『ヒックとドラゴン』12(上・下):「最後の決闘」クレシッダ・コーウェル作/ 相良倫子・陶浪亜希共訳(小峰書店)

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ついに人類の命運が決まる〈運命の冬至〉の日となった。このままでは、〈失われし十の宝〉を手に入れたアルビンが新王になってしまう……。ヒックは、それを阻止して、みんなを救うことができるのか?
(Amazon.jpより・画像も)


完結。
11巻までの感想はこちらです。→







以下、ネタバレです。映画についても触れています。
特に今回の最終巻は、内容を知らずに読んだ方が単純に楽しめると思いますので、未読で今から読む予定のかたはここで回れ右推奨。












おもしろかったです。
ですが、このおもしろさは上の「ほんのひきだし」様の紹介ページにもあるように、とにかくめまぐるしく物語が展開する、ジェットコースターに乗っているようなおもしろさです。

「ヒックとドラゴン」は1巻冒頭から、主人公のヒックは生き残り、かなり高齢になるまで穏やかに暮らしたことがわかっている、という構造の物語です。
ですので、ヒックがどんなに危機一髪の目に遭っても必ず生き残ることが読者はわかっているのですね。なので、どんでん返しに次ぐどんでん返しが物語を盛り上げると言うよりは、種がわかっている手品の種明かしをずるずる引き延ばしているかのように感じて、途中ちょっと退屈でした。山場ばかりではかえって平坦になってしまいます。

これは児童書だから主人公が死なないのは当たり前だと思って言っているわけではありません。特にイギリスの児童文学は、大人が読んでもつらすぎるエンディングを迎えるお話がたくさんあります。
そういう物語を先に読んでしまった大人としては、ヒックの艱難辛苦はヒックが人間的に成長するために必要な苦労と言うよりは、苦労のための苦労のように見えてしまい、そこも読んでいてつらかったです。
ヒックは物語が始まったときからとてもよくできた子ですよね。
もう出てきたときからこの子には幸せになって欲しいと思うような子です。
なので、これでもかこれでもかと次々とひどい目に遭わされているヒックを見ていると、もうだんだん作者にいじめられているようにしか見えなくなってしまいまして。

児童文学がすべてビルドゥングス・ロマンであるべきだとは言いません。
主人公がぜんぜん成長しない作品でも、楽しいだけの本にも役割があると思います。ビルドゥングス・ロマンは描き方が下手だと説教臭くなってしまいますから、子どもが読んでてそこがひっかかると、「だからいやなんだ、本なんか読むの」という気持ちになってしまいますしね。それでさらに「読書感想文を書け」なんて言われたら、もう最悪です。あと「このときの主人公の気持ち」をテストで書かされるとか。本嫌い道一直線です。

それでもやはり、だからこそ、ヒックにここまで何度も12巻まで通じて、さんざんな目に遭わせる必要があったのか、やっぱり疑問に感じてしまいました。10巻くらいからだんだんひどくなりますが、最後の最後までこれですかと。特に12巻は上下2分冊になるくらい、原作が長いものですから。

フィッシュがアルビンの子だったという設定も、これいるのかなあと疑問に感じました。
読者をびっくりさせたかったのかもしれないけれど、フィッシュにとっても何の救いにもならないですし。アルビンがあまりにもひどい人間だったおかげでフィッシュはふっきれましたが、フィッシュがこの先大人になったときに、いろいろ思い煩うことが出てくるんじゃないかとか、あれこれ考えると素直に「お父さんがわかってよかったね」とは言えません。
フィッシュもいい子じゃないですか。なので、もしかして、クレシッダさん、どSなの? って。
この設定も、ずっと読んできて、フィッシュ自身にとって「これしかない」という展開だったら、どんなにつらい現実でも物語世界の事実としてすっと沁みてきたと思うのですが、ヒックの連続災難といい、作家が読者をおもしろがらせようとしているとか、メタレベルでの都合が先に透けて見えてしまって、残念でした。
アルビン自身が母親を憎んでいて、確かに母親もまあ困った人ですが、この辺りの感情が全部セリフで説明されてしまうのですよね。もう少し人間関係のドラマを盛り込んであったら、もう少し違う印象になったのではないかと思うと、それももったいないです。
子どもが読むと、あるいは本を読み慣れていない人が読むと、このあたりは逆に気にならなくていいのかもしれません。


終わり方も、もったいない終わり方だったように思います。
ビルドゥングス・ロマンは下手をすると説教臭くなると書きましたが、この物語はビルドゥングス・ロマンではないのに、最後の最後で、説教臭くなってしまっていました。
「本はドラゴンと同じだ」
の部分は必要だったのでしょうか。
個人的には、ここは蛇足だったと思います。
「そこ、言っちゃうか」と。
だから「本を読もう」と続くのですが、それを作家が言葉にして言ってしまったらダメなのではないかと。
「最近の子どもたちは本や行間から想像する能力が低いから、言わないとわからない」という向きもあるかと思いますが、言わないとわからない子には言ってもわからないんじゃないかと。

今、どこも出版不況で、関係者は皆さん頑張っているのです。
そこは重々承知した上で、やっぱりそれを、子どもに、どストレートに「本を読め」と、特に物語の中で言ってはいけないのではないかと。
途中の巻にいいなと思う表現がたくさん出てきたので、なおさらこの最後はがっくりきてしまいました。


物語冒頭からわかっているもう一つの事実として、「ドラゴンが消えてしまった世界である」ということがあります。
どうして(why)、どうやって(how)ドラゴンはこの世界から消えてしまったのかという部分も、大勢の読者が知りたかった部分ではないでしょうか。
読み終わって、ここももったいないなあと思った点なのですが、うーん、そんな消え方だったのかあ、と。あっけないと言うか、ちょっと肩すかしでした。
ヒックが生き残るということ以上に、「どうしてドラゴンが消えてしまったのか」という部分を、もっと重めに描いてほしかったです。

読み終わってなおさらそう思ったのは、作者にとってドラゴンは本と同じくらい重要なものだったのですよね。
本が消え去ろうとしている世界に危機感を覚えているということを、野暮を覚悟でストレートに言わずにはおれないほど、読者に伝えたかった。
であれば、なおさら、もう少しドラゴンの消え去り方については描きようがあったのではないかなあと思い、ここも残念でした。


最終巻はこれまでの伏線などを全部回収して、きれいに完結しています。
語り残したことがあるとか、物語が破綻しているということはないですので、そこは安心してオススメです。


映画の方は、原作どおりにドラゴンがいなくなったところで終わると、ディーン・デュボア監督は明言されています。ここのところドリームワークス・アニメーションの作品のクオリティを見ていると多少不安の方が強くなってきていますが、原作がこんな感じなので、映画は全然違う消え方になるのではないかと想像しています。

ポリティカリー・コレクトという面で見たときに、ほんの数年前までは、海外アニメ作品の中ではドリームワークス・アニメーションが突出していると思っていました。PCと言うよりは、マイノリティーに注がれる優しいまなざしに、いつもDWAらしさと安心感を感じていました。
ところが『ヒックとドラゴン2』を見てみて、あれ、なんでこんな保守に逆戻りしてるの? と感じるようなところがあり、『カンフー・パンダ3』に至っては明らかに物語の作法としては退行していると感じました。
映像は技術なので、どんどんすばらしくなっていっているのですが、オタクの悪い面が出てきたと言いますか、一般人には正直どうでもいいような些事・細部にとらわれすぎて、物語や、これだけは伝えたいというメッセージ部分がおろそかになってきているのではないかと思うようになってきました。以前はそのオタクっぷりが良い方へ作用していたと思うのですけれど、それを商品としての映画にする際に、作品全体の舵取りをする人がうまくないのではないかなと。

マダガスカル三部作がすばらしかったので、その基準で見守ってきましたが、ドリームワークス・アニメーション作品が日本に来なくなったことは、カッツェンバーグCEOが日本の映画業界に難色を示していたということ以外に、ライバル会社が次々と秀作を作り出していることとも無関係ではないと思います。
気難しいCEOがいる会社から、凡作とは言わないまでも傑作とも言えない作品を、桁違いの高額で買い付けて日本で上映するメリットがない、という判断をした人がいることも、ここ最近のDWA作品を見ていると、残念ながら納得せざるをえない部分があるというのが、ここのところの私見です。
DWAというスタジオ自体が大好きな自分としては、本当に今はつらい時期です。
ドリームワークス・アニメーション、もっと頑張ってよと。
きっと乗り越えられると信じたいです。

元々、「ヒックとドラゴン」は、原作と映画で全然世界が違う作品でしたので、どちらがどうであればどちらかもこうだ、ということはないと思いますが、原作が完結した今、双方のあれこれを思うに、映画の3作目は過剰に期待しないでいたいと思います。
それで大傑作に化けていたら、かえってうれしいですしね。




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by n_umigame | 2016-11-27 23:10 | | Trackback | Comments(0)

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