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*さいはての西*

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『若者はなぜ3年で辞めるのか?:年功序列が奪う日本の未来』 城繁幸・著(光文社新書)

章タイトルを拾うと、
はじめに「閉塞感の正体」を見きわめる
「若者はなぜ3年で辞めるのか?」
「やる気を失った30代社員たち」
「若者にツケを回す国」
「年功序列の光と影」
「日本人はなぜ年功序列を好むのか?」
「『働く理由』を取り戻す」

となります。『中央公論』の特集、「心を病む30代」と合わせて読まれると、一興かもしれません。

著者は、最初に述べているように、現状をまず認識しましょう、というスタンスで書いており、「では、どうすれば良いのか」という対策は提出されていません。
内容は、年功序列が制度として破綻しているのに、(実状は年功序列と変わらない「成果主義制度」も同じ)自分たちは既得権にしがみつき、根本的な意識を変えなければどうしようもないところまで来ているのに、これまでどおりのやり方を押しと通そうとし、3年以内で辞める新卒者に対して「忍耐が足りない」という程度の認識しかない管理者層にもの申す、ということのようです。
もっとはっきり申し上げると、「年寄りがいつまでも居座るから若者が座れないんだろ、とっとと場所あけろ、んでもって、金も十分持ってるんだからもういいだろ、いいかげん若い者に回せ、あんた一人の人件費で何人若者を雇えると思ってるんだよ。」ということのようです。(身も蓋もない…)

著者とだいたい同世代の者として、言いたいことはよくわかるし、実際にそう言いたくなることもあります。
ですが、「若者にツケ」が回ってくるのは、これはある意味、今に始まったことではなく、ある程度は仕方がない面もあるかと思います。
ネイティブ・アメリカンのように「この土地は我々が祖先から受け継いだものではない、子孫から借りているのだ」という意識があるような、賢明で幸福な民族は、もうこの地球上にはいないでしょう。
上の世代が目先のことしか考えないバカでした、というのは、限りなく不運なことではありますが、そんな不運を背負い込んだのはきっと歴史上われわれだけではなかったはずです。
例えば、戦争で焼け野原になった国土を再建させる羽目になったのは、戦争を起こした年代の人間ではなく、やはり主に若い次世代だったのではないかと思われます。(生き残った「戦争を起こした世代」ももちろん含まれるでしょうが)

バカに「あんたたちって本当にバカだよね」と言ったところで、何か解決するとも思えません。自分たちが、「あんなバカのまねだけはするまい」と決心し、さらに次の世代に「われわれの上の世代はシャレになんないくらいバカだった、だから、まねしちゃだめだよ。」と、バカの見本としての存在価値を認めつつ、反面教師とするほかないのではないでしょうか。くやしいですけれど。子どもは親を選べない。そして部下は上司を選べないのです。

そしてこれは下手をすると姥捨てになるということも少し心配です。「上の世代」とひとくくりにできる問題ではなく、その「上の世代」の中にも犠牲者が大勢いるのです。
また、「平等にチャレンジした結果の勝ち負けなら」格差はあって当然、とする著者の安易さと”成功”のモデルが画一的なのも気になります。努力すればかなうと思いこんでいるのかも知れませんが、世の中には、個人の努力だけではどうしようもない、環境の不運や病気など、思いもよらないこととも戦わなければならない人が大勢いるのです。東大の法学部を出て富士通に入社し、自分の意志で退職した人には、「努力ができることも才能」なのだということが、わからないのかもしれません。
そして、才能は人間に公平に与えられるものではないのです。
人間は生まれながらにして平等です。ですが、公平には生まれつきません。人間は公平に生まれつく、という考え方がどれだけ人間を不幸にしているかしれません。
公平に生まれつかなかった人たちを、「あいつらは努力しなかったのだから切り捨てられて当然だ」と考え、言ってはばからない安直さに、うすら寒いものを感じます。
誰かが何となく決めた画一的な”成功”のモデルに乗らなくても、ちゃんと生きている人であれば全員共存できる社会というのが、まともな社会であるように思います。(そのために必要最低限のお金というものはありますが)

ですが、何はともあれ、すぐに辞めてしまう若者を嘆く前に、我が身を振り返ってなぜ逃げられるのかを考えたらどうなんだ、という点は、大いに賛同いたします。(が、自分はちっとも悪くない、と思っている人間に、視点を変えろ、というアドバイスは往々にして役に立たないことも多いです。しかも相手は頭の固くなってくる世代ですからねえ。相手を変えようなんて思わずに、こちらが変わる方が早いからどんどん辞めちゃうってのも良いかも知れない。荒療治だけど、働き手がいなくなって、ろくに何の訓練も積んだことのないこらえ性のない口ばっかりの社会人が叢生したら早晩日本もいろいろ崩壊して、うわ、これはマジやばいと思ったら腹が据わってみんなの意識が変わって良い方にごろん、と変わる…なーんてね。根拠はありません。…無責任な。)
by n_umigame | 2006-09-22 23:30 |