*さいはての西*

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『ローマ帽子の秘密』エラリー・クイーン著/越前敏弥、青木創訳(角川文庫)角川書店

ミステリ史上最高の名探偵、華麗に登場!
皮肉屋で本好きの推理小説家、切れ者警視の息子------
(帯より)
ブロードウェイのローマ劇場で異常事態が発生。劇の進行中に、ほぼ満席状態の観客席から男の毒殺したいが発見されたのだ。騒然とする劇場に颯爽と現れたのは市警きっての名捜査官リチャード・クイーン警視。そしてその息子で、推理作家にして天才探偵のエラリー・クイーン。劇場から忽然と消え失せた被害者のシルクハットの謎を追う!
ミステリ史に残る大傑作<国名シリーズ>が、新しいエラリー像と決定的訳出で華麗に開幕!
(裏表紙より)



話題騒然(一部で^^)のジャケットイラストは竹中さんとおっしゃるイラストレーターさんでした。
HPがありました。↓
http://www.dahliart.jp/index.htm
pixivでも作品を拝見することができます。女の子のイラストがかわいいですーvvv


本編ですが、とある理由で興奮して、うれしくて、急いでざーっと目を通しただけのですが、うん、新しい!
好き好きあると思いますが、こういう訳を/も待っていました。

たいへん読みやすく、従来の訳と比べると、あの回りくどくどしいクイーンの同じテキストを使ったとは思えないくらいです(笑)。
自分内でとある賭をしていたのですが、それも当たったので倍うれしくなりました。

一クイーンファンとして、クイーンの作品を、もっと大勢の人に素直にエンタテインメントとして楽しんでほしいと、ずっと思ってきました。
そのための裾野を広げる「読者を乗せる仕掛け」が、実はクイーンの熱心なファンの方々がうまくかけられず、むしろ阻まれてきた部分もあったのではないかと思ったくらいです。
あまりにクイーン作品を愛するあまり、べたべた褒めすぎ、それも本格ミステリーとしていかに素晴らしいかという部分の比重が高すぎて、正直なところ引いてしまうこともありました。
弱点や欠点がある作品は、だからこそ愛さずにはいられないということがあります。人間と同じで、できすぎだと興ざめするということが必ずあります(笑)。

クイーンはミステリー…それも本格ミステリ原理主義の方々に独占させておくだけでは、あまりにもったいない作家だと思います。
「国名シリーズ」の頃はどうしても本格ミステリとしての性格が色濃いですし、パズルとしてのクイーンを楽しむ、むしろそこにしか評価基準がないという読者もいらっしゃるでしょう。もちろんそれはそれで良いと思いますし、そういう方々の考察を読むのもとても楽しい。
ですが、クイーンは「それだけ」の作家ではないと思っています。
クイーン自身もそれに気づいて、変わろうとしたことが、作品を通じて伝わってきます。
どこが「それだけ」でないのかは、まずずっと読んでみてくださいとしか申し上げようがありません。
そのためにも、扉は大きく開いていなければならない、楽しみ方にも十人十色あっていいはずの作家なんだと思っていた身としては、今回の新訳がスプリングボードとなってくれることを、切にお祈りいたします。


以下、ネタバレです。
今回のネタバレはミステリー部分以外でも興をそぐおそれがありますので、それでもOKの方のみお入りください。











さて、今回の新訳でがらりとイメージが変わったところ。Twitter のTLでも少し話題になっていたので、もしかして、と思っていた部分。

それはクイーン父子の会話です。これが新訳では、初の、エラリイが敬語(丁寧語)ではない話し方に変わっていました。

これまで、昨年の8月に東京創元社から出た新訳でも改められませんでしたが、エラリイがお父さんのクイーン警視に対して敬語(丁寧語)でしゃべっているのです。
自分以外の全員に対して敬語(丁寧語)ならまだそういうキャラクターということで理解できるのですが、父親に敬語で話して、父親の部下や他人に対してはため口なんですね。

実は、初めてクイーンを読んだとき、これがものすごく違和感がありました。
ふつうの日本語の感覚だと、逆ですよね。

英語は日本語ほど相手との関係性で話す言葉ではない上、敬語が日本語ほどはっきりとしていないと言われています。それでも、英語の原文を読んでもそんなにお父さんに対してだけ丁寧な話し方をしているようではありませんでした。(『十日間の不思議』のハワードの方がテキストで見ても父親に対して丁寧にしゃべっている印象でした。)
エラリイは国名シリーズの頃はおそらく23歳から30歳前後で、たいへん生意気な若造だという設定ですが、大学進学率が現代とは比べものにならない二十世紀初頭に大学まで卒業して、いっぱしの教養があるはずの人間です。(『盤面の敵』ではお父さんの英語の文法ミスをつっこんだりしています。)その彼が、よその人に対してこんなしゃべり方しかできないので、生意気と言うより失礼で不愉快だとさえ思ったことがあります。
日本語にはいわゆる「ウチ」と「ソト」があって、これがきちんと使い分けができるようになるのが社会人の第一歩ですが(わたくしも新卒の頃対外的に上司を「さん付け」して呼んで叱られたもんです……遠い目。)、これがちゃんとできていないと「しつけがなってない」「マナーがなってない」「頭悪そう」「今時の若いもん」と思われても仕方がありません。

つまり、エラリイの話し方は”日本語の社会人”としてアウト、というのがずーっと気になっていました。
これはもちろん英語で読む分にはなんの問題もないのだろうと思われます。
ですが翻訳はそうはいかないです。「日本語で表現するときどう表現すれば適切か」ということにあまり気が配られていない、つまり日本語としてなってない文章を読んでいるのは、やはり読者にとって負担だからです。

今回、めでたくこの違和感がとっぱらわれ、清々しい気分でございます。
ありがとう、越前敏弥さん、ありがとう、青木創さん。
おかげでエラリイのうざさがパワーアップしたことも否めませんが(笑)、いや、もともとこういうやつだったんですよ。(←おい。)

もちろん父子の会話文以外のところも、とても読みやすい訳になっています。
中村有希さんの訳も、旧訳の雰囲気を残しながらとても読みやすい訳だと思いましたが、今回の訳はさらに読みやすい。
それを証拠に、中村有希氏訳が出たときは付箋を貼って舐めるように読みたい衝動を押さえられませんでしたが、今回はそんなことはありませんでした(笑)。
あまり翻訳物を読んでいるということを意識せずにすむくらいです。すいすい頭の中に状況が入ってきます。
この利点は、解説の飯城勇三氏が謎解きミステリのフェアさに直結する部分で最高の訳だと述べておられます。

解説も、日本で始めて翻訳された『ローマ帽子~』の雑誌の挿絵など、紙数は限られていますが充実しています。「読者への挑戦」の意義づけなど、改めて目からうろこでした。…とまで言われてもわたくしは「読者への挑戦」のページはスルーですが(笑)。
伊藤龍雄さんの描かれるエラリイはクイーン警視と顔立ちが似ていてうれしくなりました。似ても似つかない父子の絵をよく見かけたもので。原作でもこの二人は外見の描写がとにかく少なく、二次創作者泣かせなのですが(笑)、ラジオドラマのノベライズで「エラリイは父親を二人にしたようにそっくり」という描写があり、それからこの二人はそっくりじゃなきゃな!となってしまい、クイーン父子がそっくり父子だとそれだけで萌え転がるという困ったことになっております。

そんなわけで、解説にもあるとおり、今から『ローマ帽子』読もうかな、と思っている方は迷わず財布持って本屋さんにダッシュかけてください。
『ローマ帽子』だけでもすでに何冊も持っとんねん、種明かしも知っとるねん、というわたくしと同じそこのあなたも、この訳は今までと決定的に違います。物語の世界観を覆したと申しても過言ではありません。ので、迷わず財布持って本屋さんにダッシュかけてください。
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by n_umigame | 2012-10-30 00:07 | *ellery queen* | Trackback | Comments(0)
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