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『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』(2015)

■映画『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』 公式サイト - GAGA


「ロード・オブ・ザ・リング」「X-MEN」シリーズのイアン・マッケランが、引退した老齢の名探偵シャーロック・ホームズに扮し、自身を引退に追い込んだ未解決事件と再び対峙する様を描いたミステリー作品。ある男性から不可解な行動を取る妻の素行調査を依頼されたホームズだったが、その謎解きはホームズの人生最大の失態となり、探偵稼業を引退することとなった。あれから30年、93歳となったホームズは、30年前の未解決事件に決着をつけるため、ロジャー少年を助手に迎え、最後の推理を始める。現役から退き、93歳となった年老いたホームズをマッケランが演じ、アカデミー賞ノミネート女優ローラ・リニー、真田広之らが脇を固める。監督は「ドリームガールズ」などを手がけたビル・コンドン。
(映画.com)







曜日と時間帯もあったのかもしれませんが、お客さんが高齢の方がすごく多くてびっくり。しかも横一列お友だちどうしという感じの座席も多くて、皆さん持ち込みのおにぎりとお茶でひとしきり腹養いをされたところで映画、という、優雅(?)デスネ…。ノリが、愉快な出し物があるって聞いて観に来たよ、ということなのでしょうか。(でもこれが本来あるべき姿なのかも…)

で、見終わって、高齢の方が多かったのも納得しました。
もしかしたらそういう年代の方々に、何か特別キャンペーンされていたのかもしれません。知らんけど。

ネビル・シュートの『パイド・パイパー』が好きな方は、しのごの言わず劇場へゴー。


以下、ネタバレしていますのでもぐります。原作未読ですが、原作についても触れています。











サー・イアン・マッケランが年老いたホームズを演じると知ったときから楽しみにしていた作品です。
前売りも買ったし、サー・イアンがTwitterで日本のファンに向けて「Mitene!」とツイート、もう見る前からめろめろでしたわ、サー・イアンに(笑)。


公式サイトのあらすじなどを読んでいると、年老いたホームズが少年を助手にして謎解きに挑むかのような書き方ですが、ミステリー重視ではなく、あくまでも、一人の人間の晩年を追うドラマでした。レビューを見ていると、まずここで好みが別れている模様ですね。

この作品のホームズとロジャー少年は、謎解きコンビではないのですが、晩年の孤独なホームズの魂の非常に近くによりそう存在として、ロジャーはあります。そういう意味ではワトソンの代わりと言ってもいいのかもしれません。あまりに近くなりすぎてちょっと危険なことになる場面もあります。
お年寄りと子どもという組み合わせは児童文学などにもよく登場しますよね。故・河合隼雄さんの言葉によれば「相性がいいのは、どちらもあちらの世界に近い人だから。もうすぐ帰る人と、来たばっかりの人」だからだそうです。なるほどな。上述したネビル・シュートの『パイド・パイパー』などでも老人と子どもとの組み合わせがドラマを盛り上げている作品ですしね。誰ですか年の差コンビだったらアンタ何でも美味しい美味しいって言うんだろうって言ってるのは。そんなことはありませんよ。(目をそらしながら。

不満組の感想を拝見していると、理由として、ミステリーじゃないから、に加えて、ホームズが年を取って弱っている姿を見るのがつらいから、と言っている人があり、映画を観るに当たって、予告はともかくポスターすら見ず「どれにしようかな」「ちゅうちゅうたこかいな」で目つぶって選んだんかなと思いました。
CSを見ているとアンチエイジングとか高齢でも生き生き!みたいなCMが多くてげんなりしますが、ちょっとそういうのに影響されすぎなんじゃないでしょうか。確かに健康寿命ということはわたくしも重視いたしますが、93歳になっても若いときとまったく同じホームズなんて、少なくともわたくしは見たくないです。そんなのギャグかホラーでしかありません。
不満があるとすれば、ワンダーランドジパングのシーン、いりますか、あれ。(←。
いえ、広島のシーンはラストシーンとつながっているので重要だと思いますが、でもあそこの土掘ったらあかんと誰もがつっこんだと思います。なんでそんなとこに山椒が生えてるねんとか、山椒がミキ○゜ルーンっぽかったとか弁髪の人が飲み屋にいるとかウメザキのお父さんなんでイギリスに身を捧げるとか唐突に言い出したあげく妻子を捨てるかどうかを探偵に相談するんですかとか、ジパングがらみのところは言い出すときりがないですが、映画全体の感動を損なうほどではありません。(じゃあ言うな。)

***

時代は第二次世界大戦が終わって間もない1947年、シャーロック・ホームズは93歳。
あれほど明晰を誇った頭脳も、強靱だった体も、年齢には勝てず、衰えが進み、住み込みでお世話してくれている家政婦マンロー夫人の息子・ロジャーの名前さえ忘れがちで、カフスにメモをしている状態です。(この「カフスにメモ」というのもヴィクトリア朝の人です、という、すでに古式ゆかしいやり方ですね。でも、いいかも、と思いました。)
とある事件がきっかけでホームズは引退を決意したのでしたが、ずっと心にひっかかっており、せめてその記録を残しておきたいとペンを取るのですが、かんじんの記憶がもうおぼつかない。周りの人を頼ろうにも、ワトソンさんも、兄マイクロフトもハドソン夫人も、みんなホームズを残して先に亡くなってしまっていました。

同じBBCが製作に噛んでいるからというわけではないでしょうが、BBCの現代版シャーロックが、もしジョンやマイクロフト兄さんたちに先立たれてしまって、ひとり年老いたら、こんな晩年を迎えるのではないかと思ってしまいました。
現代版ホームズでなくても、情緒的な側面を軽視するような言動を繰り返し、誰とも親密な関係を築くことができなかった人間はこうなるよという、そういう意味でもいたたまれない映画でした。

けれどもこれは、ホームズのような極端に「知識」だとか「頭脳」だとかを重視した人間だけが陥る問題ではありません。

たとえどんなにすばらしい友人や家族に恵まれた、人間関係が豊かな人生を送ることができたとしても、老いと病いと死には、人は一人で立ち向かわなければならないのです。周りで支えてくれる人の多寡があったとしても、結局は自分一人で向き合わなければならない。これだけは誰にも代わってもらえません。
親しい人々も、不慮の事故や災害や病気などで自分より先に亡くなってしまう可能性はいつだってあります。年齢は関係ありません。自分より若くても、先に行ってしまうかもしれないのです。
それに改めて気づかせてくれる映画でもありました。

そんなホームズも決して心の底まで非情なわけではなく、実は心優しい、人間らしい人だということが正典でも語られていますが(ワトソン眼鏡だからあてにならないっていう意見もありますが(笑))、この映画でもそれがよくわかるシーンが何カ所か出てきます。
例えば、ロジャーが母親のマンロー夫人に「字もろくに読めない」と言ってしまい、ホームズが「なんて冷酷なことを。言い過ぎだ、謝ってきなさい」と諭すシーン。ただ単に母親にひどいことを言った少年に老人がお説教するという感じではなく、自らの人生で味わった後悔の重みがすべてこめられたようなシーンで、サー・イアンの迫真の演技も伴って、胸を打ちます。
冷酷なことを言ってしまったロジャーを見て、かつての若い頃の自分になっていくようで、ホームズはぞっとしたのではないでしょうか。BBC現代版シャーロックの刷り込みもあるかもしれませんが、ホームズは事実を重んじるあまり、本当のことなら何を言ってもいいと思っているような節が印象としてあります。ロジャーに自分と同じ過ちを絶対に繰り返してほしくない。そういうホームズの叫びが聞こえるかのようなシーンでした。
クールな態度を貫いてきたホームズですが、アン・ケルモット夫人の、一見静かな、でも本当はとても切実な願いを受け入れてあげることができなかったことを悔い、「嘘でもいいから、一緒にいようと言ってあげればよかった。抱きしめてあげればよかった」と言うシーンでも感情が露出します。
アン・ケルモット夫人は、子どもを立て続けに失ったことで、おそらく鬱状態だったのではないかと思うので、彼女を救えなかったのはホームズの責任ではないと思います。必要なのは探偵ではなく、今なら精神科医でしょう。


ラストシーンの石で囲むシーン、「これはジョン」で涙腺崩壊しました。キャラクターの関係にある程度思い入れがあると、涙無しでは見ていられません。
その石の一つに、ホームズは「これはアン」と呼びかけていました。
93歳のホームズは、やっと意地を張るのはやめたのでしょう。マンロー夫人とロジャーにそばにいてほしいことを素直に告げ、生前いつも自分を支えてくれた、今はもう亡くなった人たちのことも改めて受け入れ、懐かしい人たちの名前をつけた石に、あるいは天に向かって感謝や祈りを捧げるかのように身を伏せていました。
そこにはもう、がつがつとした生への希望はないかもしれないけれど、晴れ晴れとした悲しさが、美しい風景の中で余韻となって残るすばらしいラストシーンでした。

生き延びることができればいつか必ず通る人生のある時期を切り取ったドラマとして、誰が見ても大なり小なり身につまされるところがあるかと思います。高齢のお客さんが多かったですが、むしろ若い人が見ておくといいかもしれません。
尺も昨今の映画としては短めで見やすいし、映画と言うよりドラマのような、心理描写がとてもていねいな作品でしたし、おすすめです。



***

ところでこの映画、イギリスのドラマで見慣れた俳優さんがたくさん出ていて、それも見ていて楽しかったです。パンフレットを買い忘れたのでIMDbで調べてみました。
一番驚いたのは、劇中劇で出てくるシャーロック・ホームズ役が、『ヤング・シャーロック~ピラミッドの謎』で少年ホームズを演じたニコラス・ロウ。面影残ってますね。
マンロー夫人は最近NHK BSでも放送していたドラマ『キャシーのビッグC』の主演でもあるローラ・リニー。映画ではイギリス人にしか見えなかったのでびっくり。
アン・ケルモット夫人はハティ・モラハン。『ミス・マープル』の「ポケットにライ麦を」や『ルイス警部』ほかたくさん。
トマス・ケルモット役のパトリック・ケネディは『戦火の馬』『ダウントン・アビー』、そして『パーソン・オブ・インタレスト』のS4E17にも出てたそうです。見直そう…。
ドクター役はロジャー・アラム、最近やっと見れた若モースこと『新米刑事モース~オックスフォード事件簿~』のナイス上司・サーズデイ。『刑事フォイル』にも。キャリアのある俳優さんなので本当にあれこれでお顔を見ている気がします。
最後の方に出てくる刑事役は、『SHERLOCK』シーズン1で忘れがたい印象を残すタクシー運転手のフィリップ・デイヴィス。映画見てるときはどこかで見たなー程度で気づきませんでした。
グラスアルモニカの先生役は、『名探偵ポワロ』の「ナイルに死す」でも濃かった(笑)フランシス・デ・ラ・トゥーア。
マイクロフト役のジョン・セッションズも『SHERLOCK』と『ルイス警部』に出ていました。銀行マンの方は『名探偵ポワロ』の「ビッグ4」(笑)(笑うな)に。ほかにも「どこかで見たなー」というお顔がちらほらでした。




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by n_umigame | 2016-03-22 02:24 | 映画・海外ドラマ | Trackback(1) | Comments(0)
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