『レイチェル』 ダフネ デュ・モーリア著/務台夏子訳(創元推理文庫)東京創元社

亡き父に代わり、わたしを育てた従兄アンブローズが、イタリアで結婚し、急逝した。わたしは彼の妻レイチェルを恨んだが、彼女に会うやいなや、心を奪われる。財産を相続したら、レイチェルを妻に迎えよう。が、遺された手紙が、想いに影を落とす…アンブローズは彼女に殺されたのか?せめぎあう恋と疑惑。もうひとつの『レベッカ』として世評高い傑作、新訳でここに復活。


ヒッチコックの『鳥』『レベッカ』の原作者としても名高いデュ・モーリアの作品です。長いことツンドクになっていたものです。
長いことツンドクにしておいたのは、読むタイミングを誤ると痛い目をみるとわかっていたからですが(デュ・モーリアが安易なハッピーエンドのお話を書くわけないし)、読者の「不安」を煽り読み始めたら止まらなくさせる手管には相変わらず舌をまきました。

物語は「わたし」ことフィリップの一人称で語られます。
父代わりでもあり兄代わりでもあった最愛のアンブローズに、自分以外に愛情を注ぐ対象ができたことで始まった子どもっぽい嫉妬が、やがてあれだけ憎んでいた姿なきレベッカを目の前にしたとたん憎しみとは正反対に揺れるフィリップの心情が、読者にも全然違和感がないように語られます。
180度に振り切れた振り子が手を離したらどうなるか、わかりきったことではありますが、「大好き」の正反対は「大嫌い」ではない、ということが、これだけ上手に語ることができる作家もめずらしい。

フィリップの、世間知らずの子どもっぽい思いこみ大爆発の一人称で語られるので、読者は「おいおい、ちょっと落ち着いたらどや」とか「この人の意見ももっともだろ、ちょっとは人の話も聞かんかい」と、ハラハラしながら読むはめになり、最後はこうならなければああしかないだろう、という説得力をもって迫ってくるのですが、もーこれだからデュ・モーリアは怖いですよ…。
レベッカは悪女か。
「結果的に」悪女であると言えるかもしれません。
けれども、レベッカに悪気はないのですよね。だから始末に悪い。

いやーな不安が原動力になってはらはらどきどきさせられたあげく、バッド・エンディングでばっさり終わるお話が読みたいときにはオススメです。(←絶賛ですから。)

この終わり方、ヘミングウエイの『武器よさらば』とどっちが「ここで終わりかそんなひどい話があるか大賞」でしょうというくらい、「ばっさりの横綱」の東西を競う作品だと思います。
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by n_umigame | 2007-07-28 16:31 | | Trackback | Comments(0)

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