『キャラクター小説の作り方』 大塚英志・著(角川文庫)

会社の同僚が「おもしろいよ」と言っていたのを思い出して、新幹線に乗る前に購入しました。
同僚はライト・ノベルの擁護論のような内容だと申しておりましたが、安直な擁護論ではなく、ライト・ノベル、キャラクター小説とは何かということにもっと書き手は自覚的であれ、という啓蒙論でもあるようです。

著者によれば、「スニーカー文庫のような小説の書き方の実用書」だそうですが、別に小説を書くつもりでなくても、読み物として鋭い示唆に富み、おもしろい本でした。
(切れ味が鋭すぎて、敵も作っちゃったみたいですが(笑)。)
「スニーカー文庫のような小説」というのは、いわゆる「ラノベ」、ライト・ノベルのことだそうですが、ミステリ好きとして、「ミステリのキャラ読み」というものがかつて(今も?)問題になっているらしい、と知って、え、キャラクターが好きでミステリ読んじゃいけないの? むしろ、キャラクターに魅力がないのにおもしろいエンタテインメント小説ってあり得る? と常々、何が問題なのか知りたかったので、その一助にもなりました。(そちらは結論を言えば、「あり得るみたい」です。キャラクターに魅力がない、いわゆる「人間が描けていない」と言われがちなミステリー小説は、むしろ、そう批判されることが本格ミステリとしては勲章だと思っておられるのではないか、と思われるふしもあり、そういう書き手が生み出した作品は、いきおい、「あり得る」方の作品になるようなので。わたくしは個人的に、パズルだけがやりたければ、本ではなくパズルを買います。)

大塚英志さんは、次のように書いておられます。
かつて江戸川乱歩が、自分たちのジャンル、つまりミステリーは写生文的なリアリズムに基づかないと言いきった。そして、探偵小説には「名探偵」という現実には成立し得ない職業(現実の探偵は殺人事件の解決などしません)が成立しているし、殺人犯も、わざわざその謎が解ければ自分が犯人だとわかるトリックを仕掛ける。しかし現実には、犯人が捕まらないのは、探偵がトリックを解けなかったからではなく、犯人が証拠を残さなかったか、警察が見つけ損なっただけである。
だからミステリー小説に、京極夏彦や清涼院流水のような「キャラ萌え」的な個性を発揮する作家が登場するのはむしろ当然である。しかるに、彼らの小説がキャラクター小説的支持を受けることにミステリー業界内部から批判があるのは奇妙なことだ。彼らは「非リアリズム小説としてのミステリー小説」の歴史の当然の帰結として登場したのだといえる。
…とのことです。

また、批判は内部からなされるのでなければ意味がない、というようなことも書いておられるのですが、まったくそのとおりです。そのとおりなのですが、「内部」にいるとなかなか「正しいこと」が言えず、言ってしまうと正しいことをしているにも関わらず裏切り者と見なされて、結局「外部」へ放り出されてしまう、ということなのでしょう。
『名探偵評判記』の感想のところにも書きましたが、しかし、こういう「批判がましいことがひとことも言えない状態」が組織的に成立しているというのは、ある意味末期的症状で、だから、閉塞し、停滞するのだということにもなりかねません。長い目で見ると、結局、自分たちの首を絞めているのは自分の手。ということなのですが、それを知りたくないからウチに籠もるのかもしれません。

清涼院流水さんの小説は1冊も読みきれず文字通り投げ出したくちなので、なにをかいわんやですが、京極夏彦さんはふつうにおもしろいと思います。おそらく身の半分は、あるいは意識は「外部」にいらっしゃるからかもしれませんが、なんとなく、風通しが良いと感じるのかもしれません。

ですが、どうも、わたくしが考えている「キャラクターの魅力に惹かれてミステリを読む」ということと、ミステリ業界の方が嫌っているという「キャラ萌え」的読み方というものの間は、ほんの一線なのですが、それでも底知れぬ深さのある一線ではないかと思いますので、あまり過剰反応しないでいただきたいなあという気もいたします。それに、作品は、いったん作者の手を放れてしまえばもう作者だけのものではありません。法的にどうとかいうお話ではなく、気持ちの問題です。いろいろな人がいて、いろいろな楽しみ方がある。それを、これだけが正しい読み方だ、と上から決めつけられるのも、窮屈にすぎると思われます。
[PR]
トラックバックURL : http://fwest.exblog.jp/tb/3568079
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
by n_umigame | 2006-08-13 17:34 | | Trackback | Comments(0)

Welcome. 本と好きなものがたり。


by n_umigame
プロフィールを見る
画像一覧