長年日本では劇場公開がなかったドリームワークス・アニメーション作品が、このほど公開されることが決まったとのニュースが入り、ご同慶の至りでございます。
DVD発売の記念上映を除くと、2012年8月1日に公開された『マダガスカル3』以来ですので、5年半ぶりとなります。
映画『ザ・ボス・ベイビー(原題) / THE BOSS BABY』超特報映像
え、なんでそんな殺伐とした礼儀正しさ(@北大路公子)あふれるテンションなのって?そりゃあなた、今まで何度も期待しては失望させられるようなことが、日本でのDWA環境にはありすぎたからですよ。
でも今回(こそ)は希望が持てるのは、DWA本体もユニバーサルの傘下に入り、日本の配給も東宝東和に変更になったこと。来年の春公開予定だというのにすでに公式サイトも(コンテンツはまだですが)できていますし、Twitterの公式アカウントも始動しています。「きちんと公開しますよ」「そのための日本語による広報も準備していますし、公開が近づいたらもっと更新しますよ、おさおさぬかりはありません」という、「仕事ができる人は仕事が早い」の法則が生きている、と思われます。よろしくお願いいたします。
とはいえ、日本公開はかなりの周回遅れであることは事実でして、本国アメリカでは2017年3月に公開済み、すでにBlu-rayなどのソフトも販売済みです。
最近はDWAの新作は北米盤で見るのが当たり前になっていたので(だって日本盤が出るのかどうかすらわからないし…)「ボス・ベイビー」も早速北米盤Blu-rayで視聴しました。
「トロールズ」もいい作品で「なめてましたごめんなさい」だったのですが、「ボス・ベイビー」はそれに輪をかけて「なめてましたごめんなさい」作品でした。
これは傑作だと思います。
また、ネタバレあり感想では触れますが、「トロールズ」がそうだったようにオバマ大統領の時代のアメリカの作品でもあり、だからこそ「トロールズ」がそうだったように今こそ見てほしい作品だと思います。
こちらは「ネタバレなし」感想ですが、長くなるのでたたみますね。
最近ドリームワークス・アニメーション(以下DWA)は、会社の経営自体が思わしくないこともあって、以前から何かとたたかれやすかったところへもってきて、この作品もあまり期待されていない雰囲気が、痛いくらいしていました(涙)。
ところが、いざ北米で公開されると、同時期に公開されていたディズニーの傑作の実写化『美女と野獣』の興行成績をしのぎ2週連続で1位を獲得し(もちろんトータルでは負けていますが)、その後も好調な客入りが続いたようで2作目の制作も決定しています。(2017年8月現在)
DWAは最近長編の企画はお蔵入りが続いていて、エドガー・ライト監督やトム・ヒドルストンといった超売れっ子の監督や俳優を招いて鳴り物入りで制作の知らせが入っては頓挫するということの繰り返しでしたので、この続編もどこまで信用できるかわかりませんが、続編制作のゴーサインが出るほどにはヒットしたコンテンツとなったということです。
原作はマーラ・フレイジーの『あかちゃん社長がやってきた』(講談社)。子育てのたいへんさをユーモアとあたたかい愛情いっぱいに描いた絵本で、子育て中の親御さんに大人気、こちらも本国では続編が出ています。
この絵本がDWAの、そして私が信頼するトム・マクグラス監督の手になるとどんな作品に化けるのか、期待と、そして正直なところ不安がないまぜになった気持ちで見てみたのですが、今回も今まで以上に笑って笑って、クライマックスからラストシーンに向かってはもうずっと泣いてました。幸せな気持ちいっぱいで。
マクグラス監督にはご自身の子どもさんはいらっしゃいません。にも関わらず、子育てのたいへんさと喜びを直球で描いた原作をどう作品にされるのかと、そこが期待もあり、不安でもありました。また、鑑賞する側の私自身にも子育てがテーマの作品をどこまで楽しめるのかという不安もあったのです。
しかしそれは杞憂でした。
子どもを育てるということ、それはもちろん大きな愛情ではありましょうが、それだけにとどまらない、もっと広い意味での愛とは何かということに、非常に真摯に、DWAカラーで(重要)、そしてマクグラス監督カラーで(さらに重要)向き合い、見せてくれる作品になっていました。
マクグラス監督の作品は、表現はけっこうクレイジーでスラップスティックなのですが、そこにはびっくりするくらい純粋な愛情が描かれていることが多いです。この「愛」には恋愛という狭い意味の愛だけでなく、友情という名の愛、親子の愛、故郷への愛、仕事への愛などなどが含まれています。そして、あらゆる意味でそれらへの愛を問う作品になっています。
また、マクグラス監督の作品はDWAの中でロマンスがずばぬけていいと思う作品が多いのですが、それは作品の魅力の一面でしかありません。今回も、作品のメインストリームは兄弟の愛ですが、最終的にそれはこの作品の一面の魅力でしかないことがわかり、わかったとたんに涙腺崩壊していました。
インタビューで「この作品は僕の兄への50年ぶりのラブレター」ともおっしゃっていましたが、それにも心からうなずく作品でもありました。
こんなふうに書くと、頭お花畑の甘ったるい子ども向け作品なのかと誤解される方もあるかもしれませんが、マクグラス監督の作品は、これだけ美しいものを描いているにもかかわらず、冷徹さを失いません。どれだけ空想の世界に遊んでも、たとえば「マダガスカル」であれば、「自分探し」のようなありもしない妄想を追いかけるのはだめだといったクールな視線が一本通っています。
愛情のように見えるもの、希望のように見えるもの、そういう紛い物、イミテーションに目が眩まないようにするためにはどうしたらいい? 現実の世界をちゃんと生きるにはどうしたらいいと思う? という問いかけも、常に含まれています。
この「ボス・ベイビー」でもそのある種精神的な健康さは健在ですので、見てのお楽しみでどうぞ。
と絶賛しましたが、序盤から途中まではいつものDWA節全開ですので、このあたりの笑いのセンスが趣味と合わないと厳しいと感じてしまう人もいるかもしれません。お得意のパロディは今回はなりをひそめていますが、小学生男子魂に訴えかけてくるようなネタも満載です。ただ、前半は子どもたちを単純に笑わせて後半へ引っ張るのが狙いだろうと思います。子どもがターゲットのアニメ作品ですから。
もしギャグのセンスが合わない向きにも、ティムの空想の世界を描くシーンでは、3Dアニメが実は好きではない(笑)マクグラス監督らしい、すばらしく美しいカートゥーンが魅せてくれます。海外アニメや洋書絵本が好きな方は絵を見ているだけで幸せな気持ちになれること請け合いです。
そして、これはネタバレあり編でがっつり書きたいと思いますが、バディムービーとしても最高です。
映画館では、エンディングクレジットが終わっても席を立たないよう、おすすめします。