「ほっ」と。キャンペーン

『ラスト・ウェイ・アウト』フェデリコ・アシャット著/村岡直子訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)早川書房

d0075857_15443416.jpg


テッド・マッケイは自分の頭に向けて拳銃をかまえた。妻と娘が旅行中の今日、とうとう自殺を決行するのだ。引き金に指をかけたそのとき、玄関の扉が激しく叩かれた。リンチと名乗った突然の来訪者は、ある「組織」からテッドへ依頼を伝えに来たと語りはじめる。その内容はあまりにも常軌を逸したものだった…。迷宮のごとき物語の果てには何があるのか。異様なるイメージと予測不能の展開が連続する、南米発の“奇書”
(Amazon.jp・画像も)


何を話してもネタバレになってしまう種類の本ですので、未読の方は回れ右でお願いします。














ミステリー小説としては感想が難しい本と言いますか、読み終わって呆然としました。
いわゆる「壁本」とかではなくて、「……まって?」と小声でつぶやいてしまいます。

どんどん読ませるのですが、後半急激に失速して、最後はありがちなサイコ・サスペンスになったと思ったら、最後の一行でメタレベルで丸投げしてしまったような作品です。
いわゆる「最後の一撃」を狙ったのかもしれませんが、「最後の一撃」は読者をいろいろな意味で納得させるものでなくては意味がないと思います。

アルゼンチンの作家で、アメリカのドラマなどにもたくさん親しんでいる方だそうですが、長丁場でプロセスはおもしろかったのに、最終回で「何にも解決してねええええ」と言いたくなるような風呂敷広げっぱなしのアメドラかい。と思ってしまいました。
そういうアメドラにもよく思うことですが、途中がおもしろかっただけに最後が残念です。

十人頭を揃えて読者がああだこうだと言ったところで、十人の解釈がどれも正解でありうるし、どれも不正解でもありえるという、「藪の中」タイプのオチです。
ミステリーと言うよりは、リドルストーリーに近いかもしれません。


以下、具体的に物語に触れています。







物語は、語り手であるテッド・マッケイが拳銃自殺しようとするところから始まります。
妻子を残していくことに後ろめたさを感じていたところへ、リンチという男が現れて、テッドが何をしようとしているか知っている、あなたと同じように自殺したいと考えている人間を殺してくれたら、あなたのことも殺してあげましょう。殺人の被害者として死ぬ方が妻子の心の負担も少ないですよ、わたしはそういう組織の者なんです、ともちかけます。

テッドはこの話に乗るのですが、殺しに行った男(ウェンデル)の妻子が自分の妻子として登場します。
すでにここで、これが現実に起こったことなのか、テッドの、あるいは別のキャラクター(第二の視点)の妄想や夢なのかがわからなくなります。
第2部は第1部とまったく同じシチュエーションで始まり、映画『メメント』のような、記憶障害によるループものなのかなと思って続けて読んでいると、第3部でやっと信用できそうな視点(語り手)であるキャラクター、精神科医ローラ・ヒルが出てきます。

テッドは、この精神科医ローラ・ヒルの患者で、研究対象であったことがわかります。
迷宮入りしていた過去の連続殺人事件の犯人が実はテッドだった…? と思わせておいて、最後はテッドの父親がその真犯人で、テッドはそのトラウマのせいで長年苦しんでいたのだという展開になります。

ふつうの感想としては、テッドがかわいそうです。
自分の責任ではないことで、精神を病んで一生苦しんだわけですから。しかもいわゆる「畳の上で死」んでない。気の毒すぎる。


でもまあ、ここまでだと、わりとよくある、今となっては時代遅れの感すらあるシリアルキラーものの話か…となります。
翻訳にして600p近くあるので、これだけ読まされてこれですかーという、あっけなさはありますね。
そこへとどめの一撃が来るのですが、これがわけがわからないのですよ…。


テッドの妄想(夢)の中に、オポッサムが出てきます。

d0075857_16154230.jpg
上の画像はこちらのサイトより。

d0075857_16154674.jpg



北米に分布する唯一の有袋類だそうで、かわいい。
いやかわいいのはどうでもよくて、テッドの夢に出てくるオポッサムちょうこわいんですよ。テッドの奥さんの足を食べたりしているので、顔はかわいいけど食味はがっつり肉食系のタスマニアデビルみたいな動物なんでしょうか。Wikipediaによると「死んだふりをする動物として有名」なのだそうで、知りませんでした。
「なぜオポッサムなのか」という点については、この「死んだふりをする」ということがヒントなのかもしれませんね。長年忘れていた/見ない振りをしていた記憶はなかったことと同じ=死んでいるふりをしている、と考えられなくもありませんが、それはあまり本筋には関係なくて「オポッサムはテッドの妄想に出てくる」ということだけを鍵に読めばいいのだろうと思います。

そこで問題になるのがラストです。

テッドにしか見えないはずのオポッサムを、友人の弁護士であるアーサー・ロビショーも見たと言うのです。しかも、自分とテッド以外は見ていない、と断言して、最後にローラに「もっと早く言えればよかったのですが」と言っています。

テッドの妄想(の中にしか出てこないはず)のオポッサムを、ロビショーが見たというのは、
(1)アーサー・ロビショーは嘘をついている。(実際にはオポッサムを見ていない)
(2)ロビショーも見たということは妄想(=フィクション)の共有である。ということは、この物語(フィクション)自体が全部夢オチである。
(3)オポッサムはテッドの妄想ではなく、実在した。それをアーサー・ロビショーが見たのである。(しかしそれをローラに話せなかったのはなぜかという別の疑問が出てくる)


くらいしか思いつかなかったのですが、正解は(2)なんじゃないかなと思いたくないのですが思っています。
だって禁じ手じゃないですか、それだと。

「わたしの解釈はこれだ」というものがあったらお聞かせください。






[PR]
トラックバックURL : http://fwest.exblog.jp/tb/23627194
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
by n_umigame | 2016-11-20 00:15 | | Trackback | Comments(0)

Welcome. 本と好きなものがたり。


by n_umigame
プロフィールを見る
画像一覧