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『シフト(SHIFT)』上下 ヒュー・ハウイー著/雨海弘美訳(角川文庫)KADOKAWA


2049年、滅亡前の世界。新人議員のドナルドは、上院議員サーマンから極秘プロジェクトへの参加を依頼された。ドナルドがサーマンの娘アナと設計した地下施設が完成、全国党大会が行われる中、上空で核爆弾が爆発した。一方、滅亡後の世界では、冷凍睡眠から目覚めたトロイが、サイロの責任者として「第一シフト」に入っていた。ミッションは秩序維持。必要なすべては、『秩序の書』に書かれ、伝承されていた。巨編『ウール』続編。
(Amazon.jpより)



 前作『ウール(WOOL)』の続きで、全三部作の真ん中の作品になるそうです。

 前作の感想がこんな感じだったので、実はあまり期待しないで読み始めたのですが、なにこれ、前作よりおもしろくなっているではないですか。今回も翻訳がいいですね。ちょっとセンチメンタルなのですが、それは原文がそうなのかもしれませんし。この方の文章、好きです。
 時系列が前後することと、舞台となる場所が入れ替わり立ち替わりになるので、そこが読みにくいという方もあるのかもしれませんが、手法として珍しくはないというか、特に奇をてらったようなものではありません。集中して読んでいればすぐ慣れると思います。

 物語の性格上、前作を読んでおく方がいいと思いますが、この真ん中から読み始めてもちゃんとつながるのでだいじょうぶではないでしょうか。

 以下、ネタバレにつきもぐります。















前作では、翻訳の良さもあるだろうなあというリーダビリティも手伝ってさくさく読めはしたものの、一昔か二昔くらい前のSFっぽいけど、SFをあまり読んだり観たりしてこなかった人にはかえって新鮮で、それで人気が出たのかな?という印象でした。

 今回は、前作『ウール(WOOL)』の謎がいろいろと解き明かされます。それで前作よりおもしろいと感じたのかもしれません。謎解き大好きです(笑)。前作が「謎の提示編」だとしたら、今回は「解答編(ざっくりしたところだけ)」。
 なぜ世界が滅んだのかということ、なぜこんな前時代的な、『1984』のビッグ・ブラザー的な支配システムになっているのかということ、悲惨な境遇でジュリエットと出会った心は少年のままのソロの過去など、世界全体のことから個別のキャラクターのことまで語られます。

 おもしろくなってはいるのですが、ポスト・アポカリプスものとしては特別新しくなっているところはありませんでした。これは前作と同じ。
 前作があまりにも古くさいと感じたのは、「支配階層に対して抑圧された被支配者層が蜂起する、革命を起こす」ということが、革命を起こす側から描かれていたことが大きかったのですが、今回はそれに追加して、以下のようなところも既視感が拭えませんでした。
 まず、全世界的(地球規模)な事件のはずが、アメリカ、それも一部の地域だけで問題が起こっているように見えるという、たいへんドメスティックな描かれ方。サイロの数が50個である理由もこれでわかるのですが、これはハリウッド映画でよく見る設定ですね。宇宙人が攻めて来たりして人類と地球の命運がかかっている!と言っているのに、アメリカの地方都市で白兵戦でどんぱちやっているとかですね。他の国々の状態やそこに住んでいるはずの人の様子が全然わからない(語られない)。「人類=アメリカ人」という構図です。
 世界が滅んだ理由も、某国のせいでしたという。これも、一昔前にハリウッド映画でよく見た、アメリカにとってそのときどきに政治的に仮託された仮想敵です。「今はそこを目の敵にしてるのね」という。その国のせいで人類がえらいことになるんだけどアメリカだけは生き残るのもお約束です。
 そして、某国が致死性のナノマシンを放出して人類が汚染され、それに対抗するために核兵器で地上を洗浄したからというなにそれ小松左京の『復活の日』ですかと。(『復活の日』は人間のぽかミスで軍から流出した生物兵器の新ウイルスが世界中に蔓延し、ほとんどの人類が死滅。そこへ頭のおかしくなったアメリカの一軍人が核ミサイルの発射ボタンを押してしまい、自動的にソビエト連邦の核兵器も報復攻撃を始めるのものの、放射能でウイルスが死に絶えるという設定でした)
 核兵器のあしらわれ方が軽率というか安易というかで、世界規模でばらまかれた放射能が300年かそこらで消えているかのような描かれ方もハリウッド映画的なら、ドナルドが支配者になる経緯もメロドラマで恋愛感情がこじれただけだったとか。これもハリウッド映画あるあるですよね。

 そんなわけで、すでに映画化権をハリウッドの資本が取得済みとのことなので、さぞかし吹き替えでお茶の間でみんなで見ると楽しい、お約束を楽しむあるあるツッコミ映画になるのではないかと、期待しています(笑)。

 せっかく前作の謎が解けて前作と合流し、おもしろく読めたのに残念だったのは、前作から時間が経っていて細かいところを忘れてしまっていたところ。さくさくっと読めるということもあるので文庫で上下巻にするより1冊にまとめてしまって、3部作一気読みする方が、この作品の醍醐味をより味わえるのではないかなと思いました。
 今から読もうと思っている方は、次の完結編"Dust"の翻訳を待ってからでもいいかもしれません。

 ちなみに、電子書籍の自費出版からデビューしてヒットしたという経緯を持つヒュー・ハウイーの本作は、Kindleではほとんどお試し価格のようなお値段で読むことができます。(現在日本のAmazonでは、"Dust"はなんと一冊99円。思わずポチったわ。米Amazonでも81セントです。『ウール』は少し高いですが、それでも2ドルちょい、『シフト』は81セントです。2015年7月3日現在)

■Dust (Silo series Book 3) (English Edition) [Kindle版]

■Dust (Silo series Book 3) Kindle Edition(米Amazon版)

 
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by n_umigame | 2015-07-03 12:18 | | Trackback | Comments(0)
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