【ネタバレあり編】『カンフー・パンダ3』(2016)とりあえず感想+シリーズ総括


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こちらの記事は「ネタバレあり」編です。
「ネタバレなし編」はこちらへ。→


物語の核心部分やセリフ、ラストシーンに触れていますので、未見の方は回れ右でお願いします。
シリーズ総括の感想もありますので、1作目、2作目とも見ていない方もご同様で。

期待が大きかった分、ちょっと辛口めの感想になっています。全面的にべた褒めはしていません。
「カンフー・パンダ」シリーズについて少しでも批判がましいことを言われるのは我慢がならないという方もここで回れ右でお願いします。
(「カンフー・パンダ」シリーズは私は特に「2」が大好きなことと、「マダガスカル」シリーズが回を重ねるごとに段違いの傑作に化けて行くので、「3」についてはものすごく期待していました。その期待の分、見方がなおさら辛口になってしまっているところもあると思います。)

「ネタバレなし編」も読んで下さった方には、一部重複するところがあるかと思いますが、合わせてご了承ください。

一応、決定的なネタバレ部分に関しては文字を反転してあります。















はい。

すべて了承済みの方しか残っていないということで、よろしいでしょうか。





***

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まず、冒頭は心臓鷲づかみのアクションシーンでした。
控えめに言っても、最高。魂抜けました。
ノベライズを先に読んでいたのですが、こうやって絵が動くと、もう脳内麻薬出まくり。DWAのアクションシーンはセンスがいいので、やっぱりアクションシーンは安心して見ていられます。
しかもこれ、亀(ウーグウェイ導師)と水牛(「3」でヴィラン担当のカイ)なんですよ。「亀と水牛のバトルシーンで魂抜けた」って言われても、何を言ってるのかわからないと思いますが、ご覧いただいたら「…魂抜けた…」ってなると思います。
この二人は元々は戦友だったそうで、戦いのさなかでも背中を預けることのできる親友だったはずなのに…という設定からしてごはんおかわりくださいなのですが、バトルシーンがセクシーなんですよ!!(※繰り返しますが亀と水牛の話をしています)
もう、ポーの話はいいから(おい)ウーグウェイとカイの話で一本作ってくださいと思いました。このシーンはクリエイターさんたちの力の入り方が違うことが、素人の私でもわかりますし。

また、カンフー・パンダシリーズは名台詞が多いですが、「3」も名台詞の宝庫でした。
特に好きなのは、ここです。(引用はIMDbより)

Shifu: If you only do what you can do, you'll never be better than what you are.
Po: But I like who I am!
Shifu: You don't even know who you are!
(拙訳:
シーフー「自分ができることだけをやっていたら、今の自分以上の者には絶対になれぬではないか」
ポー「でもおれは自分でいるのが好きなんです!」
シーフー「おまえは自分が何者であるかすらわかってないではないか!」)
*何かをやる前から何でも「できない」と言ったり思ったりしてしまいがちな人に絶賛お送りしたいセリフです。自分を含めて。

Mr. Ping: Sometimes we do the wrong things for the good reasons.
(ピン「わたしたちはときどき、善き理由のせいで間違ったことをしてしまうものです」
*まったくそうです。



ですが、ツカミがあまりにもオッケーだった分、あとは少々失速気味でした。
そして、「あああDWAでこれやっちゃったのか」というところが2つあり、そのために素直にこの映画が好きだと言えない。

失速を感じたのは物語の部分がやはり大きいのですが、「2」まででポーの「自分は何者であろうとするのか」というテーマでは完成してしまっていて、「3」では実の父親が出てくるものの、それはもう枝葉の部分に過ぎないと感じました。
だって(絵的にも)この世界でパンダであることのアイデンティティやルーツが、今更、ポーにとって特に重要なことだとは思えないから。

育ての親はガチョウのピン父さんで、パンダとしてのポーを父親として理解してあげらえる部分では限界があったかと思います。
だから物語上「3」ではパンダのリー父さんを出す必要があったと。
これは人種やエスニシティのメタファなのでしょう。例えばですが、アジア系の父親がアイルランド系の子どもを養子にして育てていくうちに、どちらもルーツが異なることから感じる寂しさがあるとか、言語化できないもどかしさがあったりして、ステップファミリーが多いアメリカでは切実な問題なのだろうと思います。
では、パンダのお父さんとパンダ村へ帰ったことで、ポーがパンダとして何か決定的なルーツやアイデンティティを発見するところまで物語が掘り下げられていたかというと、そこまで行っていないのですね。パンダは転がるんだとか言われて最初は喜んでいましたが、それは表面的なことであって、人間で言えば、日本人は正月にお雑煮を食べる習慣があるんだくらいのことだと思います。正月にお雑煮を食べないから日本人ではないかと言うと、そんなことありませんよね? その程度の問題です。
ポーの問題よりもむしろ、リー父さんの方が人生の問題を抱えていたことがわかります。
(このピン、リーの二人のお父さんは本当にいい味でした。二人のやりとりが心あたたまります。)

これはカンフー・パンダシリーズの特徴なんだなと改めて思ったのですが、ポーは主人公ではあるものの、狂言回しなのですね。
重要なテーマは実はポーの外にあって、それを具現するキャラクターは、ポー以外のキャラなんです。
そういう意味では、ポーは「中心人物」と言えるけれど「主人公」とは言えないのかもしれません。

例えば、ヴィランとの対比。「1」「2」は、ヴィランがどちらもアダルトチルドレンで、たとえ血はつながっていなくても人が愛されて育つこと、愛されていると本人が感じて育つということの大切さが、残酷なまでにポーとヴィランとの対比になっているお話でした。

子どもや少年少女向けの作品は、たいてい主人公が未熟者です。作品のターゲットが、まだ生まれて間もない成長過程の年代の人達だから、まだまだ未熟な主人公に自分を重ねて共感しやすいからだと思います。
なのに、このカンフー・パンダシリーズは、未熟なのは周りの大人たちなんですよね。
一番目立つのがシーフー。「シーフー」は中国語の「師父」のことなので、人格的にももう少し成熟した人であってほしいのですが、そうじゃないのです。
「3」でもまたシーフー老師は「2」の終わりと同じように、ポーのカンフーマスターとしての成長を妬むようなセリフがあって、全然成長していないことがわかります。
見ていて、もしかしたらシーフーがポーを裏切るかも知れないという危うさを毎回感じます。(最近知ったのですが、TVシリーズでの設定で、シーフーは流しの詐欺師をしていた父親に、子どものころ翡翠城に捨てられたんですね。シーフーの弟子の育成=疑似子育てが、「1」では失敗していたのが何だかわかるエピソードです。)
いっそシーフーを主人公に映画を作ったら面白いんじゃないかなとずっと思っていました。(そして今からでも遅くないのよ…。)

逆に、ポーはいつでも安心して見ていられます。
ポーがパンダであることは、人種的な配慮もあったと思いますが、陰陽太極図のメタファでもあることが「2」で描かれていました。「陰」があり「陽」があることで互いが存在するように、相反する要素の均衡が取れている様を表しているのですから、ポーがいつ見てもあるがままのポーで安定しているのは、当たり前なのかもしれません。
いつも自然体で、のびのびとしたオタクであることがゆるがない。それがポーの良いところではあるのですが、つまりポーはもう人として大事な部分は完成してしまっている。進歩するのはカンフーの技術的な部分で、それは人としての成熟とは関係がないものです。
ですので、「3」は、もうその部分では飽きちゃうのですね。ポーが変わらないので。
見ていて危うさを感じるのはシーフーやマスターファイブたちで、ポーならピンチに陥っても何とかしてくれるという安心感がある。



ヴィランについては、「3」は「1」「2」のようにアダルトチルドレンではありませんでした。もうACのヴィランは食傷気味なので、ACでなくしたのはよかったと思います。
ただ、「1」のタイ・ランや「2」のシェンのように、なぜ彼らがそんな人間<じゃないけど>になってしまったのかというバックグラウンドと動機に説得力があったのに、今回のカイにはそれがなかったのも物語を弱くしていると思います。

代わりに、と言うのも変なのですが、アメリカ人大好きゾンビでした。
カイって、死んでるんですよね。あの世から来るのです。
死んでいるのでもう殺すことができない、というのは、最強の敵です。ポーの必殺技も使えません(これは「1」を見ていると、カイがヤバイということがさらによくわかるようになっています)。シリーズ最強の敵ってそういうことだったのかと、そこは納得したのですが、でもポーが勝つことはわかっているわけで、じゃあどうやって勝ったかというと、ここが「うーーーん」でした。

「ああこれやっちゃったのか」と感じたところの一つ目は、ここでして。
DWAがエリート志向になってしまったと。
私はDWAの作品は、いつもマイノリティの人たちに理解と共感を示す、その姿勢がとても好きでした。
ですが、「3」では、ポーはエリートになってしまっています。
なぜ、ポーの「気(chi)」がカイの許容量を超えるほどものすごいのかがわからない。龍の戦士としてステージが上がったのも、「窮鼠猫を噛む」的にレベルアップしたのかがわからない。(ウーグウェイが「成長したな」と言うだけです)
「1」でも「なぜだかわからないけれどド素人がウーグウェイに選ばれる」というところから始まりますが、そのあとポーがトレーニングを積んでがんばっているところがきちんと描かれていましたし、「2」では、「1」もふまえて、これまで一生懸命鍛錬してきたことが基礎としてあって、今までできなかったことが土壇場でそのコツがわかったという展開になっていて、説得力がありました。
でも「3」では、「だって龍の戦士ってこういうことだから」という感じで、ポーは悩んだりハードな訓練をしたりしていない。その上で、ウーグウェイが、「こうなることはわかっていた」と言ってしまうので、「選ばれた人間だから」という以外に何も説明していないように見えました。
ウーグウェイは「1」でも「この世に偶然はないのです」と2度も言っていますが、これは運命論です。
「1」ではウーグウェイの運命論が、特にシーフーに前を向かせて現実を受け入れる覚悟をさせるという意味で良い方向に作用していましたが、下手をすると、「だから何をやっても無駄だ」という虚無の方向へも作用してしまいます。「選ばれなかった人間は、だから努力なんかしても無駄なんだ」という。(実際、マスター5たちは、生活も犠牲にして人生をかけて過酷な訓練をしてきたのに、龍の戦士に選ばれたのは空から降ってきたポーでした)
これはこれまでDWAが描いてきた作品のテーマやメッセージを否定してしまうものです。なので、なんだかショックでした。


「これやっちゃったのか」二つ目は、ポーがいったん死を選ぶことです。
エリート志向は百歩譲ってありとしても、これだけは、正直、やってほしくありませんでした。
これは今回、ヴィランがゾンビ(=いわゆるリビングデッドではなく、あの世から甦ってきた人ですが)だという時点でもう「御意見無用」だということだろうということと、「Spirit Realm(精神の国)」と呼ばれているので、いわゆるあの世ではないよ、と言いたいのかもしれませんが、どういう理屈をつけても、常人がふつうは行ったら帰って来られないところは死後の世界という解釈でいいと思います。(Kung Fu Panda wikiでははっきりと「カンフーマスターたちがこの世(the mortal realm)で亡くなったあとに赴く死後の世界」と明記されていますね)
自分で自分の命を絶つような“ヒーロー”に、ポーにはなってほしくなかったという意味でも「やっちゃった」でしたが、死後の世界から易々と帰ってくるのも「やっちゃった」でした。これについてもエクスキューズがなかったです。あったところでへ理屈にしかならないので(死んだ者はぜったいに生き返りませんから)、なくてもいいのかもしれませんが。
物語を盛り上げようとしているのはわかるのですが、主人公が自殺を選ぶことでヒーローになったり、あっさり生き返ったり、それがエリート(選良)だから、では、あまりにも安直に過ぎないかと思います。

また、同じく、中途半端に女性キャラクターを出して失敗している例になっちゃいましたね。メイメイはポーのフィアンセと、最初の頃は紹介されていましたが、それはなくなったようです。これならいっそポーとタイガーとの関係を進めた方がよかったのじゃないかと思いました。(ああ、マクグラス監督はやっぱりロマンスうまいなあ…)


カンフー・パンダシリーズは「6」まで製作すると、カッツェンバーグCEOは言っていましたが、DWAの最高経営責任者も交代する可能性が高くなっていますし、今後のことはわかりません。
ですが、これで終わっても問題ないように思いました。
ノベライズのウーグウェイのセリフでは次作に続く気満々なんだなというものがあったのですが、映画ではそのセリフが削除されていました。
どうしてもシリーズを続けるなら、よほど発想を転換しないと、新鮮な感動を呼ぶ作品にするのは難しいように思います。
物語的にも、ポーは龍の戦士として完成したわけで、アイデンティティの問題もすでに「2」までで解決、「3」はほんとうにおまけ的な部分なので、少なくとも「敵が現れる→倒す→めでたしめでたし」というプロットでは厳しいと思います。
(だからいっそ主人公交代でシーフー主人公の作品とかですね、待ってる。)(※それスピンオフって言う)


以上の感想は、英語でざっと一回見ただけなので、誤解や理解の浅い所があるかと思います。また日本語で見たら印象が変わるかもしれませんので、そのとき訂正したいところは訂正したいと思います。
ただ、ペンギンズのときも『ヒックとドラゴン2』のときも先に英語で見ていたものの印象はあまり変わらなかったのですよね…。アニメ映画ですし、英語もやさしいので、まあそんなに変わるものではないかと。


***

それにしても劇場版ペンギンズに引き続き、「DWAの実力はこんなもんじゃないだろう」という食い足りなさ、シリーズの人気に乗っかった安直さを、どうしても感じてしまう3作目でした。

今、ドリームワークス・アニメーションという会社自体が屋台骨がぐらついていて、350人もリストラした上に、残ったクリエイターさんたちも転職、退職されたり、まったく別のお仕事にも就かれたりして、その危うさが作品にも少しにじみ出ているような、そんな気がするのは、あと知恵でしょうか。(「カンフー・パンダ2」「3」のジェニファー・ユー監督も実写映画に行かれるとのことですし)

劇場場ペンギンズのときに強く感じたことでしたが、人気のあるコンテンツでも、それに甘えるようなやり方では傑作は生まれようがないと思います。
にもかかわらず、まだ昔の栄光が忘れられないみたいで、「シュレック」の新作を作るという企画があるそうです。興行成績が記録的に良かったからなのでしょうが、ペンギンズ、カンフー・パンダ、そして「ヒックとドラゴン2」の流れを見ている限りでは、もうシリーズものやスピンオフで一発当てようというその考え方自体を、見直した方がいいのじゃないかと思います。
ネット配信されている作品も、スピンオフか、過去の名作のリメイクばかりですよね。
このままだと、DWAは経営的にも創造性という面でも本当にジリ貧ではないかと、心から心配しています。大きなお世話ですが、リストラされずに残った才能あるクリエイターさんたちが自分からどんどん辞めていかれるのも、やはり同じような心配があるのじゃないかと思います。クリエイターさんたちだってごはんを食べなくちゃいけませんし、ご家族も養わないといけませんから、経営面ももちろん問題でしょうが、創造性という意味でもリメイクやスピンオフばかりでだらだら繋ぐ/稼ぐというのも、やりがいがなくて楽しくないのではないかと思います。

ペンギンズは興行的にもコケましたが、作品自体を見ていても、これまでのDWAカラーがどんどん色あせてきているようで、本当に心配です。
私は興行成績や一般受けしない可愛くないキャラクターデザインは別に気にしません。DWAの作品がDWAらしくすばらしいものであってくれさえすれば、この先一生ついていこうと思っていました。
今までは、DWAが日本で不遇なのは、日本でのプロモーションがうまくないことや、ライバル会社の利権などがしめる部分が大きいせいであって、土俵の部分、つまり作品そのものの質の高さでは決して負けていないというファンの自信があったのです。
ところが、『ヒックとドラゴン2』、『ホーム』、『ペンギンズ FROM マダガスカル ザ・ムービー』、そして今回『カンフー・パンダ3』と見てきて、DWAもここらで本当に褌締め直していただかなければいけないのじゃないかと、心から思いました。



そんなわけで、「〔映画は〕Story, story, story.」とおっしゃったトム・マクグラス監督の新作"The Boss Baby"に期待をかけます。
これでダメだったらDWAもうほんとにだいじょうぶかと。(2016年のSDCCでは少しお元気なかったので、しんぱい。)


***

最後にですが、『カンフー・パンダ3』は日本公開が流れてまたディスクスルーになって、しかも声優が総変わりするという噂を聞いて、これはもう劇場公開改めて絶望的だなと思ってしまいました。
とても失礼な話だと思うのですけれど、プロの声優さんの方がタレントよりギャラが安い傾向があるようなので、ディスクスルーのときはむしろ声優さんを起用するという(その方が安上がりだから)、ねじれた状況になっているようですね、日本の映画業界は。
カッツェンバーグCEOに嫌われても仕方ないんじゃないかと思えてきました。



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Commented by ket at 2016-08-13 13:32 x
今月8/19 にnetflix独占配信みたいです。 もうDWA作品の劇場公開は期待しませんわ。
Commented by n_umigame at 2016-08-14 12:23
知ってます。どうも。
by n_umigame | 2016-07-27 00:38 | 映画・海外ドラマ | Trackback | Comments(2)

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