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『神話の心理学 : 現代人の生き方のヒント』 河合隼雄・著/大和書房

ひところ河合隼雄さんの著作ばかり読んでいた時期がありました。
おかげで『ゲド戦記』に出会えたという大恩があり、これだけでも河合隼雄さんには感謝してあまりあるのですが、それにしても、(気持ち的に以下反転→)文化庁長官に就任されてからの著作には以前のような切れがないように思われます。
雑誌「ダ・ヴィンチ」で「河合先生は笑顔の時も目が笑っていない」と書いている記者の方がいて、「だよねー…」と激しく共感しました。単に性格的に冷淡で誠意がないので、いつ見てもこういう笑顔しかできないのかもという人もいますが、河合隼雄さんの場合、ご職業柄、人間の業(ごう)を思わざるをえないようなことどもをさまざまご覧になってきているでしょうし、そういう意味で、文字通り白刃をかいくぐってきた歴戦の戦士でいらっしゃると思います。

ですので、平易な文章でつづられてはいますが、内容はどれもシビアです。
(高島俊男さんが、「ハーヴァード大学では”考え抜かれた思考は平易に表現しうる”という考えのもとに学生に論文指導をするそうだが、まさしくそうで、こむつかしく書いてあったら「こいつは大したやつじゃない」と踏み倒して大過ない。」と書いておられましたが、本を読めば読むほど、そう思います。文句を言っている人の中には、己の読解力を振り返った方がいいんじゃ…という人も、まれにいますが。)

一般向けには、「自分が生きた」と言えるような人生にするためには、いったいどうすればいいのだろうか、ということに、真摯に向き合うような著作が多いのですが、だからといって「あなたはそのままでいいんだよ」というような、甘い言葉では語りかけてはこられません。ご自分が真剣で勝負をしてかいくぐってこられたので、読者にも同じものを求められるのでしょう。数々の児童文学も、結局は、自分の人生を生きるとはどういうことか、人生にふりかかってくるさまざまな心理的ピンチをいかにしてくぐり抜けるか、というためのテキストとして使ってらっしゃいます。(ですので、こういう読み方しかできなくなってしまっても、つまらないとは思いますが)

心理学者だから何でも見透かされてしまうと思っている人がいるが、「人の心などわかるはずがない」のだ、と、書いておられるのを読んで、この人は本物だ、と思いました。だって、心理学者のくせに人の心がわからないの? と言い出す人だっているかもしれないのに。
本当にこう思える人がどれほどいるでしょうか。「おまえの考えていることなら何でもわかる」と思いがち、決めつけがち、言いがちな人が、心理学者でなくても、日常的に出くわしてげんなりされた経験のあるかたも多いと思います。

中島敦の『名人伝』の弓の達人がとうとう弓というものすら忘れてしまったように。
『ゲド戦記』のゲドが偉大になればなるほど魔法を使わなくなってゆくように。
名人、きわまれり。という気がいたしました。
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by n_umigame | 2006-08-17 18:10 | | Trackback | Comments(0)
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