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『名探偵ポワロ』シーズン13 #5「カーテン~ポワロ最後の事件~」


【アガサ・クリスティー原作の人気シリーズ 25年の時を経ていよいよ最終回!】
ポワロ最後の事件。その舞台は、ポワロ最初の事件が起きた「スタイルズ荘」だった。

ポワロは親友ヘイスティングス大尉をスタイルズ荘に呼び出す。ここは、かつて二人が初めて一緒に解決した殺人事件の舞台になった屋敷だが、現在はゲストハウスになっている。ヘイスティングスは再会したポワロのやつれた車椅子姿に驚く。ポワロは「ここが再び殺人現場になるが標的は不明だ」とヘイスティングスに告げ、屋敷に潜む殺人犯を捕えるパートナーとして、動けない自分の代わりに情報収集をしてほしいと頼む。

「名探偵ポワロ」は放送を終了いたしました。
25年間、ご覧いただきありがとうございました。

NHK海外ドラマHPより)






本当に終わってしまったんですね…。
2014年10月6日の放送をもって、ドラマ『名探偵ポワロ』無事日本での放送を終了しました。

主演のデヴィッド・スーシェさん始め、25年間役を務めてこられた俳優の方々、そして日本での吹き替えを担当された熊倉一雄さん(87歳におなりです)、本当にお疲れさまでした。そしてありがとうございました。当たり役で、途中で役の変更なく25年間という長い期間、ずっと同じ役者さん、同じ声でドラマを視聴できたファンは本当に幸せでした。
(ヘイスティングス大尉役の富山敬さんが亡くなったのは本当に残念でした。)また、このドラマは初めて自分で買ったドラマのDVDだったということもあって、色々と感慨深いものがありました。

ありがとうございました。


さて、そんないろいろな感慨をもって迎えたファイナル・シーズンですが、ドラマの完成度という点では、残念ながら初期のころのクオリティにはやはり及ばなかったかなというのが、正直な感想です。

例えば、原作がアレなことで定評のある(笑)『ビッグ4』や、『ハロウィーン・パーティ』の焼き直しのような『象は忘れない』、元々短編だったものを継ぎ合わせた『ヘラクレスの難行』がファイナル・シーズンまで残っていたことも、その一因かもしれません。ドラマはドラマなりに工夫はされていたと思いますが。  
そんなわけで、とりあえずファイナル・シーズンを全部見たものの、まずはこの『カーテン』の感想からアップいたします。


以下、完全ネタバレになります。原作未読・ドラマ未視聴の方はここで回れ右推奨です。
犯人も割っています。
『オリエント急行の殺人』のネタバレもありますので、ご注意ください。


なお、制作背景などについてはYuseumさんのブログに詳しいので、興味のある方はぜひこちらもどうぞ。^^
「カーテン〜ポワロ最後の事件〜(名探偵ポワロ)」















原作どおりに、すっきりとまとめられたドラマだったと思います。
反対に言うと、「ドラマとして制作した付加価値」がもう少しあった方が良かったかな、というのが素直な感想でした。

前シリーズで放送された『オリエント急行の殺人』がドラマでの新しい解釈が今日的で、何度も繰り返し見た身としては、『オリエント急行~』に続くくらいの意気込みを期待していたのですが、ちょっと難しかったのかもしれません。
また、これは最終作『カーテン』への布石では?と思うところがドラマの『オリエント急行~』にあったため、それも期待していました。
『オリエント急行~』は、原作のようにトリック重視の、いわば屈託のない推理ゲームとしての軽快さはなくなっていました。そこに賛否両論があったドラマですが、わたくし個人としては、ドラマの解釈が好きでした。大人になってからミステリを腰を据えて(笑)読むようになったため、本格ミステリの人間を駒のように扱うスタイルにはやはり抵抗があり、パズルとしては面白いのかもしれないけれど「小説」を読む意味とは?と自問自答することがけっこうあったからです。



『オリエント急行~』の感想でも書いたように、『カーテン』は「人を殺しておきながらのうのうと生きながらえている人間が断罪されるお話」でした。
この二つの物語は、そういう点では同じモチーフの焼き直しと言えます。(トリックなど、ミステリ小説の仕掛けはまったく異なりますが)
そして、クリスティの書いた原作では「人を殺しておきながらのうのうと生きながらえている人間」は実は犯人以外にももう一人いると書きました。

それは、ポワロです。

ドラマのポワロは(あるいは時代の要請で)犯人を自殺に追いやったりすることはありませんでしたが、原作のポワロは違います。
裁判では証拠不十分で有罪に出来ないような場合に、犯人に自殺をすすめてたりしています。(そしてまた、犯人はバカ正直に、と言いますか、ポワロに言われたとおり自殺して物語は終わります。)
「昔のミステリだから」と言ってしまえばそれまでですが、探偵が自殺教唆をするのは、結局、人を殺した犯人と同じ土俵に探偵が乗ってしまっているということです。
少なくともわたくしはそう考えます。

この問題に一番深く突っ込んだのが、ドラマの『オリエント急行~』でしょう。つまり、殺人を犯した犯人を見逃せば、見逃した側も同罪ではないのか?という問いです。

そんなことを考え出すとミステリ、特に本格ミステリが楽しく読めないというご意見もあろうかと思います。けれどもやはり、そこに疑義を挟むのが現代人として精神的に健康な態度ではないかと考える人がいて当然だと思います。
『オリエント急行~』は、おかげでたいへん、たいへん重く、沈鬱なドラマとなってしまいましたが、わたくしはあれはあれで大成功だったと考えています。


そこで、『カーテン』ですが。

この犯人のような人間は、おそらく実在します。
人を殺すところまではいかなくとも、じわじわと周りの人間に害毒を垂れ流し、「呪い」をかけるタイプの人間。
ノートンはまだ自覚的に…つまり悪気があってやっているからいいのですが(笑)、悪気がなく、自分は「良かれと思って」やっている人間。
(こんな人間をあの時代に描けるなんてアガサ・クリスティーは本当に恐ろしい作家です。)

そこをドラマの新解釈で見せてくれるかな、と期待していましたが、原作の枠を超えませんでした。
「殺人犯vs.名探偵」の対決で終わってしまっていました。(原作通りなのですが)

ですが、一カ所、原作にない場面がありました。
ポワロが、最後の発作が来たときに、薬でなくロザリオをを手に取り、天に向かって「Forgive me(お許し下さい)」と言うシーンです。

ポワロが敬虔なカトリックであることが『オリエント急行~』で強調されていました。これも『カーテン』への布石だったと思うのですが、ポワロが最後にしたことは、殺人でした。
しかも二人も殺してしまいました。
犯人のノートン、そして自分自身です。

イギリスでは1960年まで自殺は有罪だったそうですが、それをおいても、カトリックの人にとっての自殺とは、天国への門を自ら閉ざす行為です。
(「1983年に発布された教会法典からは、自殺者の被埋葬権剥奪についての規定が削除されています。」とのことですが、1983年まで削除されなかったということなんですね。)
「★自殺とキリスト教」(カトリック六甲教会より)


これはドラマが「絵」にしてくれることでよりはっきりしたのですが、ポワロは自分を死刑にしたのでした。
クリスチャンとしての魂の救済もなく、自ら地獄に落ちることを選んだ。

こんな悲しい最期は、原作のポワロならともかく、ドラマの心優しいポワロには似つかわしくありません。
それでもこのドラマの制作陣が出した答え…あるいは『オリエント急行~』で殺人犯を見逃すことで「人殺しと同じ土俵に上がった/あるいは成り下がった」ポワロへの答えだったのかもしれない、と考えるようになりました。

別のエピソードでポワロは、「わたしは殺人を決して許すことができない」と明言しています。
それは、例え、正義のためでも(「正義」とは何でしょう?それも『オリエント急行~』で発せられた問いです)、一生を殺人犯を追うことに費やした人生であっても、名探偵自分自身であっても、「例外はない」とする、とても厳正な態度です。

そう考えると、この『カーテン』は、このドラマシリーズの掉尾を飾るにふさわしい、素晴らしい幕引きだったのだなと思いました。

『オリエント急行~』ほど視覚的に描かれませんでしたが、やはり、キリスト教における「罪と許し」ということを深く考えさせられるエピソードでした。

別のエピソードではポワロはこうも言っています。「この世に全知全能の神が、その御手によって癒すことのできない傷はありません。そう信じ続けてください。」

"Forgive me."というポワロの言葉が、ポワロの神にどうか届きますように。

わたくしはクリスチャンではありませんが、そう祈りたくなるような最終回でした。



■以下、ドラマを見ていて感じたことを箇条書きで。

・ノートンを演じた俳優さんの怪演がすばらしかったです。イギリスはいったいどんだけこんな深淵みたいな暗い目ができる俳優さんをそろえてやがるんだ…と思ったら『SHERLOCK』のモリアーティことアンドリュー・スコットと同じくアイルランド出身の役者さんでした。さすがです。

・『LIFE ON MARS』の大将ことフィリップ・グレニスターが出ていましたね。紳士の役だったのでしばらく気づきませんでした(笑)。

・ジュディスがひどい。「今どきのお嬢さん」を描きたかったのかもしれませんが、言い方がきついだけであまり聡明そうに見えなかったのが残念です。ノートンに洗脳されているという設定だったのかもしれませんが。

・「あなたの脳みそはカラですか!」
ポワロさん、例え病床でもヘイスティングスへの当たりの強さ無双。
大笑いしたシーンです。
「飲み物を」と言ってヘイスティングスが「いらない」と答えて「わたしが飲みたいんです!」とつっこまれるところも。何年も会わなくても、相変わらずのコンビです。

・ノートンを撃つシーン。髭とったらポワロじゃなくて男前のスーシェさんが出てきたよかっこいい。こんなにイメージが変わるものなんですね。

・スタイルズ荘ってこんなでしたっけ? 違う場所でロケをしたのかもしれませんね。
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Commented by Yuseum at 2015-01-12 00:47 x
わざわざ拙ブログへのリンク、ありがとうございます(^ ^)
1つだけ、あの記事を書いた時点ではよく分からなかったロケ地。
「スタイルズ荘の怪事件」ではChavenage Houseで撮影されたのですが、「カーテン」ではShirburn Castleというところで撮影されたようです。
最近、スーシェさんの自伝Poirot and Meを読んで、そこに「カーテン」の撮影場所について触れられていました。
この自伝、デヴィッド・スーシェさんが如何にエルキュール・ポワロであったかが丁寧に書かれているので、(自分の英語力ではまだまだ理解できていない部分も多いので)是非翻訳してほしいです!
Commented by n_umigame at 2015-02-28 16:40
Yuseumさま!
こちらの方こそいつも海外ミステリについてステキな情報などを教えていただいてありがとうございます。
コメントのお返事がすっかり遅くなってしまって申しわけありません><; なぜだかお返事を書いたつもりになっておりました!ひいい;;

ロケ地について情報を、ありがとうございます。
英国ドラマをランダムに見過ぎているせいか、建物がいつどこで見たのだか記憶が曖昧になっており、とても助かります^//^
自伝も邦訳が出るといいですね。日本でも十分売れると思いますし。
by n_umigame | 2015-01-11 01:20 | 映画・海外ドラマ | Trackback | Comments(2)

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