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『贋作展覧会』 トーマ・ナルスジャック・著/稲葉明雄、北村良三訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

エラリイ・クイーンの邦訳が出ている作品を全部読み終わってしまった…というとき、「このあと何読んだらいいんだろう……」という茫然とした気持ちになった、と書いてらした方がいらっしゃったのですが、わたくしも、ちょっとそのような気持ちになりました。

もうおなかいっぱい、ミステリ飽きた、ということではないのです。

事実クイーンを読む前は気が向いたときしかミステリを読まなかった人間が、積極的にあれこれ読んでみたいと思うようになったのですから。クイーンの偉大さはあれこれ言われておりますが、わたくしは、この、自分が愛してやまなかったミステリという表現形式への扉をじゃんじゃん開き、招き入れることができる、という一点だけで、すばらしい才能だと思います。(自分の愛しているものを他の人にも好きになってもらうのは、なかなか難しいことです。)

そういうことではなく、「このあと何を読んだらこんなに楽しい思いができるのだろうか。」と思ってしまった、ということです。飽きたのではなく、渇望するようになったと申しますか。

で、最初に考えたのが、「日本には大勢クイーンファンがいる」→そして「そのままプロの作家になってクイーンみたいな作品を書いている作家さんがいる」→じゃあ、それ。
ということでしたが、これは、結論を申し上げると、失敗でした。(わたくし個人的には。)
合わなかったというか気持ちが悪かったというか、とにかく、あまり楽しめませんでした。理由は書き出すと売るほどあるのでやめておきますが、「似ている」というのは、「似ているが違うということを思い知ること」、であったということであります。

で、次に考えたのが、そうだ、パスティーシュだ、ということです。
これは、当たりでした!

前置きがどうかと思うほど長くなりましたが、『贋作展覧会』には以下の作品が収められています。
 
・「ルパンの発狂」<モーリス・ルブラン>
 ・「雄牛殺人事件」<S・S・ヴァン・ダイン>
 ・「エルナニの短剣」<ピエール・ボアロー>
 ・「赤い風船の秘密」<エラリイ・クイーン>
 ・「メグレほとんど最後の事件」<ジョルジュ・シムノン>
 ・「赤い蘭」<レックス・スタウト>
 ・「花束も冠もなく」<ジェイムズ・ハドリイ・チェイス>
 
以上、7編です。
トーマ・ナルスジャックはもともと、メグレ警視シリーズのパスティーシュを書き始めたことから、この世界に足を踏み込んだ作家さんだそうです。わたしも、最初は、メグレ警視を邦訳が出ているものを全部読み終わってしまい、次は何を読めばいいの、という時期が、クイーンを読み終わって同じ思いをしていた時期とほぼ重なっていたところへ、メグレもののパスティーシュ専門の作家さんがいたらしい、ということを知り、それがこのトーマ・ナルスジャックでした。

この作品集は、探偵たちの立ち居振る舞いだけでなく、地の文もとても似せて書いてあるようで、翻訳を通してもそれが伝わってきて、読んでいてとても楽しいです。
クイーンのパスティーシュで言うと、地の文で「クイーンは--」というとお父さんの方、リチャード・クイーン警視であるところなどは、『ローマ帽子の謎』を思い起こして良いなあうっとり…だったのですが、ファン(第三者)でなくてはこうは書けないなあ、と感じるところもあります。(例えば、「クイーンは野心家ではなかったが、自尊心があった。」なんて、わかってるじゃないかああ!! と。……すんません、バカで。)
ですが、これは誤訳だったのか、パパかエラリイかで意味が違ってくるのではないかと思われる部分が、謎解きの要になるところなのがちょっと気になりました。
あと、銃をガンガンぶっ放すクイーン警視とか(まあヴェリーの命が掛かってたので…)、カーチェイスとか、外国人から見たアメリカ、という、これも第三者にしか描けないところかなという印象でした。

『贋作展覧会』は第2巻が出る予定だったようで、そちらには、ポワロやピーター卿、ホームズ、ブラウン神父、チャーリー・チャンなどのパスティーシュも収められるはずだったらしく、残念でなりません。ホームズはパスティーシュだけでもひとコレクションなのでまだあきらめがつきますが、ピーター卿のパスティーシュなんて空前絶後だったかもしれないのに。ううう。
早川書房さん、今からでも全然遅くないので、出して下さい。
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by n_umigame | 2006-09-18 21:24 | *ellery queen* | Trackback | Comments(0)
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