『オズの魔法使い』フランク・ボーム作/幾島幸子訳(岩波少年文庫)岩波書店


大竜巻に家ごと空高く吹き上げられた少女ドロシーは、愛犬トトとともに不思議なオズの国へ着陸しました。かかし、ブリキの木こり、おくびょうなライオンが仲間に加わって、一行はエメラルドの都をめざします。アメリカの人気作品。小学4・5年以上。
(Amazon.jpより)


樹なつきさんの『OZ』を読んだので、元ネタと言いますか本歌取りの本歌の方を読み直してみることにしました。と言っても、読んだことがあったのは、子どもの頃家にあった幼い子ども向けの絵本で、内容はリライトされていたと思います。

いやー………。
読み直すんじゃなかったとまで思いましたね。

なぜなら、記憶にあるよりもっともっとディティールがひどい話だったからです。
些細なところはどうだっていいじゃないかというご意見もあるかと思われますが、「神は細部に宿る」のです。

このお話、ファンがたくさんいらっしゃると思いますし、ちらっと感想を検索してみてきた限りでも、皆さん絶賛されている方がほとんどでした。疑義を呈されているの方の感想も訳の違いによる部分などで、作品に対する評価ではなかったりします。
かえってそれが怖かったので、自分の感想を上げておきます。

ファンの方で、うっかりこのブログにたどり着いてしまった方は、回れ右でお願いいたします。

全編のネタバレになるので、もぐっておきますね。













子どもの頃に読んだときの、黒いもじゃもじゃの犬(トト)が可愛いかったなあとか、仲間が次々増えて行くロードムービーみたいなところが好きだったという思い出だけで、この先も生きて行けばよかったです。(そこまで?)

子どもの頃に読んだ絵本でも、オズの魔法使いは詐欺師のカスでした。頭でっかちの見かけ倒れの人間だったということだけは強烈に覚えていました。
ですが、今回読み直してみたら、ほかにもひどいところは、枚挙にいとまがないじゃないですか。


物語の順を追って見ていきたいと思います。

この作品が発表されたのは1900年だそうなので、時代背景なども思い合わせなければならないかもしれませんが、まずドロシーの養い親です。
ドロシーには実の両親がいないのでしょうか、ヘンリーとその妻のエムという養い親がいて、ドロシーはヘンリーおじさん、エムおばさんと呼んでいます。原文を読んだことがないのですが、「おじさん、おばさん」と呼んでいるけれど、血のつながりはないのではないでしょうか。カンザス州の貧しい農家で、見渡す限り一軒の家もないというロケーションだそうで、『怒りの葡萄』か『インターステラー』かという感じ。なぜこんな家に幼い女の子であるドロシーが養女に出されたのか、いろいろ想像しただけで、レモン丸かじりしたみたいな顔になってしまいます。
そこへ竜巻が来るわけですが、エマおばさんはドロシーを置いてさっさと自分だけシェルターに入ってしまいます。(ヘンリーおじさんは農作物が心配で見に行ってしまいました。これ日本で言えば、台風の日に田んぼが心配で見に行くと言って出かけたまま…という、「それあかんやつや」のフラグが立つパターンですね。)

「ええ~」と思っていたら、次、ドロシー。
仕方なく家に入ったために家ごと竜巻に吹き飛ばされたドロシーは、オズの国の近所に墜落しますが、たまたま東の魔女の上に落ちたため、魔女は死んでしまいます。
不可抗力だし、お話を回すためにも殺してしまったのはまあ仕方がないので、ここまではよしとしましょう。
ですが、ドロシーは、東の魔女が履いていた銀の靴を、ちゃっかり自分のものにしてしまいます。これは北の魔女が「あなたのものですよ」と言ったからと言えばそれもあるのですが、不可抗力とは言え自分がうっかり殺してしまった人から、ものを取りますか。この銀の靴は物語の大事な伏線でもあるのですが、それは作者の側の都合ですよね。

自分がうっかり殺した人から金目の物(を思わせるような銀色の靴)ををまきあげるヒロイン、しかも、まだ少女。
いきなり怖い。

そして旅が始まり、ドロシーは、かかし、ブリキの木こり、ライオンの順に出会って、みんなでオズの国へ行こうという話になります。
で、このブリキの木こりが、元は人間(マンチキン)だったのですね。そこは覚えていなかった(か、はしょられていた)のですが、全身ブリキになってしまった経緯というのが、もう、悲しいやら残酷やらで、これリアルに実写映画化したら軽くR-15+です。このブリキの木こりの過去の話を知って、このフランク・ボームという人は、ミソジニー(女性嫌悪)だったのじゃないかと思ったほどです。(内田樹さんによると、開拓時代に端を発するミソジニーはアメリカ人男性に多いそうですし)
木こりは、とあるマンチキンの女の子と婚約するのですが、この女の子と暮らしているおばあさんが怠け者で、孫(?)が結婚したら自分の身の回りの世話をする人間がいなくなったら困るからという理由で、東の魔女に頼んで、木こりに呪いをかけさせます。その呪いのせいで、木こりは、四肢と、最後には頭まで、自分の斧で自分を切り落としていくのです。しかも一カ所ずつ順番に。
木こりは胴体を切ったときに心臓(ハート)もなくしてしまい、女の子を愛する気持ちも結婚したいという気持ちもなくなってしまいました。
うおえええええこんなひどい過去やったんかい。
東の魔女の編み出した呪いが、残酷すぎだし陰惨すぎでしょう(呪いの内容は魔女におまかせコースだったようです)。そんな大変な呪いを、羊2頭と牛1頭の代価で依頼した怠け者のおばあさんもひどいし、結婚は二人の問題でもあるのに、そのフィアンセの女の子は、木こりが最初に腕をなくしたときに、なぜわけを聞いてやらんかと。
エマおばさん、ドロシーに引き続き、東の魔女、おばあさん、木こりの婚約者と、なんでしょうか、このどいつもこいつも出てくる女はクズばっかり、クズのラインダンスです、みたいな描かれよう。

じゃあ男性の方は、心優しき孤高の騎士か。
んなわけないのです。

その男性の代表は、やっぱりオズです。
自分が小心者の詐欺師なものだから、ドロシーたちに自分ができないことを依頼するのですが、その依頼するときの姿を毎回変えるのですね。(ここは覚えていました)
で、子どものときは次々と姿を変えるオズがおもしろい程度の感想しかなかったように思うのですが、今読んでみると、オズは相手によって自分のゴリ押しの効果が上がるように姿を変えていることがわかります。
幼い少女であるドロシーには高圧的なオッサンの姿で。(胴体なし。頭でっかち)かかしには美しい女性の姿で。木こりには怪物、ライオンには火の玉の姿で会います。オズ、必死です。ありのままの姿では誰にも会うことができないから、相手によって出方をまったく変える、しかも威圧的だったり色仕掛けだったりして、やり口がせこいにもほどがあります。(あ、あと、緑の国の少女もせこい。ドロシーがヘンリーおじさんとエマおばさんを思って泣くと、「泣いたらドレスにシミがつくじゃないの」とか言うんですよ。そんなに貴重なドレスだったら貸すな。 ライオンもライオンで、女性の姿だったらちょっと脅せば言うこと聞くぜ、頭だけのオッサンだったら転がしてやるわ、とか言うのですね。それが仮にも人にものを頼む態度か。)
そして、オズのお願い事というのが「西の魔女を殺してこい」。
殺しの依頼かよ! 
相手の弱みを握っておいて、それと引き替えに殺しの依頼って、どこのヴィランですか。
もう、ゴルゴかボンドに頼めって話です。聞いてくれたらだけど。

オズの殺しの依頼を受けて、ドロシーたちは西の魔女の国へ向かいます。
その途中で、それを聞きつけた西の魔女は、オオカミ、カラス、蜂と次々に刺客を放つのですが、木こりやかかし、ライオンたちが文字通りぶっ殺して、その死骸が山盛りになったという描写があります。
ここも正当防衛と言えばそうだろうけど、過剰防衛と言われても仕方ないですよね。命に対する敬意のようなものがまったく感じられないのです。
目的のためなら手段を選ばない、一行の、このマキャベリストっぷりが、ほんとうに怖い。

さて、西の魔女の国について、ドロシーは奴隷にされ、ほかの3人もひどいめにあわされるのですが、ここでもドロシーは、知らなかったこととは言え、西の魔女を一発で仕留めることに成功します。オズから「西の魔女殺ってこい」と依頼されたときは、「わたしは何だって自分から殺したことなんてないのに」と泣いていた女の子は、また自分がうっかり殺した相手からものを持って行きます(魔法の帽子)。
一度ならず二度までも、死人からものを持って行くって…。

無事、殺しの任務を完了したドロシー一行は、オズの国へ戻って報告しますが、オズがただの人間の詐欺師だったということがわかります。
気球を作って砂漠を越えようとするのですが、気球はオズだけ乗せて行ってしまいました。オズは最後の最後までカスっぷりを発揮して、追いすがるドロシーに「もう戻れないよーさようならー」と言い放って、自分だけ行ってしまいました。ドロシーたちを騙して人殺しまでさせたあげく、この仕打ち。
どこへ出しても恥ずかしい、オズは立派なカスでした。
これが、仮にもタイトルロールのやることか。
アメリカに戻っても、きっとまたクズい詐欺で生計をたてていくんじゃないでしょうか。

最近の研究で、アメリカの警官ですら、発砲しただけでトラウマになることがわかっているそうです。多感な年頃に養い親から守ってもらえず竜巻で飛ばされて、アメリカに戻れるかどうかわからない不安な目にあって、2件も殺人をやらかしたドロシーは、将来、このときの経験からPTSDに苦しんでつらい人生になったのではないかと、心配になってしまいます。
死人からちゃっかりめぼしい物を巻き上げていくドロシーのことなので、たくましく生き抜いていってくれたかもしれませんが、続編を読む気が起きません。(けっこうたくさん出てるんですね)
これが児童文学なのが、さらに怖いんですけれども。

名作の名高い、映画の方をちゃんと見たことがないので、この原作を洗い流してくれるようなものを期待して、いつか見てみたいと思います。





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by n_umigame | 2016-07-10 02:43 | | Trackback | Comments(0)

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