*さいはての西*

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『ビター・ブラッド』 雫井脩介著(幻冬舎)

仕事仕事でろくに家庭を振り返らなかった父親。
そんな父親に愛想をつかしたのか、家族を置いて行方不明になった母親。
少年の頃、家庭を捨て、壊したのは父親のせいだと思っている主人公・夏樹は、父親を恨んで育った。
やがて父親と同じ刑事になった夏樹は、警視庁のベテラン刑事である父親ととある事件がきっかけでコンビを組むことになったが、事件は迷走し…。

父親と同じ職業についた息子、父子の軋轢、迷走する殺人事件、とこれだけ材料がそろっていれば、主人公のビルドゥングス・ロマンか父子の徹底抗戦物語か、いずれにせよにせみさんにはかなりストライクゾーンに近いお話が読めるかも! と期待して読んだのでしたが、うーーーーん…。
ちょっと全体的に軽すぎる印象です。
『犯人に告ぐ』を読みかけたときにも思ったのですが、この作家さんの描くオヤジはオヤジらしくないです。
何が違うのかうまく言語化できないのですが、オヤジってのはもっとこう……こう、さあ…! ねえ!?
夏樹が「社会人になって何年たってんの」と思うような、男子中高生みたいなしゃべりかたということもあいまって(警察みたいなウルトラタテ社会でこんなしゃべり方しかできなかったらかなりやばいと思うんですけど)、この父親が小学生の男の子のお父さんならこれでもいいか。という感じです。父親にとっては息子は子どものまま時間が止まっているのかもしれませんが、だったらそれはそれでほかに描きようがあった気がします。
また、夏樹は口では父親に反抗するのですが、これも3歳児の反抗期かと思うような反抗のしかたで…ここまで大人になっても許せないほどの骨肉に対する憎しみというのは、もっと空虚感があると思うのですよ。「よりにもよってなんでこいつが俺の親なんだ」というところから始まって、実の親との関係がうまくいかなくて悩んでいる人の話が書かれた本などを読んでいると、夏樹の悩みはまだまだ甘いと思わざるをえません。(親との関係如何で自分の人生そのものもうまくいかなくなり、死ぬまで悩んでいる人がおおぜいいるのですから)

で、安直にハッピーエンドになるジュヴナイルなどならこれで良かったかも知れないのですが、大人向けに描かれたお話で、ミステリの部分はけっこうヘヴィなのでよけいギャップを感じました。
ただ、夏樹や父・明村の仕事仲間の刑事たちも、こういう話の展開ならもっと鬱屈していてもいいと思うのですが、なぜか全体的に軽くて明るい感じです。これを横山秀夫さんが書いたらきっともっと仲間同士の泥仕合が見られたのではないかと思います。なんというか、仲間内は仲が悪いくせに外に向かっては団結している「警察という組織」を描かせると、やはり横山さんの描き方にわたくしは一票です。横山さんのお話は、人生はつらいけれどちょっぴりいいこともある、というこの「かすかな光」を描くのがやはり上手だと思います。
落ち込んでいるときにやたらポジティブな歌を聴くと「人の気も知らないでいい気なもんだ」と思ってしまいよけいに落ち込むように、本当に本当につらいときには人はまず「つらいよね」と言ってもらいたいものです。
雫井さんのお話はもうわたくしのようにとうが立ってしまった者には、ディズニー・アニメのように明るすぎるのかもしれません。

ですがこの「軽さ」が著者の持ち味なのでしょう。
安直でも薄っぺらでもとにかくひととき本の世界に逃避できればいいの、という方には、オススメです。
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by n_umigame | 2007-09-09 12:20 | ミステリ | Trackback | Comments(0)
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