*さいはての西*

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『名探偵評判記』 砂野恭平・著/文遊社

ええと。(なぜ言いよどむ。)

おなじみの「慧眼の本屋のオヤジ(かどうかはわからないが売る本を決める人)」がいる書店で見つけた本です。
1978年初版、30年近く経過。それでも出版社に在庫があるのがすごいですよ。というかわたしがこの本を見つけたのは確か数年前だったはずなのですが、それでも、1978年初版のままというのが、売れてるのか売れてないのか、どっちなんだという本です。
久しぶりに引っぱり出してみました。

主に欧米の古典ミステリの名探偵たちを紹介した本なのですが、一読して、「ううむ!」とうなりました。この手の名探偵評論本はめずらしくないのですが、その中でも特にアプローチがユニークというわけでもなく、緻密でマニアックというわけでもなく、イラストがステキとかでもなく、どちらかと申さば、造本といい、文章といい、あか抜けない印象で仕上がってしまっています。
それがなぜわたしをうならせたかと申しますと。

探偵エラリイ・クイーンをここまでクールにこき下ろすことのできるライターさんには、お目にかかったことがないからです。

こき下ろしたという言い方は語弊があるかもしれません。
むしろ、わたくしなどは、なぜ今まで、探偵エラリイ・クイーンについてこのような角度から述べた人がいなかったのか、そちらの方が不思議なくらいでした。
いやそれも正直、ウソで(笑)。(あら、「ウソつきのクレタ島人」みたいな言い方になってしまった)
それは、誰も、「王様ははだかだ」と言う勇気がなかったから。
ということではないかと思われます。

その意気や、よし。

そう思って、うなったのでした。
こんな本を出すくらいですから、著者の方ははもちろんミステリが、名探偵が、大好きなのだと思います。エラリイ・クイーンだって読破してらっしゃることでしょう。ですから、なおさら、「作品はこんなにおもしろいのに、なんでこの探偵はこうなの?」と、エラリイというキャラクターに対して憤懣やるかたないのではないかと思われます。(エラリイへの評だけを読んでいるとハードボイルド探偵が好きなのかとも思いそうですが、ほかの、例えば、ブラウン神父やフェル博士、ポワロやデュパンに対しては、こんな風ではないのです。あの、輝け!世界一友だちになりたくない探偵で賞グランプリ!のファイロ・ヴァンスに対してさえ、エラリイに対するほど冷たくないです。)

ただ、エラリイのためにも一言申し添えると、事実誤認もけっこう多いです。
あまり好きじゃないんだから仕方がないかもしれませんが、少し読めば確認できるだろうという部分の裏付けも甘いところがぽろぽろと見受けられます。(著者の方は、その「事実」にしてからが矛盾だらけなのがまず気に入らないのですが(笑)。)
しかし、何かに対してひとことも批判がましいことが言えない雰囲気ができてしまっている、というのはある意味、末期的症状で、決して良い状態ではありません。
(中国の故事にも、新しく君主になったけれど、国民に「今度のやつはありゃなんじゃー!」とぎゃーすか言われているうちは放置、誰も何も言わなくなってから「いよいよまずいね」ときちんとした統治を行った君主のお話がありますね。)
アンデルセンの王様も、はだかだと言ってくれる人がいるうちが花だと思います。

だって、本当に嫌いだったら、何も言いませんから。

ただ、このお話、子どもの頃は、「子どもは正直だ」という教訓話だと思っていましたが、大人になってからは「王様をはだかだと言うのは、子どもだけだ」という訓戒話ではなかろうか、と思うようになりました(笑)。
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by n_umigame | 2006-08-11 00:28 | ミステリ | Trackback | Comments(0)
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