「ほっ」と。キャンペーン

『こわい絵本:おとなと子どものファンタジー』(別冊太陽 日本のこころ230)平凡社

「こわい」の豊饒な真理に目覚めさせる注目の絵本を、さまざまなジャンルから約80冊選んでおくるユニークで不思議なブックガイド。(Amazon.jpより)


d0075857_11531754.jpg


 怖いお話と言えばこの方、東雅夫さんの前書きが、まず秀逸です。新しい本を読み始めるときの逸る心を抑えて(笑)、ここはまず前書きにゆっくり目を通してから本文に入られることをおすすめいたします。

 国内外の秀逸な絵本がバランス良く選ばれていると思います。特に昔話や伝承系の絵本は、話者(文章)と絵を描く方のバリエーションだけでも膨大な分量です。そんな世界中の絵本の中から80冊に絞られるのも、きっと断腸の思いでなされたのではないでしょうか。なにせ、絵本はすばらしいものがあれだけ出ているのに、この本で紹介されるのは、たった80冊ですから。
 選書と解説をされた方がお二人いらっしゃるのですが、どちらも女性なので、できれば女性と男性がいた方が良かったかもしれません。絵本になじみのある方ほど「俺の私のあれがない!」となりそうなのが難しいですね(笑)。
 ロングテールから比較的最近のものまで広く目配りされているので、図書館や学校、保育所などで、夏に怖いおはなし会をしたいのだけれど、何かいい怖い絵本はないか、といったときの、選書のレファレンスツールとしても大変お役立ちな一冊になると思われます。別冊太陽ですから、全ページカラーイラストで、目にも美しい造本になっています。


 しかし、絵本の怖さは本当に怖い。
 いい年した大人になっても、人間として、あるいは風土に息づいているものを感じながら育った生き物として、根源的な怖さを心の奥底から起動させるには、絵本という表現媒体は本当に秀逸だと思います。
 昔話・伝承系は、激動の時代を何度も経て、連綿と受け継がれてきたものなので、やはり有無を言わせぬ原初的な怖さがあります。この世に意志をもって生きているのは人間だけではないというざわざわとした存在を感じたり、目に見えぬ大きな手にぎゅっと握られているような、そんな怖さがあります。
 人間の怖さを感じさせるのは、核戦争であったり地獄絵(宗教が絡む)であったり、狂気をはらむ絵本ですね。人間の愚かさ、醜さ、脆さ、悲しさがこれでもかと描かれている怖さです。しかもそれが子どもにもわかるように本当に端的に表現されています。
 
 わたくしの子どもの頃の「怖い」の原体験は、やはりご多分に漏れず絵本でした。『ねないこだれだ』は鮮烈でしたね。家に転がっていたこの絵本を、対象年齢よりずっと大きくなってから読んでも、怖くて眠れなくなるくらいのインパクトはありました。あまりにも怖いので、松谷みよ子さんの「オバケちゃん」の本と交互に読んでました。その後、まんが日本昔ばなしに、夏の怪談のお株は取られてしまいましたが(笑)。
 松谷みよ子さんというと『死の国からのバトン』という作品もあります。『ねないこだれだ』の怖さも、オバケにつれていかれると行ったまま戻れない、つまり、死のメタファであるから怖いのだと、大人になってからは理解できます。夜更かししただけであの世送りって怖すぎるだろとずっと思っていました。でも、「死」とはそういう理不尽なものだということも、今なら理解できます。


 子どもの頃に「怖い」「悲しい」「さみしい」といったネガティブな感情を喚起する本を、親が読ませないようになってきている、とは、ここ最近よく聞く話です。これはディズニーアニメの影響などもあるのかもしれませんが、なんでもハッピーエンディングにすれば良いという安易な風潮は、やはり人間が成長していく過程で、よろしくないと思います。
 ネガティブな感情というのは感染症と同じで、ある程度免疫を持っていると悪化しないというメリットもあります。もちろん行きすぎたり、自分が弱っていると重症化したり、最悪の場合は死んでしまうというデメリットもあります。なにごとも程度問題、バランスの問題だと思うので、全否定はやはりよくない。

 これもよく言われますが、こういう本を読んであげるときに、その子が安心できる存在がそばにいてあげることが大事なのだろうと思います。
 この本の中でも、保育園で「キャー、こわい!」と笑いながらお友だちに抱きついたりして、お話を聞いている子どもたちの様子が紹介されています。お友だちにつられて、あるいは手前(笑)、笑っていても、実は本気でとても怖い思いをしている感受性の豊かな子どもが、必ずいるはずです。そのとき、安心してしがみつける人が、そばにいるのといないのとで、その子の「怖い」がその子の中で、その後成熟していくのか、未熟なままでいびつに冷えて固まるのか、全然違ってくると思います。
 かく言う自分は、読み聞かせをしてくれるような親ではありませでしたので、子どものころから本は一人で読んでいました。(本だけはあった、という状況には十分感謝していますが) おかげで自分でバランスを取るということをしなくてはいけませんでしたが(明るいオバケ本と暗いオバケ本を交互に読んだりですね(笑))、それでも子どものころに、諸々の「怖い本」と出会っておいて良かったと思っています。

 この本の中で紹介されている絵本で、自分の知らない本もけっこうあったので、できれば全部ゆっくり読んでいきたいと思います。
[PR]
トラックバックURL : http://fwest.exblog.jp/tb/21936400
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
by n_umigame | 2015-07-09 19:40 | | Trackback | Comments(0)

Welcome. 本と好きなものがたり。


by n_umigame
プロフィールを見る
画像一覧