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『丕緒の鳥 十二国記』小野不由美著(新潮文庫)新潮社

12年ぶりのオリジナル短編集! ファン待望! 書下ろし2編を含む4編収録。

「希望」を信じて、男は覚悟する。慶国に新王が登極した。即位の礼で行われる「大射(たいしゃ)」とは、鳥に見立てた陶製の的を射る儀式。陶工である丕緒(ひしょ)は、国の理想を表す任の重さに苦慮していた。希望を託した「鳥」は、果たして大空に羽ばたくのだろうか──表題作「丕緒の鳥」ほか、己の役割を全うすべく煩悶し、一途に走る名も無き男たちの清廉なる生き様を描く全4編収録。
(出版社HP)


12年ぶりのオリジナル短篇集ということですが、前半2作は「yomyom」に掲載されており、書き下ろしは後半2作となります。
王と麒麟のお話ではなく、十二国記の世界を補完するための、言ってしまうと地味なエピソードばかりですが、それでもむしろ自分くらいのトシになってしまうと(笑)、この地味さがたまりません。
これらのお話は、やはり十二国記を読む上でなくてはならない視点であると思います。

また、「ファンタジー」と言うと現実逃避の代名詞のように言われていた時期が(今も?)あったようですが、むしろすばらしいファンタジーは現実と直面するよう迫ってくるものです。そういう意味でも、改めてこのシリーズがすばらしいファンタジーであることを実感いたしました。

ただ、ちょっと辛いことを言うと、素材が現代の問題とあまりにも接近しているため、素材の味がするということです。
特に死刑問題を扱った『落照の獄』などは、個人の感想として描くことはできても、答えが出ないことがわかりきっている主題とも言えます。

それでも、だからこそ、作家さんが、「書かねばならない、それも、今。」という切迫した思いが、どれも伝わってしました。

以下、作品ごとの感想です。ネタバレになりますのでもぐります~。



















『丕緒の鳥』
「yomyom」に掲載されたのですがこのときは入手できず、未読でした。
舞台は慶で、陽子が新王として立ったばかりのころのお話。
これは以下同文なのですが、本編を読んだのがあまりにも前で、国名+首都の名前、王+麒麟の名前がそれぞれどこの国で、どの国でどういった時代背景になっていたかということをわりときれいに忘れてしまっておりました。
それでもとても読み応えがあったのが、さすがと言うと失礼なのですが。
このお話は、職人魂のお話なのですが、4作目の『風信』と多少、同工異曲な面があり、「現実から目をそらしているではないか」と馬鹿にしていた当の本人が実はいちばんそうであり、目の前の手の中の仕事を一生懸命すること…それは自分ができることを自分のできる範囲でベストを尽くして日々生きる、ということであり、それが現実と向き合って生きると言うことではないのかという問いかけです。
希望の開ける終わり方でした。


『落照の獄』
こちらに感想を書きましたので、よろしければ。



『青条の蘭』
久しぶりに小説を読んで泣いてしまいました。不覚。
これも現代の日本と重なるのです。
物語の冒頭では北方であることしか明かされないとある国の寒村で、山毛欅(ぶな)林の異変に気づき、やがて大きな厄災が広がるであろうことを予見した役人の標仲が、山毛欅の疫病を止めることができる薬草--「青条の蘭」を、何とか王の元に届けるというお話です。
こちらも、王が不在で国が荒廃した国の、貧しい寒村の様子が描かれます。
後書きで、「十二国記」は「必ず”自分にだってできることがある”」ことを思い知る小説だとありますが、それが端的に表れた作品でもあります。

もうこの国は手遅れではないのか。
そう思いながらも、何とか「希望」を届けようとする標仲。

原発事故のあと「パンドラの箱」と揶揄されましたが、パンドラが箱を開けたことによって世界中に有象無象の災厄や醜いモノが飛び散り、それはもう取り返しのつかないことでしたが、その後で、最後に出てきたのが「希望」でした。
何度も何度も「希望」を背負っているのだという描写が出てきますが、著者にこの「パンドラの箱」と希望のメタファが頭をかすりもしなかったということはないのではないでしょうか。
「希望」は最後に「ここから出して」と小さな声で呼びかけたとされています。
声の大きい人が声高に叫ぶものではなく、いつでも希望とはそういうものなのではないでしょうか。(♪「希望とは 目の前に ある道」)

クライマックスで、次々と青条がリレーされていくシーンは読んでいて、どうか届けと、祈るような気持ちになります。
そして、何と、標仲が目指していた首都は……。
ここで、このお話があの国だったということがわかり、ものすごくテンションが上がりました。そしてこの「希望」は、その後必ずや花開いたに違いないということがわかります。この国では新しい王が立つとのことですので、その王とは、彼ですね。
最後まで書かれないところがものすごくツボでした。寸止め、大好物です。


『風信』
これも慶のお話。時系列で言うと、冒頭の『丕緒の鳥』と主題がかぶっていて、一見何の役に立つのだろうと思われる仕事を、一人一人が己の領分を果たすこと、それが現実に向き合うということだというもの。
理不尽な目に遭い、一人生き延びた主人公が、最後に自分の悲しみを初めて受け入れるシーンは感動的です。主人公もやはり、悲しみを受け入れることができず「現実」から目をそらしていたということが最後にわかるからです。


またシリーズを1巻から読み返したくなりました。
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by n_umigame | 2013-07-04 23:54 | | Trackback | Comments(0)

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