不思議な手紙で孤島の別荘に招かれた十人が、マザーグースの童謡にのせて、一人また一人殺されていく……そして……。クリスティの傑作推理小説の戯曲版。小説とはひと味違う粋な結末とは? 84年刊の再刊。〈ソフトカバー〉
映画化もされたが、映画作品ともひと味ちがう戯曲ならではの粋な結末をお楽しみください。
(Amazon.jpより・画像も)
いつもお世話になっているYuseumさんがブログでご紹介してらして、そういえばそういうものもあったっけ、と、これを機会に読んでみました。
(Yuseumさんの紹介された記事はこちらからどうぞ↓
これもYuseumさんの記事を読むまで忘れていたのですが、戯曲版は『アガサ・クリスティー完全攻略』でも取り上げられています。(こちら、今Amazonを見たらすでに紙の本は品切れになっていますね。Kindle版で読めます。また、元々ウェブでの連載をまとめたものなので、興味のある方はウェブでもごらんください。)
↓こちらから遡ってください。
以下、完全にネタバレになりますので、原作未読の方、戯曲版のネタバレも知りたくない方(いるのか)(←おい)、BBC(2015年版)制作のドラマについても触れていますので、トータルでご判断の上、お読みください。
繰り返しになりますが、この小説のオチも知らないし犯人も知らない、ドラマも原作も読んだことがないという幸運な方は、ここでぜったい回れ右推奨です。
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いいですか~。
いいですね~。
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はい。
では戯曲版の感想です。
なんじゃこの陳腐なオチーーーー!!!
戯曲版のファンの方、すみません。(いるのか)(だからおい)
ミステリーの戯曲化なので、セリフが説明がましくなるのはある程度仕方がないにしても、最後のヴェラとロンバートの説明の応酬はもう少し何とかならなかったのかと思いました。
しかもこれ、二人とも「わたしは無実だ」と言っていますけれど、口では何とでも言えるという点で事件が始まる前の状況となんら変わっていないというところは、突っ込んだらあかんとこなんでしょうか。
あかんとこなんでしょうね。
だって話が終わりませんもんね。
お客さん、いつまでたっても帰れませんもんね。
クリスティーの「人殺しは罰される」という厳しくほぼ例外のないルールの下では、生き残ったということがすなわち無実であるという証明にもなっているので、無実なんでしょう。
男女がくっついて終わるハッピー・エンディングは、他の作品でもクリスティーは多用しているので、そこがどうこうということはなかったのですが、原作を読んでいるとなんだかだまされたような気になると言いますか、それでいいのかとやはり思ってしまいます。
しかし、それよりなにより、問題は犯人ですよ。
犯人が再登場して犯行の意図を話すシーンは、まったく笑うシーンではないのに笑ってしまいました。
「わたしの○○○計画が実現する(大興奮)」とかって、あんたは世界征服を企む悪玉の親分か。しかもだいたいこれ直後に負けるフラグで、もうこのあと秘密基地ごと島が爆発する展開としか思えんわ。それと自分で自分のこと「私は気違いだ」って言ってるよこの人。自覚あるんかい。(ほかにも「犯人は頭おかしい」と言っているところが原作にもあることはあるのですが、この戯曲の流れで言われるともう笑うしか。)
1940年代に映画化されたバージョンが、なんだかコミカルなシーンがあったような記憶があるのですが、この戯曲版を読んで、ああこれはコミカルにしたくなる気持ちもわかるなと思いました。
舞台で見せることが前提なので細かいところはほかにも変えてありますが、どういうわけか原作と微妙に名前などを変えてあるところがありました。
これはやはり原作とは別物だということを強調したかったのかもしれませんね。だって笑えるし。原作はなまじなホラーよりずっと怖いですので。
冒頭は召使いのロジャーズ夫妻たちが、今からバカンスにやってくる人達の下馬評からわいわいと始まるところがいいと思いました。見ている人が舞台の世界に気楽に引き込まれますね。
あとこれは翻訳の問題ですが、マーストンがやたらと「イカす」という言葉を使うのが笑いました(例:「イカシた家(うち)をお買いになりましたね」)。この戯曲の初版は奥付によると2000年になっていますが、訳者のあとがきが1983年となっていますので、もしかしたらかなり以前に出ていた本の再刊だったのかもしれません。(本書には旧版についての記載はありませんでした)
ですけど、1980年代に「イカす」って。当時でもすでに死語だったのでは…。
こんなに笑えるのに、あの怖い怖いBBC版2015年のドラマでもこの戯曲から採用されたかと思しき演出がありまして、なかなか侮れません。
…あれ? わたしこの戯曲版も好きなんじゃ……?
(好きって言っちまえよ…)
というわけで最高に笑えていろんな意味で笑顔で劇場から出て行ける戯曲版『そして誰もいなくなった』も、ファンにはご一読をオススメいたします。
「ええ~あのホラーまがいの小説で笑えるわけないじゃない…(読む)…ぶっふぉー!!」てなりたい方はぜひ。
そしてもちろん、戯曲なんだから、いつか舞台でも見てみたいです。
今年(2016年)も日本で何公演かされている劇団があったようです。見てみたかったなあ。もし「今からやるよ」という情報がありましたら、ぜひお教えくださいませ。
↓8月に終了しています