第三部:オマージュ篇≫
オマージュ篇には以下の作品が収録されています。
『どもりの六分儀の事件』
『アフリカ川魚の謎』
『拝啓、クイーン編集長さま』
『E・Q・グリフェン第二の事件』
『ドルリー』
この中で『ドルリー』の感想だけ。

『ドルリー』スティーヴン・クイーン著
著者についてはほとんど不明とのことです。
スティーヴン・キングの『ミザリー』のパロディでもあります。作家エラリイ・クイーンが、バーナビー・ロスという別名義を同時に使って小説を書いていたことをうまくからめてます。おもしろかったです。
おもしろかったですが、クライマックスを画像で想像すると笑いが止まらないのはなぜなのでしょうか。
[PR]
by n_umigame | 2012-10-01 17:49 | *ellery queen* | Trackback | Comments(2)
トラックバックURL : http://fwest.exblog.jp/tb/16914812
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by Yuseum at 2012-10-22 00:21 x
あっ、にせみさん。感想UPされてたんですね(^-^)!
Yuseumの感想は…「これはキツイ(-。-;」(笑)
(未読も少し)
でも、最後の『ドルリー』は良くできてましたね。
スティーブン・キングの『ミザリー』はかなり長編で、だいぶ昔に読んだので細かいところは結構忘れていたのですが、
「そうそう!『ミザリー』こんなエピソードあった!」
と、唸ってしまいました。
Commented by n_umigame at 2012-10-22 21:39
>Yuseumさま
遅くなりましたが、やっとアップしました^^; 
遅くなったのはYuseumさんと同じく「こいつはちょっとキツイわー」と思ったのも一因です。
けっこうイタタな作品もありましたよね(笑)。

『ドルリー』はおもしろかったですよね。でもクライマックスを「絵」で想像するとどうしても笑ってしまうんです^^
キングの文章と相性が悪くて『ミザリー』は未読なんですが、やっぱり元ネタを知ってるとさらに楽しめる作品なんですね。