*さいはての西*

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『白鯨との闘い』(2015)


「ビューティフル・マインド」「ダ・ヴィンチ・コード」など名作、大作を数々手がける名匠ロン・ハワード監督が、19世紀に捕鯨船エセックス号を襲った実話を映画化。ハーマン・メルビルの名著「白鯨」に隠された事実を明かしたノンフィクション小説「復讐する海 捕鯨船エセックス号の悲劇」をもとに、太平洋沖で巨大な白鯨に襲われた捕鯨船の乗組員たちの死闘を描き出した。1819年、一等航海士オーウェンと21人の仲間たちは、捕鯨船エセックス号で太平洋を目指す。やがて彼らは驚くほど巨大な白いマッコウクジラと遭遇し、激闘の末に船を沈められてしまう。3艘のボートで広大な海に脱出した彼らは、わずかな食料と飲料水だけを頼りに漂流生活を余儀なくされる。主人公のベテラン航海士オーウェンを「マイティ・ソー」「アベンジャーズ」シリーズのクリス・ヘムズワースが演じるほか、共演にも「リンカーン 秘密の書」のベンジャミン・ウォーカー、「ダークナイト」のキリアン・マーフィ、「007 スペクター」のベン・ウィショーら豪華キャストが集結。
(映画.com)


こちらは2015年(日本では2016年1月)公開の映画の感想です。
原作のノンフィクションの感想はこちら。→

映画、原作、両方の完全ネタバレですので、了解済みの方のみ、以下お入りください。













原作の感想のところでも述べましたが、やはりというか、「タイトルにだまされた」的な感想がたくさんありますね(笑)。
うん、鯨とは戦ってませんからね。そもそも勝負にならなかったのです。
これは原作も同じです。

ですので、わたくしはそれを期待して行ったわけではなかったので、それはいいのですが、映画を見終わった感想は「ちょっとずるい映画だなー」でした。

まず、映画が物語の大きな軸(謎)としているカニバリズムについてですが、原作を読むと、これは秘密でもなんでもなかったということがわかります。

当時の過酷な航海においては、海で遭難し、生き延びるために人間を食べざるをえなくなることは、珍しくも何ともないことだったようです。
なので、同じことをして生き延びたポラード船長たちは、帰郷後、ナンタケット島の人たちに包み隠すことなく正直に話し、ナンタケット島の人々も、それを静かに受け入れたのでした。
映画では、人を食べたことを秘密にしていた、つらかった、という「お話」にしてしまったため、全体的にぬるくなってしまった印象は拭えませんでした。
「人を食ってでも生きて行かねばならない現実があるし、それは当たり前だ」というクールな事実の前に、フィクション(映画)の方が霞んでしまった印象でした。
ですので、これを"謎”として物語を牽引するには弱すぎると感じました。
これはおそらく、原作を未読の方でも、想像はついたのではないでしょうか。

「包み隠さず話した」と上述しましたが、実はチェイス一等航海士の方こそ、長年秘密にしていたことがありました。
それは"白鯨"を仕留めるチャンスがあったのに、彼が一瞬ためらったばかりに、このような悲惨な遭難事故になってしまったということです。この事実は長年伏せられていたそうです。やはり後ろめたかったからでしょう。

自分が「ずるい」と感じたのは、まずここでして。

クリス・ヘムズワース演じる男前一等航海士に責任を負わせることはできないという、ハリウッド的な判断なのかもしれませんが、実はチェイスにも遭難については重大な責任がありました。
そこをきちんと描かないであいまいにして、坊っちゃん船長の判断ミスが目立つような描かれ方をしていたのが、何だかずるいなと思った一つ目です。(まだ200年くらいしか経っていないので、ポラード船長の子孫の方もいるはずで、どう思われたかなと思いました。)

ちなみに、ポラード船長は、映画では真逆のキャラクターにされてしまっていました。
ありがちな「ええとこのぼんぼんってだけで経験もない傲慢な船長がダメだったから」みたいな描かれ方でしたが、史実のポラードは、こんな悲惨な事故に遭った船の船長だったにもかかわらず、島に帰ってからも船員や故郷の人の信頼を失いませんでした。とても民主的にものごとを決めようとする船長で、逆にそれがピンチのときはよくなかったとされているくらいです。
本当は、こういう、"だって人間だもの"という「ねじれ」、時と場合によっては長所も致命的な欠点になりうるという、人間の複雑さを描けてこそ、秀逸なフィクションだと思うのですが、かなり単純化されていました。
確かに映画はわかりやすいですが、きちんと描けば、子どもじゃないんだから、観客も理解できたと思います。ここは残念でした。

もう一つ「ずるいなー」と感じたのは、鯨を仕留めるときにカメラを引いていたことです。確かに残酷さは目立たなくなりますが、欧米人の鯨の乱獲という史実を知ってもらうためにも、そこはあえて目を覆うばかりに残酷で良かったと思うのですね。
このシーンも、クリス・ヘムズワース演じるチェイスが銛でブスブス鯨を刺しているシーンだったので、カメラを引いたんじゃないかと思いました。あるいは捕鯨反対団体などへの牽制ですかね。
できれば、欧米人の乱獲の結果、どれくらい鯨の数が減ったとか、かつてはこんなに巨大な鯨がふつうにいたのに、今いないのは欧米人のせいですという、わかりやすい描写が入れば良かった。キャラクターをこんなに単純化しておきながら、このあたりはわざとぼかしてあるのが、やっぱりずるいなーと思った次第です。

"白鯨"がかばったのが親子連れの鯨だった、というシーンでは、ベタながら、白鯨の兄貴に惚れそうになりましたが。

そんなこんなで、全体的に覚悟が足りない映画という印象でした。
鯨と戦わなかったことは良いとして、捕鯨の歴史、自分たち欧米人にも鯨を乱獲して、しかも頭から油だけ取ったらポイしていた残酷な歴史があったことを、真正面から伝わるように描けていたとは思えませんでした。もし今、この作品を映画化するのであれば、ここにこそ意義があったのじゃないかと思うのに、残念でした。

映画を観て、食い足りない印象が残った方には、ぜひ原作も合わせて読まれることをオススメいたします。
「グリーンハンド」の訳も、映画の字幕は確かにわかりやすかったのですが、原作を読むともっとつっこんだ理解ができます。

個人的には、キリアン・マーフィーがとても良かったと思うので、ほかの作品も見てみたくなりました。



余談ながら…
昔からアメリカの「名家」っていうのが謎で。この映画の時代だとまだ建国して50年くらいしか経ってなくて、だったらせいぜい2代目ですよね? 
まあ「どんな名門も一代目は成り上がり」という某漫画のセリフもございますが(笑)、それにしても50年で名門はない気がします。お金持ちだとか名士だと言うならわかるのですが。




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by n_umigame | 2016-01-24 21:20 | 映画・海外ドラマ | Trackback | Comments(0)
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