*さいはての西*

fwest.exblog.jp
ブログトップ

『九尾の猫』新訳版、刊行日決定



九尾の猫〔新訳版〕

巨匠の異色作が新訳で復活! 
次から次へと殺人を犯し、ニューヨークを震撼させた連続絞殺魔〈猫〉事件。すでに五人の犠牲者が出ているにもかかわらず、その正体は依然としてつかめずにいた。指紋も動機もなく、目撃者も容疑者もまったくいない。〈猫〉が風のように町を通りすぎた後に残るものはただ二つ――死体とその首に巻きついたタッサーシルクの紐だけだった。過去の呪縛に苦しみながらも、エラリイと〈猫〉の頭脳戦が展開される! 待望の新訳版 【解説/飯城勇三】
Hayakawa Onlineより)


 "Cat of Many Tails"の新訳の刊行日が決まっておりました。
 2015年8月21日とのこと。
 (Twitter上で6月という情報も見かけたのですが、8月21日で決定ということで)

 翻訳者は、角川の国名シリーズ新訳でもおなじみの、越前敏弥氏です。

 この『九尾の猫』は、わたくしがエラリイ・クイーンのファンになった、とてもとても思い入れのある作品です。旧訳は大庭忠男訳と村崎敏郎訳が出ていましたが、特に大庭忠男訳でいろいろもっていかれました。この大庭忠男訳の『九尾の猫』がなければ、わたくしはきっとクイーンのファンにはならなかったと思います。

 越前敏弥さんの訳は、国名シリーズでエラリイと父親のクイーン警視との関係をくつがえすような新しい解釈を入れて、胸がすくような思いをしておりました。複数いらっしゃった旧訳の翻訳者の中でも、ここだけはなぜか全員同じような訳をしていらっしゃったからです。「新訳」と言うからにはこうでなくっちゃと思ったものです。

 実は、上に引かせていただいた早川書房のあらすじからして、すでに新しい部分があります。
 被害者が絞殺されるときの凶器が、「タッサーシルク」の紐、と、一歩踏み込んだ表現に変わっています。

 新訳の、父子関係の雰囲気ががらりと変わってしまうような解釈は、もちろん「どうしてもなじめない」という古参のファンの方もお見かけしました。ですので、クイーン作品の中でいちばん思い入れのあるこの作品を新訳で読んだら、自分はどう感じるだろうというところも、楽しみにしているところです。

 少しだけ不安に感じていることもあります。
 自分も末席に加えていただいているエラリー・クイーン・ファンクラブ(EQFC)会長の飯城勇三氏が解説に入っておられるので、翻訳に際しても、今回も助言があったことだろうと思います。
 個人的に、クイーンをごりごりの推理小説として楽しんだことはほとんどない不良会員の自分としては、トリックだとかそういったミステリーのお約束ごとは、正直なところ些末な部分です。逆に、いくら驚天動地のすばらしい発想のトリックであっても、そこに描かれるキャラクターが人間として共感できなさすぎたり、単純に小説としてつまらないと、評価は下がります。ですので、率直に申し上げると、そこにこだわってエンタテインメント小説としての妙味が失われてしまうなら、マニアのツッコミは無用に願いたいという心配もなくはありません。
 なぜなら、この作品はやはり、謎解きが主眼の作品ではないと思うからです。(飯城勇三さんの解説は解説だけのために新訳を買ってもいいと思うほど充実したものなのですが、それは国名シリーズのときだったからということもあり。)

 モンスターペアレントならぬモンスターファンにならないように、心しておきたいと思います(笑)。

 「異色作」と紹介されていますが、わたくしはそうは思いません。
 エラリイ・クイーン=国名シリーズ、ということで、その物語の文法からはずれるから異色だというのであればわかります。
 ですが、クイーンは『クイーン警視自身の事件』でも、『九尾の猫』のモチーフを繰り返しています。クイーン自身が思い入れがなければ、あるいは『九尾の猫』で語り尽くしたと考えたら、モチーフを繰り返すことはしなかったのではないでしょうか。クイーンは1929年のデビューから1970年代までの長期に渡り、何とかして新しいエンタテインメントを生み出せないかと、試行錯誤と挑戦をし続けた作家でした。無駄に「焼き直し」で弾を撃つ作家ではないと思います。
 この、物語世界全体を覆う暗さ、母性の欠如、"父"との対決、和解、許し、再生、どれを取っても、クイーンの本質はここにあるのではないかと思っています。

 もし、これを機会に、今から『九尾の猫』を新訳版で初めて読もうと思っている方がありましたら、その前に『十日間の不思議』をお読みいただくことをおすすめいたします。個人的に『十日間の不思議』は、クイーン作品の中で再読するのが嫌な作品の五指に入っているのですが(笑)、これを読んでおくと『九尾の猫』がより深く味わえるのではないかと思われます。かく言う自分は先に『九尾の猫』を読んでもっていかれたので、関係ないと言えばないのですが(笑)。
[PR]
by n_umigame | 2015-07-10 23:48 | *ellery queen* | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://fwest.exblog.jp/tb/21940252
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。