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『サボり上手な動物たち : 海の中から新発見!』佐藤克文・森阪匡通著(岩波科学ライブラリー201)岩波書店

一生懸命だからこそ,サボるんだ! 動物搭載型の記録装置による「バイオロギング」や「音」を使った最新の記録・分析システムで,予想も常識も覆す,驚きの新発見が続出.南極のペンギンやアザラシから,身近な日本のイルカ,ウミガメまで,謎に包まれた生きものたちの生態と〈本気の姿〉を明らかにする,新しい海洋動物学.[カラー版]
(出版社HP)



かわゆい脱力系イラストとタイトルに惹かれて、またまた購入してしまいました。

第一章の「実は見えない海の中」中扉のイラストにいきなり噴きました。確かに、動物から見れば研究者の方々はストーカー以外の何ものでもありません(笑)。

岩波科学ライブラリーシリーズは好きなシリーズです。『ハダカデバネズミ』などの自分的大ヒットがさらっと入ってくるところが侮れず、必ず新刊はチェックしています。
最初はお値段の割りには薄いかなあと感じていましたが、昨今の出版事情を置くとしても、内容的には充分見合うだけのものかと思うようになってきました。
オールカラーで写真も豊富で、イラストも素敵ですし、何より知的好奇心が刺激される楽しい動物たちの生態を描いた内容は、文句なしであります。

この本は「バイオロギング」という、動物に小型カメラを取り付けてその生態を観察するという手法から得られた成果が、わかりやすくユーモアを込めて綴られています。
その観察の結果、どうやら動物たちはいつもいつも100%の全力疾走で生きているわけではなく、適当に手を抜きながら(=サボりながら)生きているということがわかってきた、というものです。
タイトルにも「サボり」とありますが、これは言い方の問題で、「サボって」いるように見える動物たちの行動が、実は効率よく生き延びるために無駄なエネルギーを使わないように生活している、ということでした。

動物番組の取材と思しき著者と番組関係者の会話では、動物番組の好きな一視聴者としても身につまされました。
動物番組関係者は、チーターの最速走行速度やペンギンの最深潜水深度など、聞けば「うわあ、すごいね」というような記録が欲しい。その現場をカメラに収めたい。けれども、研究者に同行してもそんな記録があまりにも出ないため、目に見えてがっかりすると。
少し考えたら当たり前のことなのですが、チーターやペンギンにしてみれば、毎回毎回そんな自己ベストを出していたら体力がもちません。
番組関係者は視聴者を「すごい」と言わせるために「すごい記録(数値)」が欲しいのですが、動物たちはお茶の間でくつろいでいる人間たちのために生きているわけではありません。わたしたちも、「動物たちの驚きの映像」という惹句に踊らされるのはやめようと思いました。

あとがきにもあるように、この本は「だから人間もサボっていい」ということをすすめるものではありません。(自然界でこうだから人間もこうあるべきだ、と短絡的に考えることを「自然主義の誤謬」と呼ぶそうです。いますよね、都合のいいときだけ「人間も動物だ」と言う人が……。わたくしはせっかく人間に生まれてきたのだから、人間でありたいと思います。)

仕事をするときの要諦として、よく「楽に仕事をしろ」と言われます。
これは経験が浅いうちは無理なのですが、長年ある仕事をしていると、効率を考えるとシステム化してしまうほうが楽な仕事というのが確かにあることがわかってきますよね。
例えば、特定の作業を新人に教える仕事。
先輩Aさんは毎回毎回つきっきりで一から十まで口で説明して、一見、親切で一生懸命に見えますが、その間教える側の仕事は全部止まっています。おまけに口で伝えると、伝え漏れたり、教わる側の理解力に左右されるので、ミスされたりします。そしてまた口で同じ事を注意するということを繰り返す。
先輩Bさんはそんな「しんどい」ことは「非効率」だと考えるので、「作業」のような仕事はマニュアル化します。最初にマニュアルを読み合わせながらざっと口で説明はしますが、あとはそのマニュアルを見ながらやってもらい、マニュアルに当てはまらない例外的な事項が発生したときや、判断に迷う場合だけ、その都度聞いてもらうようにします。

新人を指導する、という仕事を与えられた場合に、Aさんタイプは一見「全力疾走」で「一生懸命」に見えます。でも、結果(効率)を考えたら、どちらが適切でしょうか。
Aさんは自分は一生懸命教えているという自己満足は味わえるかもしれません。ですが、口で言っただけで新人が育つなら誰も苦労しません(笑)。それに、指導以外の自分の仕事は残業してでも終わらせねばならないのであり、残業代や電気代は会社の経費になります。
だったら、Bさんの方が、本人も楽だし、指導される側も、忘れてしまった作業があってもリコンファームできる「資料」が手元にあるので先輩に聞きに行かなくてすみますし、「前も言ったけど」と言われなくてすみます。
A、B、どちらの手段でもミスばっかりする新人だった場合は、新人指導という点では効果は同じでも、自分の仕事は業務時間内にはかどっているBの方が、効率という点では良いと言えますよね。(この場合は、耳で聞いても書いてあるものを読んでも理解できないという意味で、新人のその業務に対する必須能力の問題になってくる可能性があります(笑))

上手にサボる、というのは、全体と結果を見たときの最適解を考えて、力を配分する、ということだと思います。
もし、フレンチがプロ並みに作れる主婦の方がいたとして、毎日フルコースを作って家族との食事に3時間もかけないでしょう。家族も迷惑です(笑)。
ベストを尽くすというのは、そういうことではないのです。

そんなふうに仕事や日常生活にも知恵をもらえる本ですが、純粋に動物たちの生態を楽しめる内容でもあります。
イルカは「音で見る」ことができる、とか、雪を食べるエンペラーペンギンの赤ちゃん(写真がキュートすぎて失神しそう…)は「遊んで」いるのでは?といった、動物好きを悩殺する話題もたくさんです。
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by n_umigame | 2013-06-17 17:23 | | Trackback | Comments(0)
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