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『ずっとお城で暮らしてる』 シャーリイ・ジャクスン著/市田泉訳(創元推理文庫)東京創元社

あたしはメアリ・キャサリン・ブラックウッド。ほかの家族が殺されたこの屋敷で、姉のコニーと暮らしている……。悪意に満ちた外界に背を向け、空想が彩る閉じた世界で過ごす幸せな日々。しかし従兄チャールズの来訪が、美しく病んだ世界に大きな変化をもたらそうとしていた。“魔女”と呼ばれた女流作家が、超自然的要素を排し、少女の視線から人間心理に潜む邪悪を描いた傑作。解説=桜庭一樹


学研から出版されたものの再刊・新訳。

旧訳の方が主人公のしゃべり方などが庶民的でしたが、お屋敷のお嬢さんなので新訳のこちらの方が適切なのかもしれません。イントロの囃し歌は旧訳の方が調子が良くて個人的には好きです。

いやー……何度読んでも、不愉快で泣きそうです(笑)。

人間の悪意というものを、ここまで包み隠さず、しかもいやなリアリティあふれる描き方で描ける作家さんはまれだと思われます。
登場人物は全員壊れているのですが(うう、身も蓋もない…)、今回再読してみて、語り手のメアリ・キャサリン(メリキャット)がどう考えても狂っているのだから、このお話そのものもいったいどこまで事実なのかわからない、ということに気が付きました。

あと、改めてショックだったのがこれが舞台がアメリカである(昔でしょうけど)ということ。

10代半ばくらいまでわたしは、アメリカはあれだけいろいろな民族文化が混沌としてできあがった若い国なのだから、さぞ一人一人の多様性が認められる、「違うということ」が認められる国なのであろうと思っていました。
あるいはそうであろうとする希望を抱えた国であろう、と思っていました。
しかしいろいろな情報から得た知識はどんどんそのイメージを崩すばかりで、昨今のアメリカは「差異を認める」どころかたったひとつの価値観を世界中に押しつけて回る「究極のオレ様国家」で、世界中から揶揄され笑いものにされるような国になってしまいました。

おそらくもとからその危うさを抱えていたのだということを、こういうお話を読むとしみじみと考えてしまいます。
原作が発表されたのは1962年。
ベトナム戦争が始まり、ケネディ暗殺によって戦線撤退の計画は頓挫し、どんどん泥沼に突入していった時代。
シャーリイ・ジャクスン、畏るべし、であります。
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by n_umigame | 2007-09-09 12:58 | | Trackback(1) | Comments(0)
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Tracked from 雲上四季 at 2007-09-26 18:22
タイトル : [感想][★★]シャーリイ・ジャクスン『ずっとお城で暮ら..
ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫 F シ 5-2) 作者: シャーリイ・ジャクスン, 市田泉 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2007/08 メディア: 文庫  ドキドキしたー。読んでいてこんなにもドキドキした本は久しぶり。感想はこちら。  本書が不安な小説だからだ。足場... more