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『ミルク殺人と憂鬱な夏 中年警部クルフティンガー』フォルカー・クルプフル, ミハイル・コブル著/岡本朋子訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)早川書房

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ふだんは平和なドイツの田舎町で、殺人事件発生。だが殺された食品開発技術者の周囲からは、動機も容疑者も浮かばない。それでもクルフティンガー警部率いる捜査陣は、懸命に捜査を進めてゆく……不器用にして恐妻家、要領は悪いが愛すべき中年警部の獅子奮迅の活躍を描き、ドイツで圧倒的な支持を受けた話題作
(出版社HP・書影はAmazon.jpより)




さらっと読めて、とても楽しかったです。
ヘレン・マクロイに続いて、久しぶりにミステリを読んで楽しいと感じました。(この感覚を大事にしたい)

カヴァーイラストがかわいらしくて(このイラスト、好きです)、タイトルからもコージーミステリーかと思われそうですが、一応きちんとした謎解き形式のミステリーでした。(“一応”て何という話はあとで)ちょっと真面目にミステリーしすぎていると感じるくらい。偏見覚悟で言うと、ドイツの人らしい生真面目さを感じました。いいなあ。

最近、ゲルマン諸語系と言いますか、鳴り物入りで日本に紹介されるドイツや北欧のミステリーというと、陰惨で気の滅入るような描写がこれでもかと続いて、それが露悪的であまりにも悪趣味にすぎるため、いいかげんげんなりして、最近は書店でもミステリーの棚にあまり近づかなくなっていました。そういうものもたまにはいいのですが、一つ何かがヒットしたらそればっかりになるというのは困りものだと思います。(ゆるゆるプリンが流行ったときの、ふつうのカスタードプリンを渇望するあの気持ちったらもう。)

そんな中でTwitterに流れてくる情報などで、あっ、これは私好きかもと手を出してみましたら正解でした。


さて、本書。
原書は2003年、今から13年も前に刊行されていたものです。すでにドイツでは大人気のシリーズで、ドラマ化もされているそうです。映像化作品もぜひ見たいと思わせる小説でした。
ドイツ語圏のミステリーを読み慣れていないせいか、最初はこの独特の雰囲気とノリになじむのに少し時間がかかりました。
でもそれに慣れてくると本当ににやにや顔が笑ってしまうし、ツッコミマシンにならざるをえないし、それをミステリーとしても大団円にまとめてくる 豪腕 手腕はすばらしいと思います(笑いながら)。いや本当に。「よくまとめたな!」って、こう、元気になると言いますか。真犯人がわかるシーンで顔笑ってましたもんね。(それもどうか)

この警察のゆるゆるな感じは、警察犬レックスがちょうかわいいドラマ『REX』を思い出しました。『REX』(はウイーンを舞台にしたドラマですが)も独特の雰囲気で、ミステリーとか警察ドラマとしてはどうなのかと思うエピソードも多く、それなのに見ていると何がおもしろいのかわからないんだけどとにかくおもしろいという、非常に頭悪そうな感想になってしまうところも似ているかもしれません。(※個人の感想です)


以下、少しネタバレですので、真っ白な状態で読みたい方は読了後にまたおいでください。


それで何が“「一応」謎解きミステリー”なのかと申しますと、本当に謎が解けるのは“一応”なのです。
別に探偵役のクルフティンガー警部や、警察の人たちの捜査や推理がすばらしいから犯人がわかるわけではないのです。(言い切った。)
そもそも推理が行き当たりばったりで、しかも推理は全部はずれます。
てゆうか推理してねえ。

それでどうやって事件を解決するんだと思われると思いますが、実際に読んでみたら、本当によくこれで解決まで持ち込んだなと、著者の 豪腕 手腕に惜しみない一人スタンディングオベーション状態でした。
クルフティンガー警部が主人公で主な探偵役ですが、私生活はダメだけど仕事は有能というタイプでもなくて、めちゃくちゃどんくさく、言ってしまうと公私ともにドジっ子です。(いいかげん太鼓は車から下ろせよと何度思ったことか)しかも部下に引かれるくらいケチ。本人は倹約家だと言い張ってますが、客観的にはケチ。(2回)
こんなどんくさくてケチな上司をもった部下に同情してしまいそうですが、部下もたいがいナチュラルボーン天然なのでバランス取れてます。
こんな警察でこの地域の治安とは。と考えてしまいますが、殺人事件がめったに起きないそうなので、結果オーライです。

中年の警察官が主人公だと家族関係が冷え切っているというのが多いですが、クルフティンガー警部は美人の奥さんともうまくいってるのかどうなのかよくわからないところだけがリアリティがあると言いますか、家族関係は概ね良好なようで、そこはほっとします。(クルフティンガー警部のお母さんは作家のエーリヒ・ケストナーのお母さんを思い出しました。)

以上、悪口しか言ってねえじゃねえかと思われるかもしれませんが、ほめてます。
だってこれでおもしろいって奇跡みたいじゃないですか。
クライマックス(?)の空港のシーンなんて、絵柄を想像して笑いが止まりませんでした。コントかよ。

内容はけっこう真面目に警察小説の形式を取った謎解きミステリーなのに、カヴァーイラストがコージーっぽくて、読者を選別してしまうかもしれないと思いましたが、登場するドイツの食べ物の描写がとても美味しそうで、うっかりコージーだと思って釣られた人もそうつかまされた気持ちにならずに済むんじゃないかと思います。そう考えたら秀逸なカヴァーですね。(ケーゼンシュペッツレというドイツ版チーズマカロニみたいなお料理があるそうで、これがとても美味しそう。)

こちらにレシピが載っています。→★「ケーゼ・シュペッツレ」



フロスト警部が好きな人は好きそうという感想を見かけました。当たらずと言えどもやっぱり少し遠いと言いますか、フロスト警部のキャラの方がよほど読んでいてしみるような人情に富み、私生活は哀愁にあふれ、おふざけはとことん悪趣味にふざけ、小説としてはいしいひさいち先生に「短篇集じゃないの」と言わしめた超絶技巧モジュラー型。あんな華麗なる職人芸では決してないです。あんなに下品でもないですし。
この根本的にゆるい雰囲気、まじめにやれと言いたいけれどどう見てもまじめにやっていることから来るおかしさ、フロスト警部のブリティッシュネスに比して、どこまでもこれがドイツなんだろうなと思う、ちょっぴり垢抜けないところも含めて、そんな楽しい小説でした。
続きが楽しみです。

シリーズのHPがありました。→
著者のお二人、お若いですね~。Twitterもされているようなので、ドイツ語OKな方は覗いてみられても楽しいんじゃないでしょうか。


ドラマの画像をちょこっとググったところ、こんな雰囲気のようです。
うわーちょう見てえええ(笑)。
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画像はこちらのサイトより。




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by n_umigame | 2016-09-20 22:31 | ミステリ | Trackback | Comments(0)
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